資産価値でロレックスにも劣らない『パテックフィリップ』の魅力
(画像=IViewfinder/stock.adobe.com)

(本記事は、並木 浩一氏の著書『ロレックスが買えない』=CCCメディアハウス、2023年3月20日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「資産価値」として、ロレックスに勝るとも劣らない

おすすめブランド|3パテック フィリップ

売却しなければ現実化しない皮算用ではあるが、資産価値としてのロレックスは群を抜く。それでもロレックスと匹敵する数少ないブランドがパテック フィリップである。自ら最高峰と表明する自信に満ちたブランドであり、肯定する材料には事欠かない。

パテック フィリップは、場合によってはロレックスよりもはるかに評価される腕時計を擁する存在である。「コスモグラフ デイトナ」の話題性が先行しているが、実はいま最も品薄をいわれているのが、パテック フィリップの「ノーチラス」である。これは腕時計の業界ではよく知られていることだ。

パテック フィリップの魅力は、同時代のなかで抜きん出た技術力と、美術工芸品レベルの造形・仕上げの美しさである。実際、現在もスイス腕時計の頂点を極めるブランドとして君臨するパテック フィリップの腕時計は、アンティーク市場でも別格の扱いを受け、オークションの花形でもある。

180年を超える歴史のなかで、常に最高品質のみを追ってきたブランドの腕時計は、希少で貴重な品なのだ。コレクターズ・アイテムの代表格であるパテック フィリップの腕時計は、市場への流通が要望に対して極めて少ない。稀に姿を現す過去を代表するような名品は、美術品に等しい扱いを受け、天文学的な価格が付くことも珍しくない。

過去の品をつぶさにみてみると、パテック フィリップは明らかに、時計を美術工芸品として捉えていたことが明白である。たとえば針一本をとってみても、一般的に行われていたように金属の板から型抜きしてつくったのではなく、多くは金の塊から削り出したものなのである。スイス時計の伝統は、緻密な手作業によって守られている。

王侯貴族、文豪、芸術家、科学者といった、世界の頂点に立つ人々に愛され続けてきたブランドの創業は、1839年5月1日。ロシア圧政下のポーランドで占領に抵抗した将校であり、後に亡命したポーランド貴族(シュラフタ)であるアントワーヌ・ノルベール・ド・パテックが時計師のフランソワ・チャペックとともに設立した。

アントワーヌは1844年、パリでひとりの時計師と遭遇する。ジャン・アドリアン・フィリップというその男は、画期的な機構の懐中時計を、同年に開催されたパリ産工業博覧会に出品、賞を獲得していた。

ジャン・アドリアン・フィリップは、パテックの事業に参加。その当時の常識だったゼンマイを巻き上げるカギに代わり、時計と一体になったリューズを採用した機構は翌年、パテックの特許となる。

この年に誕生したミニッツリピーター(音で時刻を知らせる複雑機構の最高峰)懐中時計をはじめ、卓抜な技術力はパテック フィリップの名を世に広めていった。チャペックが離れた会社は、1851年に正式に「パテック フィリップ」社となった。

ステイタスは別格である。2014年に東京で開催された「パテック フィリップ展〜歴史の中のタイムピース〜」は、時計に興味がない人の記憶にも、このブランドの名前を刻みつけただろう。

会場は、明治神宮外苑・聖徳記念絵画館。明治神宮が直接運営する特別なミュージアムで実現した異例のエクスポジションは、日本とスイスの国交樹立150周年、パテックフィリップ創業175周年にあたる年の、一度だけの特別企画だった。

厳選されスイスから空輸された展示品の中には、スイスから運ばれたヴィクトリア女王の伝説のペンダントウォッチや、オーストリア=ハンガリー帝国皇妃エリザベート愛用の可憐なウォッチも含まれていた。

そうしたブランドにあって、「ノーチラス」や同じくスポーツモデルである「アクアノート」は、どちらかというと異色のモデルかもしれない。

パテック フィリップは、「カラトラバ」という1930年代から続くドレスウォッチの一大ロングセラーを擁している。なおかつコンプリケーション、グランドコンプリケーションといわれる複雑時計の世界でも圧倒的にほかをリードする。エナメル技法などスイスの伝統を継承し、美術工芸品レベルの時計を生み出し続ける存在でもある。

そもそもパテック フィリップは、英国ロンドンで開催された第1回万国博覧会で「時のヴィクトリア女王」の心を射止めたブランド。ときめく大英帝国の女王はその後、パテック フィリップ最初の上顧客になったというほどの伝説をもつ。

ロレックスが買えない
(画像=『ロレックスが買えない』より)
イラスト:小阪大樹氏

アクアノート

パテック フィリップの「アクアノート」は「ノーチラス」と並ぶ、憧れのスポーツウォッチだ。丸みを帯びた8角形のケース外観は、「ノーチラス」からインスピレーションを得て創作されたものであることを、ブランド自身も認めている。「ノーチラス」の誕生した1976年から遅れること19年、1997年に発表されると同時に大きな話題を呼んだ。「ノーチラス」は2022年末現在、ステンレススティール製の3針モデルが生産を中止し、幻の品となっている。一方、「アクアノート」にはステンレススティール製の3針モデルがあり、しかもブレスレット仕様でもラインアップされている。こちらも入手が難しいことに変わりはないが、カタログにはちゃんと掲載されている。コレクションのほとんどは、ブレスレットではなく「トロピカル バンド」仕様。牽引耐性、紫外線耐性に優れた、ラバーとは似て非なる、独自開発のハイテク・コンポジット素材を用いている。

ロレックスが買えない
並木 浩一
腕時計ジャーナリスト
桐蔭横浜大学教授(博士)

1961年横浜市生まれ。ダイヤモンド社にて雑誌編集長、編集委員を経て現職。1990年代よりスイスの2大国際時計見本市(バーゼル、ジュネーブ)を含めて、国内外の時計界を取材し、高級腕時計の書き手として第一線で活躍。
学術論文も発表、テレビ・新聞でも多数コメント。
生涯学習機関の「学習院さくらアカデミー」と「早稲田大学エクステンションセンター」では、一般受講可能な腕時計講座も開講している。
主な著書に『腕時計一生もの』(光文社新書)『腕時計のこだわり』(SB新書)『男はなぜ腕時計にこだわるのか』(講談社)など。雑誌では、「並木浩一の時計文化論」(『ウォッチナビ』/ワン・パブリッシング)、「並木教授の腕時計デザイン論」(『Pen』/CCCメディアハウス)等を連載中。

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