国際社会のSDGs(持続可能な開発目標)に対する関心を背景に、金融機関にも持続可能な社会づくりの役割が求められ、サステナブルファイナンスへの関心が高まっています。日本でも金融庁による有識者会議が発足するなど、今後国内においてもサステナブルファイナンスの推進が期待されています。今回は、このサステナブルファイナンスの定義や代表的なファイナンス手法、国内外の動向などについて整理してみました。また、国内金融機関の取り組み事例についても紹介します。
目次
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サステナブルファイナンスとは?
SDGsやサステナブルという言葉は最近よく耳にするようになりましたが、サステナブルにファイナンス(金融)がプラスされると、どのような意味になるのでしょうか。まずは、サステナブルファイナンスの定義や必要性、世界で拡大する背景について見ていきましょう。
サステナブルファイナンスの定義
サステナブルファイナンスの定義は様々ですが、、国際標準化機構(ISO)のサステナブルファイナンス技術委員会では、「SDGsの達成と気候変動への対応を支援するための金融、ならびに関連する制度や市場の取り決め」としています。
サステナブルファイナンスの必要性
現在、世界では気象災害の頻発、環境問題や経済的格差の拡大、人権問題などのさまざまな課題があり、社会の持続可能性が危ぶまれる状況です。そして、これらは経済活動とも密接に関係しています。持続可能な社会の実現に向けては、投融資先を判断し、経済活動を左右する金融機関や投資家が重要な役割を担います。このような背景から、投融資の判断にESG(E:環境・S:社会・G:ガバナンス)の要素などを取り入れたサステナブルファイナンスを重視する潮流が生まれました。
サステナブルファイナンスが拡大する背景
金融機関や投資家の役割が変化する契機となったのが、2006年に発表された責任投資原則(PRI)です。責任投資原則は、投資家がESGに配慮した持続可能な投資を行うための枠組みです。投資分析と意思決定のプロセスに、ESG課題を組み込むなどの6つの原則で構成されています。さらに2019年には、PRIの銀行版ともいえる「責任銀行原則(PRB)」が立てられました。現在では、PRIとPRBに賛同して署名する投資家や銀行が増え、サステナブルファイナンスが世界中で広まりつつあることがわかります。
サステナブルファイナンスの代表的な手法
次に具体的なサステナブルファイナンスの手法について紹介します。株式投資・債券・銀行融資に分けて、どのような手法があるのかを見ていきましょう。
ESG投資
株式投資の判断の際に、ESGなどの情報を考慮する方法で、次の7つに分けられます。
- ネガティブスクリーニング:倫理的でないとされる特定の業種・企業(武器製造業、二酸化炭素排出量の多い化石燃料関連企業など)を投資対象から除外
- ポジティブスクリーニング:ESG評価が高い企業を投資対象とする(例:二酸化炭素排出量0達成を維持するグリーン企業への投資)
- 国際規範スクリーニング:ESGに関する国際規範に反した企業を除外
- ESGインテグレーション:投資先を分析する際にESG要因を組み込む
- サステナブルテーマ投資:サステナブル関連企業やプロジェクトへ投資
- インパクト投資:環境や社会の問題解決を目的とする企業に投資
- エンゲージメント・議決権行使:株主の立場から議決権行使や情報開示要求などを企業へ提案
世界的には、ネガティブスクリーニングとポジティブスクリーニングを投資判断に適用、次にESGインテグレーションが続きます。日本では、エンゲージメント・議決権行使が最も多く取り入れられています。
SDGs債
SDGs債は、グリーンファイナンスやサステナブルファイナンスに特化して発行される債券です。
- グリーンボンド:資金使途を環境改善効果のあるプロジェクトに限定
- ソーシャルボンド:資金使途を社会課題解決のためのプロジェクトに限定
- サステナビリティボンド:資金使途は限定しないが、事前に設定した目標達成を約束することが条件
現段階で最も発行額が多いのは、グリーンボンドです。これらの債権を発行するためのさまざまな原則やガイドラインが制定されています。詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
サステナブル融資
サステナブル融資とは、金融機関が環境・社会問題に関する融資ポリシーを策定して融資方針を明確化し、それに基づいて融資を行うことです。例えば、気候問題に対応するため新設の石炭火力発電所へ融資を行わないことなどの具体例があげられます。
融資のガイドラインとして、代表的なのが赤道原則(Equator Principles)です。大規模なインフラ建設プロジェクトへ融資する際に、環境や社会に与えるリスクの回避・軽減を配慮して実施されることを確認する基準となっています。日本ではメガバンクを始めとする8機関が採択しています。
別の融資方法として、資金使途の目標を設定してその達成状況に応じて融資するグリーン・ローン、サステナビリティ・ローンなどがあります。
サステナブルファイナンスの国内外の動向
世界的な広がりを見せるサステナブルファイナンス。その動きは今後益々活発化しそうです。次に、サステナブルファイナンスの推進を先導するEUと、日本国内の動向について見ていきましょう。
EU:世界に先駆けて政策を推進
サステナブルファイナンスを政策的に推進しているのがEUです。2016年には、サステナブルファイナンスのハイレベル専門家グループ(HLEG)が設立され、2018年の報告書に基づいて、アクションプランが提出されました。なかでも注目されているのが「EUタクソノミー」です。EUのグリーンボンド基準や非財務情報開示指令、投資家によるサステナビリティ開示は、このEUタクソノミーに準拠すると言われ、今後の企業融資の判断基準になるとされています。
2019年12月には、2050年までに温室効果ガスをゼロにする目標を掲げた「欧州グリーンディール」を発表し、雇用を創出しながら排出量を削減していく新しい成長戦略として位置づけています。
EUにおけるサステナブルファイナンス推進の動きは、世界中に波及しています。2018年の世界のESG投資額は30.7兆ドルにも及び、金融分野においても重要な投資判断基準として認識されつつあります。
日本:2050年のカーボンニュートラル実現に向け急速に拡大
日本でも2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指し、グリーン成長戦略が打ち出されました。2021年4月には、2030年度の温室効果ガス削減目標の引き上げを表明。3,000兆円とも言われる世界のESG投資資金を日本企業への活用につなげるには、成長資金が脱炭素の取組みに活用されるように金融機関などが金融機能を適切に発揮することが重要です。このような観点から、金融庁に「サステナブルファイナンス有識者会議」が設置され、2021年6月には報告書が提出されました。
この報告書では、民間セクターが主体となりつつも政策的な推進が重要であること、インパクトファイナンスの普及と実践、タクソノミーに関する国際的議論への参画の重要性などが提言されました。また、サステナビリティ情報の企業開示のあり方や、主要プレイヤーである市場の役割などについてもまとめられています。
2018年の国内におけるESG投資残高は231兆円、グリーンボンドの発行額は5,000億円を超えるなど、急速な拡大を見せています。日本企業の資金調達は、銀行預金からの間接金融の割合が高いため、間接金融にその考え方を取り込むことが、サステナブルファイナンスが今後一層普及するためのカギとなるでしょう。
日本の金融機関のサステナブルファイナンス活用事例
日本国内の金融機関は、どのようにサステナビリティに取り組んでいるのでしょうか。ここでは、保険会社とメガバンク、地方銀行の活用事例を紹介します。
SOMPOグループ
SOMPOグループは、日本の保険会社の中でもいち早くPRIに署名しました。石炭火力発電所の新設に対する保険引受・投融資を原則として行わないなど、ESGへの取組みを考慮した企業への投融資を推進しています。機関投資家向けのESGファンドや個人向けのSRIファンドも運用しています。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
MUFGは2020年9月、世界初となるリテール向けコロナ対応型サステナビリティボンドを発行しました。ASEANのパートナーバンクとネットワークを構築し、ESGファイナンスを積極的に推進しています。2021年4月、新設の石炭火力発電所だけでなく、既存施設の拡張への融資も停止すると発表しました。2021年5月には、日本の銀行として初めてネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)に加盟しています。
滋賀銀行
地方銀行の中で先駆けてSDGsに取り組んできたのが滋賀銀行です。滋賀県は、「三方よし」の経営理念で知られる近江商人が生まれた地域であり、琵琶湖の水質汚染問題解決に市民が一丸となって取り組んできた歴史もあることから、SDGsの思想と融合しやすい土壌があると言われます。
この地域の金融を長年支えてきた滋賀銀行は、2017年に「しがぎんSDGs宣言」を発表しました。ESGファイナンスも積極的に活用し、サステナビリティ・リンク・ローンやグリーンボンドなどを取り扱っています。
サステナブルファイナンスの活用は今後益々拡大
日本でも政府による2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けたグリーン成長戦略が推進され、今後はメガバンクだけでなく、地域金融機関にもサステナブルファイナンスの考え方が広がってくることが予想されます。金融機関には、サステナブルファイナンスによる持続可能な地域づくりへの貢献にも、大いに期待が寄せられています。
※本記事の内容には「Octo Knot」独自の見解が含まれており、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。