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「自分の相続のときには、家族が財産をめぐってトラブルになるようなことは絶対に避けたい…」
「自分が認知症になってしまった後にも、資産運用や相続税対策はしっかりと行う仕組みを作っておきたい」

このようなニーズをお持ちの方から最近注目されているのが、「民事信託」という方法です。

今回は、民事信託とは具体的にどういう方法なのか、メリットやデメリットとしてどのようなことが考えられるのかなどについてわかりやすく解説させていただきます。

1. 民事信託とは何か

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民事信託とは「信託」の一つの形です。

信託とは、ごく簡単にいうと「自分の財産を誰かに預けて有効活用してもらい、そこから得られた利益を自分が受け取る方法」のことですが、民事信託もこの信託の一つのバリエーションというわけです。

「信託」というと資産運用をされているかたにとっては「投資信託」がなじみがあると思います。

投資信託では受託者は金融機関などがなり、信託報酬を受け取りながら財産の運用管理を行い、発生した収益を受益者に対して分配するという形がとられます。

一方で、民事信託では受託者は相続人となる予定の家族が無報酬でなるケースが多いです。

民事信託は投資信託を「家族の問題」に適したかたちに改良した制度ということができます。

このような信託の形は本来金融機関などの信託業者でないと受託することができませんでしたが、平成19年から施行されている新信託法のもとでは、営利を目的としない形なら信託業者以外の人が受託者となることができるようになりました。

近年、新たな相続の方法として民事信託が注目され始めたのはこの新信託法の施行がきっかけといえます。

民事信託の具体的な活用事例について、次の項目で説明させていただきます。

2. 民事信託の活用事例

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相続や認知症の対策としては、遺言書を残す方法や成年後見制度を活用するといった方法が一般的ですよね。

しかし、民事信託はこれらの方法(遺言書や成年後見制度)では実現できないメリットが期待できるのです。

民事信託を活用すると、具体的には以下のようなケースで遺言や成年後見では得られないメリットが生じます。

2-1. 認知症対策に使う場合

財産を持っている人が認知症になってしまうと、自分の財産を適切に処分したり管理したりすることが難しくなります。

対策としては、認知症となってしまう前に「自分が認知症になった後には、この人に財産を管理処分を任せます」と意思表示をしておくことが考えられます。

このような方法としてはすでに「成年後見制度」という方法がありますが、成年後見制度には以下のようなデメリットがあります。

・実際に認知症になるまでは、成年後見の形をスタートすることができない
・裁判所を通して手続きを行うので、柔軟な資産運用が難しい
・自分の財産すべてについて情報を開示しなくてはならず、税金対策上有効でないことがある
・金額の大きい財産を移転するときには、そのつど家庭裁判所の許可が必要になる

ひとことでいうと「柔軟に資産の運用管理をするのが難しい」ということがいえますが、この点で民事信託はよりスムーズに財産の管理運用を行うことが可能です。

民事信託は専門家との「信託契約」という形で財産の運用方法を定めることができますから、自分の財産の一部のみを誰かに任せたり、「こういう状態になったら、これだけのお金を使う」というように柔軟に財産の使い道を指定したりすることができるのです。

2-2. 事業者が跡継ぎ問題の解決のため使う場合

中小企業経営者にとって常に頭の痛い問題が「跡継ぎを誰にするか?」という問題だと思います。

能力的に優れた後継者がすでにいる、という方であれば問題ありませんが、創業社長からみて何の心配もなく後を任せられる人材が身近にいる…というのは非常に珍しいケースといえるでしょう。

また、遺言書で後継者に自分が所有している株式などを取得させたとしても、後継者が「事業はもう嫌になったから、だれかに譲ってしまおう…」と考えたとすると、第三者に株式を売却してしまうかもしれません。

遺言では自分の次の世代の人(後継者)に財産を取得することはできますが、その後継者が受け継いだ財産をどう使うか?については定めることが難しいのです。

このような場合にも、民事信託は有効に機能します。

民事信託では「3代先」まで財産を取得する人を決めておくことができますので、例えば「自分の次には弟が社長となり、さらにそのあとには息子が社長になる」というようなことを事前にさだめておくことができるです。

※このような方法を「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と呼びます。

2-3. 子供がいない夫婦の活用事例

民事信託は、子供がいない夫婦の相続問題にも使いやすい方法です。

通常、夫が亡くなった後には妻が財産を相続することになりますが、さらにそのあと妻がなくなった場合には、「妻の親族」が夫の財産を引き継ぐことになります。

先祖代々の土地などの財産の場合、血族関係のない人が相続してしまうことに抵抗がある…というケースも少なくないでしょう。

また、自分は事業者として経験があるけれど、妻は事業に全く関与してこなかったので、自分の死後に財産を任せるのは不安…ということもあるでしょう。

そのような場合にも民事信託を使うことにはメリットがあります。

例えば、自分の財産の管理は専門家に任せ、自分の死後の妻の生活費などについては毎月年金のような形でまかなうということが可能です。

さらに後に妻がなくなった場合には信託は終了し、残った財産についてはさらに別の人が取得するのを定めておくということができます。

2-4. 倒産対策(倒産隔離機能)

民事信託によって信託の対象となった財産は、委託者からも受任者からも隔離された財産となります。

そのため、万が一委託者、受任者が自己破産をする必要が生じた場合にも、信託財産は債権者に分配する必要がなくなります。

ただし、最初から計画的に自己破産後の財産を確保する目的で民事信託を利用するようなケースでは「詐害信託」として信託契約の効力が認められない場合もありますので注意しましょう。

また、受任者側が自己破産したような場合にも、信託財産と受任者の財産とは分離されていますから、受任者の債権者が信託財産に強制執行をかけてくる心配もありません。

なお、受任者が自己破産すると信託契約は自動的に終了しますので、その後にはまた別の受任者を指定する必要があることは知っておきましょう。

3. 民事信託の種類

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民事信託を実際に行う際には、契約方法の違いによって以下のような分類があります。

3-1. 自己信託

通常、信託の法律関係は「委託者、受託者、受益者」の3者がかかわることになりますが、「委託者=受託者」という関係とすることも可能です。

この「委託者=受託者」となるケースを「自己信託」と呼びます。

通常の相続では相続人の間で財産をめぐって不公平感が生じる可能性がある場合に自己信託は有効に機能します。

例えば、相続財産として収益不動産と預金があり、相続人として長男と次男がいるケースを考えます(長男には不動産を相続させ、次男には預金を相続させたいものの、相続財産の評価額としては不動産のほうが大きくなるような場合)

この場合、不動産を信託財産の対象として自己信託を行い、第一受益者を長男、第二受益者を次男とすることが考えられます。

自己信託の場合、民事信託の契約は公正証書の作成によって行う必要があります。

3-2. 限定責任信託

民事信託では受託者の能力が問われるため、家族を受託者とするような場合には、その家族が受託者となることに躊躇(ちゅうちょ)してしまうというようなケースも考えられます。

このような場合には、民事信託を「限定責任信託」とするのが有効です。

限定責任信託とは信託に関して生じた債務の返済義務を「信託財産の範囲で負担する」という形のことです。

限定責任信託によると、受託者の固有財産については強制執行ができなくなることから、受託者の責任を軽くすることができます。

3-3. 知的財産権の信託

財産が知的財産権などの形である場合、その知的財産権を専門家などの受託者に移転し、受託者がライセンス契約の締結や売却などを行い、受益者に対して発生した収益を分配するという形をとることができます。

これを知的財産権の信託、知財信託などと呼びます。

知財信託では知的財産権を委託者、受託者双方から分離された存在とすることができますから、委託者である事業者などが本業の事業に安心して集中したい場合などに有効活用できます。

4. 遺言や成年後見制度との違い

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上でも少し説明させていただきましたが、民事信託と隣接する制度として「遺言」や「成年後見制度」があります。

以下ではこれらの制度と比較した場合に、民事信託にはどのようなメリット、デメリットがあるのかについて見ていきましょう。

4-1. 遺言にできなくて民事信託にできること

遺言は「相続が発生した後(つまり自分の死後)」に効力が発生するものですから、まだ自分が生きている間には効力を発生させることができません。

民事信託では自分の生前から財産の管理者などを定めておくことができますから、自分の生前と死後の財産管理をスムーズに移行させることが可能になります。

3代先まで受益者を決められる

また、遺言では「自分の次の代」の人に財産を取得させることはできますが、「さらに次の代」の人にどのように財産を取得させるかについては定めることができません。

遺言によって一度相続された財産については、相続人が自由に処分方法を決められるのが原則なのです。

この点、民事信託では「3代先(3代目)」まで財産の取得者を定めておくことができます。

具体的には、信託契約(信託設定)から30年が経過するまでの間に、2回受益者が死亡するまで、受益者をあらかじめ定めておくことが可能です(信託法91条)

不動産をめぐる相続トラブルを避けられる

家族に残す財産のほとんどが不動産の形をとっているという場合、相続人の間で相続をめぐるトラブルが発生してしまう可能性があります。

不動産はわかりやすく平等に分割するということが難しい財産ですから、トラブルになると「売り払ってお金にして分け合う」というような形になってしまうことも珍しくありません。

先祖代々の土地などが相続財産となるような場合、このような形ではもとの財産所有者の望まない形で財産が散逸してしまうということにもなりかねません。

このような場合に民事信託を使うと、例えば、不動産については民事信託の受益者が賃貸不動産などの形で運用し、残された家族に毎月運用益の一部を分配するという形をとることが可能になります。

受任者を家族のうちの一人として、その家族がなくなった後にだれが受益者となるかなどといったことについてもくわしく定めておくことができますから、もとの財産所有者の希望を最大限かなえるかたちで不動産の相続を進めることが可能になります。

遺言書は形式に不備があると無効となる

遺言については遺言書を書き残す形で準備をしておく必要がありますが、この遺言書については作成のルールや形式が厳密に定められています。

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

万が一これらの形式を満たしていない形で遺言書が作成されてしまうと、その遺言内容は無効となってしまいます(この場合、民法が定めるルールによって相続が行われます:配偶者が2分の1、子供が2分の1といったかたちです)

また、遺言書を自筆証書遺言として残したような場合、遺言書が相続人によって発見されなかったり、隠されたりしてしまったりした場合には遺言そのものがなかったものとして扱われかねません。

この点、民事信託を活用すれば自分の生前から財産をどのような形で分配するかについてある程度の見通しを立てておくことが可能です。

自分の生前から信頼できる受任者を見つけておいて、自分の死後もスムーズに財産運用と収益の分配の仕組みを作っておくことができるというわけです。

4-2. 成年後見制度にできなくて民事信託にできること

成年後見制度は自分が認知症になった後に備えて、あらかじめ「自分が認知症になった後にはこの人に財産管理を任せます」という意思表示をしておくことです。

成年後見制度のデメリットとしては、家庭裁判所を通して手続きを行うために機動的に財産管理を行うことが難しいことが挙げられます。

具体的には、自分の財産すべてについて開示をせねばならない点と、大きな財産処分をするときにはそのたびに裁判所の許可が必要になることが問題点として挙げられます(後見開始後には、毎年収支報告を裁判所に対して行わなくてはなりません)

この点、民事信託を使えば自分の財産の一部だけを信託の対象とすることが可能になるほか、任せた財産については受任者が信託契約の内容に基づいて比較的自由に運用管理することが可能になります。

5. 民事信託のデメリットやリスク

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ここまで民事信託を行うことによって得らえるメリットについて説明させていただきましたが、民事信託のデメリットやリスクについても知っておきましょう。

民事信託のデメリットとして考えられるのは、次のような事柄です。

 所得税の計算上「損益通算」ができない
 民事信託では決められないことがある
 税務申告の手続きが増える
 受任者の能力が問われる

民事信託のデメリットは主に事務的な手続き(税務申告など)が多く発生することに関することですが、専門家に相談しながら進めれば事務的な負担は最小限におさえることができます。

以下、これらのデメリットの具体的な内容について順番に見ていきましょう。

5-1. 所得税の計算上「損益通算」ができない

原則的な所得税の計算では、「損益通算」の制度を利用することができます。

損益通算とは、ごく簡単にいうと「異なる種類の所得どうしの黒字と赤字を相殺することができるルール」のことです。

不動産投資などで生じた赤字については別の事業で生じた利益と相殺することが認められるのです。

所得は大きくなればなるほど税金の負担も大きくなりますから、事業などから生じてしまった赤字はできる限り有効に活用することが節税につながります。

例えば事業で生じた所得(事業所得)と不動産投資で生じた所得(不動産所得)とを合算して、プラスの所得とマイナスの所得を合算することが考えられます。

例えば、本業の事業で1000万円の利益が発生したけれど、副業でやっている不動産投資では300万円の損失が発生したというような場合、これら2つを合算してトータル700万円(1000万円-300万円)という形で所得税の税務申告を行うことが可能になります。

また、トータルで損失の方が大きくなったような場合には、翌年以降にも損失を繰り越すことが可能です。

この点、民事信託を利用して不動産投資などを行った場合には、その不動産投資で損失が発生したようなケースでは別の所得と損益通算を行うことはできなくなります。

また、複数の民事信託を設定したような場合、それぞれの民事信託で生じた利益や損失を合算することもできませんので注意しておきましょう。

5-2. 民事信託では決められないことがある

民事信託は財産管理には便利な方法ですが、民事信託の契約内容には含めることができないこともあります。

具体的には以下のような「家族の問題」については信託契約の内容には含めることができません。

  ・遺留分減殺対象となる財産の順序指定
  ・受任者による委託者の身上監護

前者については遺言で、後者については成年後見制度を使って補完する必要があります。

5-3. 税務申告の手続きが増える

信託契約の対象とした財産から収益が発生した場合、その収益から生じる税金につては別途税務申告を毎年行う必要があります。

具体的には「信託計算書」「信託計算書合計表」という2つの書類を税務署に毎年提出し、そこから計算される利益については納税を行う必要があります。

多くの場合は税務申告の手続きは税理士さんに任せることが可能ですから、自分で計算書類を作るのが難しい場合には専門家に依頼するのが適切です。

5-4. 受任者の能力が問われる

民事信託では受任者が委託者に代わって財産管理を行いますから、この受任者が適切に財産管理を行うことができるかどうかによって本来意図した財産の運用が行われるかが左右されることになります。

民事信託の契約内容の決定や、運用方法の指定については必ず専門家(弁護士や司法書士)に相談したうえで決めるようにしましょう。

6. 民事信託を使う場合の税金負担

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民事信託を行う場合の税金負担がどのようになるのか?についても理解しておきましょう。

民事信託は受任者に財産管理を任せ、発生した収益は受益者に分配する仕組みのことです。

収益が発生するところには必ず税金がついてきますから、民事信託を行う場合には以下のような形で税金を負担する必要があります。

6-1. 誰が税金を払うのか?(課税対象者)

ごく簡単にいうと、「利益を受けている人」が税金を払うのが原則となります。

民事信託は基本的に「委託者が受益者に利益を分配するため」に行われますから、税金を負担するのは受益者となるのが普通です。

そのため、委託者がまだ生きているうちに受益者に対して財産を移転したような場合には贈与税が、委託者がなくなったタイミングで受益者が財産を取得するようなケースでは相続税が発生することになります。

また、民事信託による受益権を売買の対象としたような場合には、受益者が個人である場合には所得税が、受益者が法人である場合には法人税が発生することになります。

例外的には固定資産税があり、受託者が不動産の名義人となっているような場合には受託者が固定資産税の納税を行うことになります。

ただし、これについても通常は受託者が受益者に対して「管理費用」として請求するのが普通でしょうから、実質的には受益者が負担することになります。

6-2. 節税メリットは?

このように見ていくと、民事信託を行うことそのものには特別な節税効果はないように見えます。

ただし、民事信託では受託者に対して財産を移転する場合の流通税(不動産取得税など)はかかりませんし、委任者も財産を渡したことによる譲渡所得税なども発生しません。

このことは、多額の不動産などが民事信託の対象となるときに有効性を発揮します。

6-3. 民事信託は流通税の節税になる

例えば、大きな金額の不動産を民事信託によらず家族に譲渡したような場合には不動産取得税や贈与税(譲受人)や譲渡所得税(譲渡人)の形で税金の負担が生じる可能性がありますが、民事信託を使った場合には登録免許税のみの負担で済むことになります。

6-4. 事業承継にからむ税金の節税になる

また、事業承継等にからむ税金の負担を小さくしたい場合にも民事信託は有効に機能します。

事業承継を考える場合、もとの会社のオーナーが会社に対して自分の財産(株式や不動産)を取得させるという方法が一般的ですが、この場合にはオーナーは譲渡所得税、法人側に不動産取得税などが発生してしまいます。

このような場合、民事信託契約をオーナーと会社の間で行えば(受益者は家族としておく)、信託契約を行った時点では税金はかからないことになり、オーナーがなくなったとしても株主として得られる利益は家族が得られるということになるのです。

7. 民事信託の手続き方法

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実際に民事信託を行う場合には、次のような2つの手続き方法を選択できます。

 信託契約による方法
 自己信託による方法

成年後見制度や遺言とは違い、非常にシンプルな契約を結ぶことで民事信託は成立するのも一つのメリットといえるでしょう。

7-1. 信託契約による方法

民事信託の原則的なかたちで、委託者と受託者が契約を行うことによって民事信託のルールを定める方法です。

契約には「誰が受益者となるのか」「財産をどのような目的に使うか」といった方法を定めます。

受益者が成人したらこれだけの財産を渡す、財産はこの目的にのみ使う、というように、委託者のニーズを尊重する形で将来的な財産の使用目的を定めておくことができます(しかも遺言とは違って、委託者の生前にその効果を発生させることが可能です)

民事信託は通常は家族がそれぞれ委託者、受託者となりますが、契約書の作成や有効な民事信託契約の内容を定めるためには、弁護士や司法書士といった専門家に相談するのが適切です。

7-2. 自己信託による方法

通常、民事信託では「委託者・受任者・受益者」の3者が当事者となりますが、「委託者=受益者」となるようなケースは「自己信託(信託宣言ともいいます)」と呼ばれ、やや異なった扱いとなります。

自己信託を選択する場合には受益者の利益を守るために公正証書によって契約を行う必要があります。

自己信託は相続人となる予定の人の同意は必要とせず、また撤回なども自分の意思だけで行うことができるというメリットがあります。

例えば、財産を所有している本人が命に係わる手術を近々受ける必要があるという場合に、そのまま相続が発生してしまうと相続人間で公平に財産を分割するのが難しいケースがあります(長男は不動産、次男は預金を相続するというような場合で、不動産の方が評価額がかなり大きいようなケース)

このような場合に自分自身を委託者=受託者として自己信託を行い、第一受益者を長男、第二受益者を次男としておくと、公平に相続財産を分配することにつながります。

もし手術が無事成功した場合には自己信託は自分の意思で終了とすることもできますから、その後も柔軟に相続対策を考えることも可能です。

8. まとめ

今回は、民事信託のメリットやデメリットについて具体的に説明させていただきました。

まとめると、民事信託は以下のようなニーズのある方にとってメリットの大きい方法といえます。

・相続人がまだ若いので、判断能力がしっかりするまで遺産を渡すのは待たせたい
・遺産を家族に計画的に使ってほしいので、年金の形で渡したい
・相続人がなくなった後の財産の分配方法まで決めておきたい
・何らかの目的のために財産を使ってほしい
・認知症になった後にも資産運用をしっかり行いたい
・認知症になった後も相続税対策をしっかり行いたい
・相続財産は不動産がほとんどなので、相続トラブルが生じるのを避けたい

民事信託については弁護士などの専門家から具体的なアドバイスを受けることができますから、まずは相談してみることをおすすめします。(提供:相続サポートセンター