夜景
(画像=THE OWNER編集部)

クロスボーダーM&Aによる海外進出を検討する企業にとって、どの国のどのような企業とM&Aを行うかは非常に重要なテーマだといえる。経済の成長性や自社事業分野のマーケット事情、さらには生活環境や国民性など、さまざまな視点から考える必要があるだろう。海外でのM&Aを検討する際に必要な視点はどのようなものなのだろうか。

株式会社日本M&Aセンター・海外支援室課長の今井氏に、海外M&Aで注目されている国や、企業の選び方について伺った。

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日本企業は売却オーナーからも人気

──実際に、日本の企業によるM&Aはアジア諸国でどのように受け止められているのでしょうか?

やはり日本のビジネスのレベルが高く評価されていることもあり、どの国でも歓迎されていると思います。現在海外支援室ではシンガポールに拠点を構えていて、社員も10名ほどいます。会社の規模としてはまずまずといったところですが、それを支えているのは日本企業とのM&A取引を歓迎してくれる雰囲気があるからです。

特にシンガポールは観光地としてもメジャーですし、日本でも人気の国ですから、お互いに良い印象を持っていると感じます。マレーシアやベトナム、インドネシアなども日本企業によるM&Aをとても前向きに受け入れている印象です。

もちろん外資規制がある国も少なくはないのですが、企業単位でのお話としては今あげた国は悪くないと考えていただいてよいと思いますよ。

──M&A後に顧客から評価の高かった国はありますか?

私の担当したお客様ですと、ベトナムに進出された建設関連の企業でしょうか。ベトナムはアジアのなかでも比較的日本に近いメンタリティをもった国民性で、穏やかな人が多い印象です。仕事の面でも勤勉で、特に若い世代が貪欲に学ぶ姿勢を目の当たりにして、若手の成長力を高く評価されていましたよ。

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私情を排除し、ビジネス視点で相手企業を見極める

──あまり喜ばしくないことかもしれませんが、国家間の政治的な関係がM&Aに影響することはありますか?

もちろん日本と歴史的・政治的に微妙な関係にある国もありますから、皆無とは言い切れません。とはいえ、あくまでもビジネスとして考える経営者が大多数です。個人として複雑な思いを持っていたとしても、ビジネス的な視点でとらえると無視できない国はありますし、それは合併・買収をする側も、される側も同じことだと思います。

一方で、そうした感情は抜きにしても、自分が大切にしてきた会社をどのような企業に売却するかはオーナーとしては気になるものですから、「誰になら売りたい」「こんな経営者には任せたくない」という気持ちは働くでしょう。

ですがその点でも、日本は海外諸国から「紳士的」「丁寧」というイメージを持たれていますから、日本の企業がM&Aを検討しているというと喜んでいただけることがほとんど。それほど心配する必要はありません。

──異業種間でのM&Aは可能ですか?

実際の案件としても扱っていますので、異業種でもM&Aはできます。ただ、国内M&Aとも共通していますが、やはり同業種のほうがお互いの仕事についてわかる部分も多いので、スムーズに統合していける傾向はあります。

海外では国の違いもありますから、業種も違うとなると「違うもの」が複数になります。「わからない」のかけ合わせで、ストレスはかかりやすいかもしれません。十分なリサーチを経たうえでその業種に強い可能性を見出している、などであればご案内は可能ですが、できれば同業種でのM&Aを検討されることをおすすめしています。

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チェックすべきは「ビジョンを共有・実現できるか」

──M&A先を選ぶ際に、ブレさせずに持っておくべき基準は何だと思われますか?

二つあります。一つは「自分たちが将来どうありたいか」という大前提をもっておくこと。どのように成長し、次世代を担う社員へ何をつないでいきたいか。それらを考えた結果が「日本で頑張る」ということであれば、それも一つの選択です。

経営者が将来像をどれだけ鮮明に描けるかが大切で、その絵を完成させるために必要なピースは何かを考える必要があります。どの国のどの事業なのか、外国に行く必要があるのか、外国の企業を買う必要が本当にあるか……。選択肢はM&A以外にもたくさんありますが、自分の会社をどうしていきたいのかを突き詰めた結果がM&Aであれば、次に必要なのは相手となる会社ですよね。

その次に、相手の会社がそのピースになってくれるかどうかを考えます。「自分はこんな会社にしたい」という将来のビジョンをお互いに共有し、共感してもらえるかを見極めます。

たまたま自分の好きな国で、同じ事業をしているからというだけの理由でM&Aをしてしまうと、将来的に進む方向が合わなくなり、お互いに不幸な結果を招くかもしれません。ですから決断をする前に、経営者と現場クラスの社員ともしっかりとコミュニケーションをはかり、全員が同じ場所をめざして一緒に走れるか、軸がブレていないか確認しあうフェーズをもうける必要があります。

M&Aの成功は何をもって成功とするのかというと、「期待したことが実現したかどうか」だと考えられます。つまり、描いたビジョンが実現できたか、実現に向かって前進しているか。

ですから多くの場合は、その「期待」が何であるかを売却側と買収側で共有しあうことで失敗は避けられるはずです。そうした意味で経営者同士、そして現場のマネージャークラスをまじえてのビジョン共有は必須であると考えています。

中小企業社長が今こそ「海外M&A」を考えるべき理由
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