中国 19年連続で食糧増産も輸入量は高水準続く(写真はイメージ)
(画像=中国 19年連続で食糧増産も輸入量は高水準続く(写真はイメージ))

〈米国一極集中リスクの回避に動く〉
中国は、世界の総人口の約20%、耕地面積の約7%、食糧(コメ、小麦、トウモロコシ、大麦など雑穀類、大豆など豆類、イモ類を含む)生産量の同22%を占めているため、世界の食糧需給バランスに与える影響が大きく、その動向が注目されてきた。中国の食糧生産量は増産が続くが、大豆が約1億t、トウモロコシが2021年に2,835万tを輸入するなど、国内需要を自国供給だけで満たせていない。その背景には食用食糧ではなく、高まる食肉消費に必要な飼料用食糧の需要拡大が挙げられる。

習近平国家主席は政府目標として、耕地面積18億ムー(約1.2億ha、1ha=15ムー換算)のレッドラインと食糧生産量6億5,000万t以上の死守を掲げている。しかし、中国の食糧輸入の拡大は近年で現実となった。そこで、本稿では、2022年の最新データを交え、近年の生産や輸入の動向を整理しつつ、トウモロコシの輸入増の要因を考察する。また、2023年早々に、トウモロコシ輸入相手国に新たな動きがみられたため、これに深く関連する中国の対外農業投資の近況を紹介し、今後を展望する。

〈8年連続で6億5,000万t達成〉

中国の食糧生産量は2006年に5億t、2012年に6億tの大台を突破、2022年には前年比0.5%増の6億8,655万tとなり、19年連続の増産を達成し、7億tに迫る勢いである。1月18日の農業農村部の発表によると、2022年の食糧生産量は、コメが同2.0%減の2億849万t、小麦が同0.6%増の1億3,772万t、トウモロコシが同1.7%増の2億7,720万tとなり、小麦とトウモロコシの生産量が史上最高を記録した。減産が続いてた大豆は同23.7%増の1,640万tだった。

輸入量は、食糧全体が同10.7%減の1億4,687万tで過去2年の増加から一転して減少した。2020年以降、増加が続いたトウモロコシは同27.3%減の2,062万tで3年ぶりに減少したが、年間生産量の1割弱に相当し、高い水準が続いている。一方、コメは同24.8%増の619万tに急増した。小麦は同1.9%増の996万tで、3年連続過去最高の輸入量を更新した。これにより、3大穀物すべてが中国の年間の輸入関税割当数量(コメ532万t、小麦963.6万t、トウモロコシ720万t)を初めて超過した。

輸入数量が最大の大豆は同5.6%減の9,108万tと2年連続で減少したが、トウモロコシと同様に高い水準が続いている。近年、飼料用途としてのニーズが高まり、輸入が増加していた雑穀について、大麦は前年比減、コウリャンは同7.7%増の1014万tに増加した。

〈米国産トウモロコシのシェア高まる〉
トウモロコシの輸入量は2010年以降、100~500万tで推移、2019年まで500万tを超えなかったが、2020年に1,130万t、2021年に2,835万tに急増、2022年に2,062万tと近年高い水準で推移している。

中国の食糧生産・輸入状況(単位:万トン、%)
(画像=中国の食糧生産・輸入状況(単位:万トン、%))

輸入相手国はウクライナと米国で、輸入量の9割以上を占めている。輸入急増前の2015~19年まではウクライナからの輸入が8割強を占めた。2020年になると、下半期に急増した米国産が434万t、ウクライナ産が630万tで米国産が急増した。2021年は米国産が1,983万t、ウクライナ産が824万tで、米国産が7割を占めた。2022年は米国産が1,173万t、ウクライナ産が491万tとなった。ウクライナ産について、2021年2月のロシアのウクライナ侵攻開始後の月次でみると、2022年7月以降急減、10月に4.2万t、11月に5.1万tに急減している。

〈輸入急増の要因〉
こうしたトウモロコシの輸入急増の要因は、〈1〉保護価格制度の廃止に伴う生産停滞〈2〉アフリカ豚熱(ASF)克服と飼料用トウモロコシ需要の回復〈3〉輸入拡大ニーズの高まりと米中貿易摩擦の対応が関係している。

まず、〈1〉について、中国のトウモロコシ供給は2000年代から不足の懸念があったため、政府が8年にわたって臨時備蓄政策を採用し、保護価格買い上げを行うことで、増産を維持してきた。これが在庫過剰と財政負担増をもたらし、2016年に同制度を廃止、大豆への転作奨励、トウモロコシ生産のインセンティブ低下により、作付面積は減少した。2018年まで生産量は2億5,000万t台と停滞した。

つぎに、〈2〉について、トウモロコシの年間供給量のうち飼料用トウモロコシの消費が約7割を占める。2018/19年に飼料消費が1億6,800万tに減少した理由は、ASFウイルスの蔓延による豚の大量殺処分が行われたからである。その後、ASFが回復し、飼料消費は2021/22年に1億8,400万tまで増加した。2018年までのトウモロコシ生産停滞に伴う在庫放出によって、2017~20年まで年間余剰量がマイナスで推移していたなかでASFを克服し、飼料需要が回復したことになる。2020年以降、国内供給だけでは不十分な中国は、その対応として輸入増に舵を切ったと考えられる。

中国のトウモロコシ需給の推移(単位:万ha、万トン)、(注)トウモロコシ(年度9月〜翌8月)ベース。(出所)『中国糧食市場発展報告』p.61。
(画像=中国のトウモロコシ需給の推移(単位:万ha、万トン)、(注)トウモロコシ(年度9月〜翌8月)ベース。(出所)『中国糧食市場発展報告』p.61。)

さいごに、〈3〉について、どの国から輸入調達するかという時期と米中貿易摩擦対応の時期が重なったことが考えられる。2020~21年の米国のトウモロコシは作柄が良好で、生産量が史上最高を記録、在庫過剰となったため、輸出先を模索していたはずである。その時期に当たる2020年1月15日に第一段階の米中合意がなされ、追加関税の応酬からの適用除外(市場買い付け措置)品目が指定され、トウモロコシがリストに含まれていたことが挙げられる。なお、第一段階の米中合意は、中国が今後2年間で米国からの輸入額を2017年比2,000億ドル以上、2022年までの2年間で少なくとも800億ドルの農産品や海産物を輸入することで合意したものである。

〈輸入相手国の拡大が急務〉
中国の食糧輸入量が2022年に前年比減となった要因は、世界的なエネルギー価格高騰などに伴う食糧価格上昇、米ドル安が指摘されている。トウモロコシも前年比減となったが、輸入量は高い水準が続いている。今後は、中国のトウモロコシ生産と輸入の増加、在庫状況の回復、および飼料用原料食糧のトウモロコシや大豆粕から雑穀など他の原料に代替する政策の推進などにより、輸入が減少するという見方がある。しかし、今後、飼料需要のさらなる拡大、国内食糧価格の上昇などを背景に、飼料用トウモロコシの輸入量が再び増加する懸念も考えられる。

2023年はすでにウクライナからのトウモロコシ輸入が期待できない。見込まれる米国一極集中は米中関係の動向に左右されるリスクを抱える。中国のトウモロコシ輸入力は決して盤石ではない。中国にとって、トウモロコシの輸入相手国の拡大が急務とされよう。

こうしたなか、中国は2023年1月7日、中国初のブラジル産トウモロコシを輸入した。中糧集団が輸入する6万8000tのブラジル産トウモロコシは船上での検疫を終え、広東省東莞市の麻涌港に着岸し、国内の飼料企業に運ばれた。

周知のとおり、ブラジルの2022年のトウモロコシ生産量は1億2,600万t、輸出量は4,700万tで、世界のトウモロコシ輸出量の26%を占め、世界有数の生産・輸出大国である。中国はブラジルに対して、2000年代後半以降、農業投資を行ってきた。以下では、近年の中国のブラジルのトウモロコシ産業向けの投資のケースを紹介する。

生豚出荷頭数と豚肉生産量の推移(単位:千頭、万トン) (資料)国家統計局『中国統計年鑑』各年版から作成。
(画像=生豚出荷頭数と豚肉生産量の推移(単位:千頭、万トン) (資料)国家統計局『中国統計年鑑』各年版から作成。)

〈中国のブラジル向け農業投資の事例〉
農業農村部国際合作司などの発表によると、中国のブラジル向け対外農業投資について、2020年の対外農業投資額(フロー)は1,097万7,000ドルで、対ラテンアメリカ向け投資総額の41.1%を占めた。2020年末までの同額(ストック)は18億8,156万ドル、同86.3%を占める。このうち、耕種業向け投資額が18億300万ドルで95.9%を占め、農業生産資材産業が残りの18万ドルだった。ブラジルに直接投資する中国の農業企業は9社あり、このうち耕種業が6社、農業生産資材企業が3社である。

中国とブラジルの農業協力は近年、ますます密接な関係が築かれている。2022年5月24日、中国とブラジル両国政府は、農業関連協力では農産物貿易の発展、農薬協力備忘録などを含む「2022-31年、中国ブラジル戦略規画」「2022-26年、中国ブラジル執行計画」に署名した。この二国間協力に先立ち、22年5月12日にはミナスジェライス州パラカト市の政府会議場において、駐リオデジャネイロ中国総領事、ミナスジェライス州長、パラカト市長のほか、隆平農業発展股份有限公司総経理、隆平ブラジル法人総経理の参席の下、「中国-ブラジル農業科学技術産業園区建設協力協議」の署名式が開催された。同産業園区の建設企業は隆平発展である。

署名式においてミナス州長は当協議について、農業だけでなく道路など基礎インフラを建設することで、地元企業の輸送条件、民衆の福祉の改善につながると発言した。隆平発展の総経理は当協力について、ラテンアメリカに産業集積を構築し、農業の総合的競争力を高めるものだと発言した。同社が開発したトウモロコシと大豆の種子については、南米最大規模の種子R&Dセンターと供給拠点の構築を目指している。

中国は、ブラジルにおける独資の農業産業園区として、2件の種子加工場、10件のR&D拠点を設立してきた。2021から22年に同社はさらに2件の種子加工場と3件の種子貯蔵冷蔵庫の建設を新設している。また、同園区には、中国の大学、企業、国際組織が農業関連事業を設立、例えば華南農業大学は大豆育種基地、蘇州市の企業はブラジルにドローンの技術開発と生産を行う独資企業を設立した。

なお、隆平ブラジルはブラジルのトウモロコシ種子企業ランキングで第3位に位置している。同社が生産するトウモロコシ種子は、面積規模で6,000万ムーをカバーし、これはブラジルのトウモロコシ種子市場の20%強を占める規模である。

〈国境超える農業サプライチェーン構築〉
中国は、生産量と作付面積の安定的確保、食品ロスの削減、飼料用原料の雑穀等への代替など国内供給力を高めることを食糧安全保障戦略の最優先課題に設定している。供給面での国内政策の課題は、農業生産コストが年々上昇し国際価格を上回り、国際競争力が失われている中国産食糧が直接支払いなど生産者保護制度や最低買付価格制度などをなくして、農業企業や農民の生産意欲をどう引き出すかである。

需要面では、中国はすでに人口のピークを越え、少子高齢化時代を迎える。現状で、食用食糧(「口糧」)の自給は問題なく確保できるだろう。課題となる飼料用原料食糧については、食肉需要が停滞すれば供給不安は緩和されるが、所得が増え、高い食生活レベルを求める層の拡大がしばらくは見込まれており、今後も食肉と飼料の需要は高まるだろう。

加えて、国内の資源や技術の制約も想定されることから、対外農業投資相手国からの輸入調達が選択肢になるだろう。現状、ベニンなどアフリカ諸国から食糧輸入を開始しているものの、数量が極めて少量であり、海外からの輸入調達が国内の不足を補えるだけのパワーまでに至っていない。中国はこの年初に、ブラジル産トウモロコシを初輸入した。中国は政府・企業・研究機関等が一体となって相手国との協力を進め、国境を超える農業サプライチェーンの構築を進め、自国への輸出につなげている。こうした事例の進展状況に今後も注目すべきだろう。

〈森路未央:大東文化大学外国語学部准教授〉