「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント
(画像=TomWang/stock.adobe.com)

(本記事は、生田目 康道氏の著書『「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント』=アスコム、2022年11月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

獣医師の人生の質を追求する

いくら優れた経営論を持っていても、素晴らしいビジョンや目標があっても、結局のところそれを支えてくれる社員たちがいなければ、経営者はなにもできません。事業を成長させていくにあたっても、優れた仲間をどれだけつくれるかが、成功の鍵を握っていると常々感じています。

したがって経営者が大切にすべきなのは、「自らの会社で働く人々を幸せにすること」であるというのがわたしの思いです。

動物病院の経営でいうと、まずはそこに勤める獣医師たちが幸せでなければ、質の高い医療やサービスは提供できません。

充実した人生を歩み、前向きに生きる獣医師にこそ、ペットやペットオーナーといい関係を築き最高の診療ができるというのがわたしの信念です。

すなわち「獣医師の人生の質(Quality of Veterinarian Life:QVL)」の追求の先に、「ペットとペットオーナーの生活の質(Quality of Animal Life:QAL)」の向上があるのです。

獣医師の仕事環境は、ここまで書いてきたような業界の古い慣習の影響などもあり、どちらかというとブラックなものでした。

また、獣医師を支援する仕組みが不十分であるという問題もありました。人を相手にする医療の世界ではあらゆる支援が充実しているのですが、それと比べると、動物医療の世界での支援は貧弱なものであると言わざるを得ません。

法律上では、ペットはあくまで「モノ」であるという位置づけがなされています。それゆえ、ペットの命と健康を守る行為の価値も人相手に比べて低く設定されており、獣医師のバックアップ体制の構築が進んでいないのです。

この点は、社会における「ペットは家族である」という価値観の高まりとのずれを感じるところです。

近年は、産業動物の分野での高病原性鳥インフルエンザ、豚熱、口蹄疫といった伝染病流行の経験を通じて、非常時の対応を担う獣医師の重要性が認識されはじめ、農林水産省などが公的な研修を充実させようと動き出すなど、獣医師という仕事への注目が集まっています。

またペットを対象とする動物看護師の質の向上を目的に、「愛玩動物看護師」という国家資格の整備も進んでいます。(※第1回愛玩動物看護師国家試験は2023年2月に実施)

そうした徐々に吹きはじめた追い風をより強い風にしていくために、わたしたちは行政とは違った立場から獣医師のバックアップを進め、「獣医師の人生の質=QVL」の向上を図ろうとしています。

『「人」が育つ組織』
(画像=『「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント』より)

獣医師にとっての「幸せ」とはなにか?

そもそも獣医師にとって、幸せとはなんでしょう。

獣医師はその専門性ゆえに、一般的な営業職などと比べて独立しやすく、腕一本で生きていく選択がしやすい職業です。しかし、単に仕事に困らないことだけが幸せかというと疑問があります。

わたしが考える、獣医師としての幸せは大きく次の3点に集約されます。

  • お金と安全が確保されていること
  • 成長の実感が得られ、自信を高めていけること
  • 社会のなかで役割を果たせていること

「お金と安全」は、すべての基礎となる物理的・身体的な幸せです。獣医師だからといって「滅私」や「清貧」の精神にこだわる必要はないと思います。

「成長と自信」については、成長している感覚が自信の源となるという実体験からきたものです。成長し、自らの価値を高めていくことが人生の充実につながっていきます。

「社会における役割」については、「自分だからできること」に取り組むほうが、自己肯定感が高まります。「これはわたしがするべき仕事だろうか?」という状況よりも、「これは自分がやったほうが社会にいい影響を与えられる!」という仕事をしているときこそ、幸せを感じるはずです。

この3点のバランスが取れた状態で仕事を継続していくことが、獣医師の人生の質=QVLを高め、幸せにつながるのだと思います。そしてわたしたちの会社では、これらすべてを実現できる環境をつくってきたつもりです。

「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント
生田目 康道
株式会社JPR 代表取締役社長。獣医師企業家。
日本大学生物資源科学部獣医学科卒。大学卒業後、飲食ベンチャー企業、獣医学系出版社を経て、2003年に株式会社JPRを設立。神奈川県を中心に「近所のやさしい獣医さん」をコンセプトとしたプリモ動物病院グループを展開。地域に根ざした動物病院運営を行う。ペットとペットオーナーの生活の質(Quality of Animal Life = QAL)を向上させるというビジョンのもと、ペット業界に関わる事業共創を行う株式会社QAL startups、教育事業を展開する株式会社エデュワードプレス、動物病院向けプロダクトの開発・販売や経営支援サービスを行う株式会社QIXなど、グループ各社の経営にも関わる。
著書に『「獣医師企業家」と「プリモ動物病院」の挑戦 QAL経営 人と動物の幸せを創造する』(ダイヤモンド社)。

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