「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント
(画像=famveldman/stock.adobe.com)

(本記事は、生田目 康道氏の著書『「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント』=アスコム、2022年11月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

組織の拡大は「1・3・1・3の法則」で考える

先ほど紹介した組織の変遷を見ると、10人規模→30人規模→100人規模→300人規模と段階を踏んでいることがわかります。最初は10人規模で組織がはじまりますが、事業規模を拡大するのであれば、次は30人の組織をイメージして準備をする。さらに拡大するなら、今度は100人の組織をイメージして備え、さらに300人、1000人、3000人と拡大していく。実際にグループを経営してきた経験から、この規模感でのステップで組織をつくっていくのが賢明なやり方ではないかと思います。わたしはこれを「1・3・1・3の法則」と呼んでいます。

組織を拡大していく際に重要なのは、組織が大きくなったときに、どんな機能が新しく必要になるかを予測して「1・3・1・3の法則」で先に編成を考えておくことです。

失敗例としてありがちなのが、組織の構造はそのままにスタッフを次々と補充した結果、機能不全に陥るというパターンです。例えば、仮にわたしが動物病院をどんどん増やして、単純に病院の数に応じて院長とスタッフをひたすら補充するだけだったら、とても9施設も運営できません。各施設へのサポートが追いつかなくなり、施設間の連携も取れなくなり、早晩チームは崩壊してしまうでしょう。

組織の規模を大きくするときには、現存するスタッフを配置し直したり、必要であれば新たな役職を設けたりするだけではなく、今後、事業全体にどんな変化が起きていくのか、ビジネスの方向性がどうなっていくのかを予測し、組織のかたちを考える作業を先に行うべきです。

実際に人数を増やすのはその次のフェーズであり、やみくもに人数を増やす発想はベストチョイスとはいえません。「組織の最適化」の発想こそが必要なのです。

例えば、事業をはじめたときの組織が3人で編成されたものだったとしましょう。3人というのはとても小さなチームですが、役割分担がうまくいけば成果は確実に上がっていくでしょう。

そして、その3人のチームから規模を拡大していく場合、より多くの案件を消化できるようにと、3人の仕事をサポートするスタッフを加えることになるはずです。その流れで、1人、2人と増やしていき、チームが10人規模になるまでは、最初の3人を中心とした組織で十分にやっていけます。

ここでの「10人」は、「10・30・100・300」の最初の「10」に該当します。

しかし、10人を超えてくると人間関係も複雑になり、仕事そのものも増えているために、うまくいかない部分が出てきます。そこで行うのは、どんな部分が大きな問題になっているのかを精査し、その問題を解決できる組織を考えることです。そのときは、組織が「30人規模」になったときをイメージして、うまく機能するかたちを目指します。

スタッフが10人規模の段階だと、30人規模のスタッフが必要になるまでにはかなりの時間を要すると思われるでしょう。それでも、事業の成長を見越して余裕のある組織のかたちを先にイメージしておくと、急に事業を拡大すべきタイミングが訪れた場合にも対応できます。いつも未来を考え、未来から逆算しながら、いますべきことを考える「未来思考」が重要といえます。

30人規模の事業をイメージしたなかで10人規模の事業に取り組むことは、なんら問題ありません。もちろん、給与をはじめとしたマネジメントをしっかりやるのは当然ですが、10人から30人の範囲であれば「大は小を兼ねる」からです。

そして、実際に30人規模を超える事業に成長したら、次のフェーズとしては、「100人規模」でまわっていく組織をイメージします。この場面も同様に、そうやってイメージしておけば、その後の事業拡大の展開に対して柔軟に対応できるでしょう。

そして100人規模になったら、次は「300人規模」の組織をイメージするという具合です。

この考えは、チームづくりをまかせるリーダーたちにもしっかりと共有しています。

「1・3・1・3の法則」は、成長を遂げた少し未来のビジネスを想定し、規模的に余裕のある組織のかたちをイメージするところがポイントです。

これには、必要な機能を先読みして装備することで様々な事態に対応できる組織がつくれるという意味もありますが、いつでも未来を基準にして発想していくため、グループやそこで働くスタッフを「未来志向」に導くきっかけを与えることにもつながります。

また、描いた組織のかたちをスタッフに対し常に提示するようにすると、スタッフは自らの役割がはっきりと理解できるようになるので、より目的意識を持って働けるようになります。

「お金と人への対応の無限ループ」のなかで見えてきたのは、会社の規模が大きくなるにつれて、もたらされる問題も変化してくるということです。

会社が小さな規模のときは嫌でも目に入り、経営者としてケアすることができた人間関係や運営上の問題が、会社の規模が大きくなると目が行き届かなくなっていきます。その場合には、わたしの代わりに動物病院で起きていることを把握する人間を用意するなどの対応が必要になります。

そうして規模に合わせた対応をうまく続けていくことが、グループを順調に大きくするコツだ。そう気づいたわたしは、先回りして対応するための法則も見つけ出すことができたのです。

どのような問題が起こるかの推測においては、常にアンテナを貼り続ける必要があり、そこはルーティンワークにはできません。

それでも、「チーム」のかたちの更新がどのようなタイミングで必要になってくるかがなんとなくわかってきた頃から、組織の成長を可能とするマネジメントとはどういうものなのかが見えてきた気がします。

とにかく先まわりして組織を整えておければ、小さな問題にはすぐに対処でき、大きなトラブルも起こさずに済むのです。

「人」が育つ組織
(画像=『「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント』より)
「人」が育つ組織 首都圏最大規模の動物病院グループが大切にするチームマネジメント
生田目 康道
株式会社JPR 代表取締役社長。獣医師企業家。
日本大学生物資源科学部獣医学科卒。大学卒業後、飲食ベンチャー企業、獣医学系出版社を経て、2003年に株式会社JPRを設立。神奈川県を中心に「近所のやさしい獣医さん」をコンセプトとしたプリモ動物病院グループを展開。地域に根ざした動物病院運営を行う。ペットとペットオーナーの生活の質(Quality of Animal Life = QAL)を向上させるというビジョンのもと、ペット業界に関わる事業共創を行う株式会社QAL startups、教育事業を展開する株式会社エデュワードプレス、動物病院向けプロダクトの開発・販売や経営支援サービスを行う株式会社QIXなど、グループ各社の経営にも関わる。
著書に『「獣医師企業家」と「プリモ動物病院」の挑戦 QAL経営 人と動物の幸せを創造する』(ダイヤモンド社)。

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