ランチェスター戦略 〈圧倒的に勝つ〉経営
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(本記事は、福永 雅文氏の著書『ランチェスター戦略 〈圧倒的に勝つ〉経営』=日本実業出版社、2022年9月16日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ランチェスター戦略とは―競争戦略・販売戦略のバイブル

いまから半世紀前の1970年代前半、オイルショックが起こり、それまでの高度経済成長期から一転して日本は不況となります。市場縮小期に、企業はどうやって勝ち残るのか。

コンサルタントの草分けの故・田岡信夫先生(1927〜1984)は、それまでのスピード勝負、体力勝負によらない、科学的・論理的な経営戦略・営業戦略が求められると考え、ランチェスター戦略を提唱しました。市場縮小期や構造変革期でも勝ち残る方法として構築されたのです。多くの企業が自社の戦略づくりに活用してきました。

トヨタ、パナソニック、日本生命、武田薬品などの大企業、ソフトバンク、エイチ・アイ・エス、フォーバルなど当時のベンチャー企業。そして中小企業。数多くの実績と、後進のコンサルタントやマーケッターへ多大な影響をもたらしたことから、ランチェスター戦略は日本において競争戦略・販売戦略のバイブルといわれます。

■ ランチェスター戦略は不易流行

70年代に提唱されたものですので、古いイメージがありますが、ランチェスター戦略は過去のものではありません。たとえば……。

海外旅行送客数1位のエイチ・アイ・エスの創業者で現会長の澤田秀雄氏は、2015年に、起業家などの次世代リーダーを養成する「澤田経営道場」を立ち上げました。澤田氏は自らが創業時に学んだランチェスター戦略を同道場の教育カリキュラムに取り入れます。筆者は講師や道場を運営する財団法人の理事も務めています。

ランチェスター戦略が提唱されて半世紀が経つのに、なぜ、今日も有効なのか。それは競争の原理原則を説くものだからです。昔は通用したがいまは通用しない、大企業には通用したが中小企業では通用しない、A業界では通用したがB業界では通用しない。これらは原理原則とはいいません。原理原則とは時代を超えて、規模を超えて、業界を超えて通用するものです。ランチェスター戦略は「戦略定石(じょうせき)」ともいわれます。定石とはもともとは囲碁の最善の打ち手のことですが、最もよいとされる定番のやり方という意味です。

一方で、世界は変わりました。ビジネスも変わりました。半世紀前に確立されたことをそのまま、いまの企業に導入できるはずがありません。最新の理論や手法も取り入れて、時流に適合させているから今日でも通用しているのです。

不易流行という言葉があります。松尾芭蕉の俳句の理念です。不易とはいつまでも変わらないもの、流行とは新しく変化していくもの。不易と流行を併せ持つものが俳句であるとの考えです。ランチェスター戦略もまた、不易流行なのです。

■ ランチェスター戦略のルーツは戦争理論

日本人が提唱した理論に、カタカナの名前がついているのは、「ランチェスター法則」という戦争理論が、そのルーツだからです。ランチェスター法則は、イギリス人の航空工学の研究者F・W・ランチェスターが第一次世界大戦のとき提唱した「戦闘の法則」です。兵士や戦闘機や戦車などの兵力の数と武器の性能が戦闘力を決定づけるというものです。

ランチェスター法則は第二次世界大戦中、米国海軍作戦研究班で研究されます。コロンビア大学の数学教授B・O・クープマンらが応用し、「戦争の法則」に発展させます。「クープマンモデル」と呼ばれます。戦争の作戦研究(オペレーションズ・リサーチという)は戦後、数学的・統計的な意思決定の方法として研究され、産業界にも広く活用されています。

田岡先生は1962年、社会統計学者の故・斧田大公望(おのだたいこうぼう)先生とクープマンモデルを解析し、市場シェアの3大目標数値を導き出しました。その後、研究と実務指導を重ね、1972年に著書『ランチェスター販売戦略』を出版。経営戦略としてのランチェスター戦略は普及していきます。

田岡先生の遺志を受け継ぐのが特定非営利活動法人ランチェスター協会です。筆者は同会でこれを学び、36歳となった1999年にコンサルタント会社を創業。ランチェスター戦略を指導原理にした「ランチェスター戦略コンサルタント」として企業の戦略づくりとその推進をお手伝いしています。同時に、同会では2005年に理事・研修部長(12年に常務)に就任し、後進のコンサルタントの育成にもあたっています。

【社長はこう考える】ランチェスター戦略は中小企業に向いている

ランチェスター戦略は経営規模を問わず通用する理論ですが、特に中小企業に向いています。小が大に勝つ戦略の醍醐味を理論化しているからです。わかりやすく実戦の体系があり使いやすいからです。忙しい中小企業の社長に向いています。だから多くの企業が戦略づくりに活用しているのです。

ランチェスター戦略 〈圧倒的に勝つ〉経営
福永 雅文
ランチェスター戦略コンサルタント。戦国マーケティング株式会社代表取締役。1963年広島県呉市生まれ、86年関西大学社会学部卒。マーケティング関係の仕事を経て99年にコンサルタントとして独立。小が大に勝つ「弱者逆転」を使命とする。「特定市場(地域、顧客層、商品)でナンバー1になることが企業の永続的な繁栄のために最も有効である」との考えのもと、企業の戦略づくりの方法を指導する。
営業部門・拠点ごとに市場占有率を把握し、シェアと売上・利益を向上させる目標・戦略・行動計画を策定してPDCAを回す仕組みを導入。集客・営業の「武器」づくりのノウハウを提供する。

2005年よりNPOランチェスター協会で講座の内容とテキストの責任者を務め、後進のインストラクターの養成を行なう。同会常務理事。HIS創業者の澤田秀雄氏が立ち上げた起業家や政治家を育成する澤田経営道場の運営母体で理事を務めるほか、さいたま市の外郭団体や南アルプス市商工会などで若手社長の育成機関で講師を務める。歴史に学ぶリーダーシップ(戦略的思考と人間的魅力)についても著述や研修を行なう。
『小が大に勝つ逆転経営 社長のランチェスター戦略』(日本経営合理化協会)、『新版ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』『ランチェスター戦略「営業」大全』(以上、日本実業出版社)ほか著書多数。

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