(本記事は、別所 宏恭氏の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』=クロスメディア・パブリッシング、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
キーエンスが重視しているもの
適材適所の人材配置をした上で、その強みを活かすシステムもデジタルで実現可能です。私が非常に重要視しているのがキーエンス方式です。
キーエンス方式の要点は、営業が商談をしたあと、5分以内に話した内容を記録させること。重要なのは「5分以内」で、それ以上の時間が空くと、細部を忘れたり、自分の主観や、「この雑談は記録しなくてもいいのでは」といった判断が入ったりするからです。むしろ雑談にこそ価値観の差のヒントがある可能性もあるため、そのようなことをしないように徹底させます。
この記録のルールを徹底すると、営業担当者の段階では、主観の質はさほど重要ではなくなります。
そして、情報収集のために人間が一番できることは「しゃべらせること」。これはビデオ会議ではなかなか難しい点です。しゃべらせて情報を引き出す。人が現場に行くのは大切ですが、それさえできれば、ある程度の質は担保できるのです。
そして、営業担当者の現場での記録を全社員が閲覧できるようにシステム化する。これが、人間の強みを活かすシステムです。
そうして記録されたデータを、商品企画の担当者が見てディスカッションする。よほどの天才やカリスマがいる企業を除けば、必ず複数人で話すようにしてください。そうすることで客観的な価値観が見えて、マーケティングの勘所を掴めるからです。
その上で、企画を詰めてマーケティングを深掘りし、価値観の差があって、先行者がいない場所にリリースする。
この動きを迅速にできれば、たとえ技術的に突出していなくても、ライバルが不在なので、高値でも比較的簡単に売れます。売れ始めたら他社が追随しますが、他社が真似できない技術力がある商品ならそのまま売ればいいし、そうでなければ撤退してしまえばいいのです。
コロナ禍で大きな存在感を発揮したアイリスオーヤマも同様の商品開発の方式を採用しており、非接触で体温を計れるAIサーマルカメラを、1回目の緊急事態宣言が発令されてからわずか2週間足らずの2020年4月20日に発売しています。他社も追随しましたが、ハンディ型が25万円、ドーム型が90万円(共に発売当時の税抜価格)という高額商品ながら、半年で2万台売れたそうです。
情報を取り、その情報を分析するのは人間の仕事ですが、営業が聞いた話をフェイス・トゥ・フェイスで説明する必要はありません。むしろ、その中間はシステムを使う。そうすることで、正確に記録でき、複数の「異なる主観の持ち主」による共有が可能となります。
1965年兵庫県宝塚市生まれ、西宮市育ち。
横浜国立大学工学部中退。
独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。
1989年レッドフォックス有限会社(現レッドフォックス株式会社)を設立し、代表に就任。
モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱。 2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。
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