ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方
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(本記事は、別所 宏恭氏の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』=クロスメディア・パブリッシング、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

1本300万円のウイスキー「山崎55年」は高いか、安いか

私は、自分がある程度、年を取って、若い方の感覚や流行が掴めなくなっている自覚があります。ですから、たとえば電車の中で「最近、若者の格好が変わってきている気がするな」と思ったら、今の流行を調べてみたりします。また、その調べ方にもバイアスがあるかもしれないので、できるだけほかの人にも声をかけて、別の人の視点でも調べるようにしています。

反対に、自分が「普通」側、マジョリティ側に近いと感じるジャンルが気になったら、背伸びを恥ずかしがらず、できるだけ普通ではない文化・生活を自分で見るようにしています。恥ずかしながら、私は自分では絶対に買えない超高級マンションを内見することがあります。当然、不動産屋さんをからかいたいわけではなく、富裕層の生活の「普通」の感じを掴みたくてそうしているわけです。

以前、サントリーのウイスキー「山崎50年」が1本100万円で販売され、あっという間に完売しました。そして2020年、「山崎55年」が1本300万円、100本限定で発売されました。

皆さんは、この価格をどのように思うでしょうか?

私は安すぎると感じました。個人的には1億円でも100本売れたと考えています。ちなみに2020年、「山崎55年」は香港のオークションで620万香港ドル(約8515万円)、山崎50年は東京のオークションで2800万円の値がついています。

これは、サントリーの担当者の方々が富裕層の「普通」の感覚を把握していないことで、価値観の差を掴みかねたのではないかと推測しています。

もっと高く売れると思いつつ、自社の大切な商品を投機の対象にすることをよしとしなかった可能性や、一般層の反感を恐れた可能性もあるとは思うのですが、それにしても、300万円はあまりにももったいない値づけではないか。「山崎」は、世界的な酒類の品評会でも数多く受賞するなど、もともと品質には定評がある上、そもそも数百億円、数千億円をかけようとも、熟成に費やした50年あまりの時間を縮めることはできません。本当にお金を持っている人にとっては1億円という値段でも決して高くはないと思いますが、ともあれ、もっと「高く売る」ことはできたはずなのです。

富裕層から大きく儲けたなら、その利益を低価格帯の商品開発に大いに活用する再分配をすれば、「結局、経済で富裕層や大企業を優遇しても、彼らから溢れた富が低所得者層へと滴り落ちる『トリクルダウン』は起こらないのでは」などと言われる昨今、むしろ喝采を浴びるのではないかとすら思います。

もちろん、私にとっては100万円のウイスキーも十二分に敷居の高い買い物で、富裕層の「普通」を推測している格好です。ひょっとすると本書を読んで「1億円はさすがに高すぎる」と思うビリオネアもいるかもしれません。

しかし一部、推測や想像に頼らざるを得ない部分があっても、今後のビジネスを考える上で、経営者にとっては、(一般の人の「普通」レベルを十分に理解した上で)裕福な人たちの文化を知ろうとする努力は欠かせないものになると考えます。

なぜなら、これからの中小企業やベンチャー企業の活路は、大手の大量生産品にはない新しい価値を持ち、高値で売れる商品やサービスにあるからです。そして、その最大のターゲットは、富裕層というレベルかどうかはともかく、ある程度お金を自由に使える層になるはずです。

まとめると、価値観の差で利潤を生むためのポイントは、幅広い文化に触れつつ、それぞれの文化の「普通」を把握することです。

とくに、自社のビジネスの対象となる層の理解は必要不可欠で、その層が自分や自社から遠い位置にある場合でも、できるだけその場に足を運び、人と触れ合い、対話するなどして、理解を深めようとする努力をするべきでしょう。

ちなみに、価値観の差を知る手っ取り早い方法は、「その文化の中にいる、別のバックボーンを持つ人」の話を聞くことです。

たとえば、私は海外旅行をすると、その地で少なくとも10年以上暮らしている日本人を探してガイドをしてもらうようにしています。日本人が見るとそうではない現地の「普通」を教えていただけるので、価値観の差を見つけやすくなります。現地人のガイドさんではこうはいきませんし、その国が好きで移住したばかりの日本人では、いいところ、刺激的なところばかりが目につく段階で、日本文化の「普通」と冷静に比較できる視点が身についていない可能性があるでしょう。

ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方
別所 宏恭
レッドフォックス株式会社 創業者
1965年兵庫県宝塚市生まれ、西宮市育ち。
横浜国立大学工学部中退。
独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。
1989年レッドフォックス有限会社(現レッドフォックス株式会社)を設立し、代表に就任。

モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱。 2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。

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