(本記事は、別所 宏恭氏の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』=クロスメディア・パブリッシング、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「高く売る」ためには何が重要か
では、実際にどうやって高く売るのか?どうやって高く売れるマーケットを見つけるのか?その考え方のヒントを、過去の事例から考えていきたいと思います。
日本初のコンビニエンスストアであるセブン-イレブンは、大型スーパーマーケットが全盛だった1973年に立ち上げられました。イトーヨーカ堂の取締役だった鈴木敏文氏が中心となって、アメリカでセブン-イレブンを運営していたサウスランド社と日本におけるライセンス契約を結び、翌74年には東京の江東区に第1号店をオープンします。
そこから50年近くを経て、2020年には国内店舗数で実に約2万1000店、売上は約4兆8700億円という巨大企業に成長しています※。
※セブン-イレブンウェブサイトより
鈴木氏がセブン-イレブンをつくったのは、「いかに高く売るか」を実現するためだと私は捉えています。
折しも第1号店がオープンした1974年に、大規模小売店舗法(大店法)が制定されます。これはその名の通り、大型の小売店舗の出店を規制し、地域の商店など中小の小売店舗の保護・育成を図る法律。こうした法律で規制がなされるくらい、当時の中小の小売店舗が、大規模店の出店攻勢を脅威に感じていたともいえるでしょう。
そうした中で、小規模店舗がスーパーに対抗するために、「安売り」ではなく「高い値段で売れる方法」を徹底的に考えて実現したのがセブン-イレブンだといえます。
最初は都市部の時間のない人や手軽に買い物をしたい人をターゲットに利便性を提供し、定価販売が中心でも、消費者の心の中で「スーパーに決して負けない存在感」を確立していきます。その後はファミリーマートやローソンなど多くの競合が参入し、地方にもどんどん出店を広げていき、2020年には国内の主要コンビニの店舗数は約5万5900店、売上で10兆6600億円という一大業界に発展したのです※。
※一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会調べ。店舗数は2020年末
コンビニで「高く売る」ために使われたものとは
鈴木氏がコンビニにおいて、「高く売る」ために使った材料が「情報」です。
POS(販売時点情報管理)システムに対応したレジの導入によって、「いつ、どの店で、どんな商品がいくつ売れたのか」という情報がわかる。その情報を分析することで、「この商品カテゴリーの売れ筋商品はどれか」「客数が多いのはどの時間帯か、客単価が高くなるのはどの時間帯か」「この商品は何時ごろに、どんな商品とセットで売れているのか」など、さまざまなことが明らかになります。
そうして、その店の利用者にどんな傾向があり、どんな商品が好まれ、必要とされているのかを徹底的に分析した上で、「近くの小学校・中学校で運動会があるのはいつか」「今年の神社のお祭りや花火大会などのイベントは何月何日の何時ごろからか」といった、地元密着の足で稼いできた情報を加える。そこから「こういう商品が売れるのではないか」と仮説を立てて発注を行い、その結果を検証して仮説の精度を上げていく、というサイクルを回しました。
そうすることで、安易な安売りをせずに、できるだけ高い売値を設定しても、きちんとモノが売れる。売れない商品をムダに置き続けることなく、賞味期限切れなどのロスをできる限り減らして、利益を最大化していくことができたのです。
情報がなぜ重要なのか?
それは、情報を駆使し、本当に必要とされるモノを必要なだけ揃えて必要な人に売ることで、結果として「高く売る」ことができるからです。もちろんこれはコンビニなどに限ったことではありません。どの業種にも、「値引きをせずとも買ってもらえる人」は確実に存在しているはずです。そして、「高く売る」ためには、より質の高い情報を集めてくることが重要なのです。
「単価が2倍でも売れるおにぎり」をつくれ
セブン-イレブンの例をもう少し続けると、1990年代に「コンビニおにぎりが価格競争でどんどんまずくなっていった」ということがありました。そうした環境の中、セブン-イレブンでは、2001年に「こだわりおむすびプロジェクト」を発足させます。
これは、おにぎりが100円で売られていた時代に、その2倍の200円で売れるような高級おにぎりをつくろうという意欲的なプロジェクトでした。号令をかけたのは、やはり鈴木敏文氏とのこと。
プロジェクトでは、味や食感などに関わるさまざまな評価基準を徹底的に数値化して、開発目標を具体的に設定しました。その一方で、メンバーが家電量販店や日本料理店を回って、どんな器具でどうお米を炊けばおいしいのかを実食したりして、その経験や情報を商品づくりに活かしていったといいます。ほかにも、通常の商品開発でも使っているような顧客の声やデータ、現場の意見など、さまざまな情報を集めて精査することで、より質の高い情報をもとに、「高くても売れるおにぎり」の開発を進めていったはずです。
その成果として、2001年12月に「こだわりおにぎり」シリーズが発売され、翌年にかけてラインナップも増えていきます。価格帯は200円とまではいきませんでしたが、160円から180円程度。こうしてつくられた「こだわりおにぎり」のヒットが、ほかのコンビニの高級路線への参入を加速させることになります。
これをきっかけに、日本のコンビニのおにぎり売り場は様変わりします。従来タイプの「センターカット方式」と呼ばれる、三角形の頂点からフィルムひもを引いて開けるおにぎりが並ぶ棚以外に、和紙包装や特別な具材などを使った多種多様な高級おにぎりの棚も増えていったのです。商品によって違いはあるものの、おにぎりはパン類と比べても利益率が高い場合が多いため、コンビニ大手各社は、今や自前のおにぎり専用工場を国内に数十カ所も設けるほどに力を入れています。
近年では、コロナ禍による大幅な客数減少で、ほかの商品はもちろん、従来タイプのおにぎりでさえ苦戦する中でも、高級おにぎりはコロナ前を超える売れ行きを見せているのです。
1965年兵庫県宝塚市生まれ、西宮市育ち。
横浜国立大学工学部中退。
独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。
1989年レッドフォックス有限会社(現レッドフォックス株式会社)を設立し、代表に就任。
モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱。 2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。
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