ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方
(画像=ピアピア/stock.adobe.com)

(本記事は、別所 宏恭氏の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』=クロスメディア・パブリッシング、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

電動アシスト自転車の「想定外」なユーザー

二輪車や水上オートバイ、船外機などのメーカーとして知られるヤマハ発動機が、世界初の電動アシスト自転車を市販したのは、1993年のこと。当初は主に足腰の弱いシニア世代に向けて開発されたものでした。

今から考えると画期的な製品だったのですが、思惑に反してさっぱり売れない。ただ、不人気だった理由ははっきりしています。高齢者は「シニア向け」とカテゴライズされた商品を買いたくないからです。

とはいえ、少ないながらも売れているので、状況を聞こうと営業が販売店にヒアリングに行く。すると、シニア向けの製品なのに、「もっとパワーのある製品がほしい」と言われることが多かったといいます。よくよく聞いていくと、そうした要望を口にしているのは、実は高齢者ではなく、後ろに子ども用のシートを取り付けて保育園の送迎に使っているママさんたちだとのこと。

そうした状況を理解して、ママさん向けに「子ども乗せ」の方向に大きく路線変更したのは、発売からある程度、時間が経ってからだそうです。法改正により、2009年に前と後ろに幼児を乗せる「3人乗り自転車」の利用が解禁されてからは、さらに普及が加速しました。

ママ向けの保育園の送迎用ですから、タイヤを小さめにして、最初からチャイルドシートをつけて売ることにすると、どんどん売れるようになった。そうすると、パナソニックの自転車部門(当時は「ナショナル」ブランド)が参入してきます。

もともと松下幸之助氏が自転車店で丁稚として働いていたこともあって、自転車のメーカーとしても歴史があり、しかも電動アシスト自転車は電器メーカーである本体ともシナジーのある分野。販売力があり、家電などのプロモーションで女性へのアプローチの蓄積もあってか、パナソニックはあっという間にシェア1位になったのです。

ヤマハはブリヂストンに電動アシスト自転車のフレームをつくってもらっていて、ブリヂストンが参入してきてからは電動駆動ユニットを供与するという相互OEM供給の関係になっていますが、国内シェアではパナソニックがダントツの1位。2位にヤマハ、3位にブリヂストンという順位が続いていました。

ブリヂストンは3番手として、どう差別化を図れば、シェアを広げることができるのかを考えます。

先ほどお話ししたように、電動アシスト自転車のメインの使用シーンは保育園の送迎です。「どうすればもっと楽に送迎できるか」を考えて、女性でもまたぎやすいように、ペダル部分と前輪をつなぐフレームを低くしたり、買い物袋をつけられるようにしたりと、いろんなことを試みるものの、パナソニックとヤマハには勝てない。

そこで、女性誌の「VERY」とのコラボレーションで、ママさんたちに向けて、ある意味で「究極の電動アシスト自転車」をつくることになります。その答えは「運転手つき」。つまり、「パパが乗る」ための電動アシスト自転車です。今でこそ、若い男性も数多く乗っていますが、女性や高齢者向けの商品という印象の強かった電動アシスト自転車を、男性ユーザーを大いに意識してつくったのです。

HYDEE.B(ハイディビー)という商品名のものですが、「ハンサムバイク」というキャッチフレーズで、つや消しブラックなどのカラーを用意し、タイヤも大きめ。ハンドルについた計器でスピードも表示できるし、カゴやシートのクッションなど、いろんな部品を好みに応じて変えられる。多くの男性が好むような、スポーティでかっこいいデザインにしました。女性にしてみると、「スピードが何キロ出ているかに興味はないし、とにかく何でもいいから、楽に早く送迎できればいい」という人も多いと思われますが。

もちろん、マーケットとしては、順位を一気に逆転できるほど大きくはありません。やはり仕事の関係もありますから、朝はパパが送っても、迎えはママということも多い。そのため、結局はママも乗れるようにしています。

ちなみに、地方に行くと保育園の送迎はクルマ中心ですし、幼稚園は園バスでの送り迎えが大半であるため、電動アシスト自転車のメイン利用者層は、都市部で子どもを保育園に通わせている人たち、ということになります。また、普及に伴って、最近では本来の開発目的だった高齢者もユーザーとしてしっかり取り込めるようになってきています。

ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方
別所 宏恭
レッドフォックス株式会社 創業者
1965年兵庫県宝塚市生まれ、西宮市育ち。
横浜国立大学工学部中退。
独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。
1989年レッドフォックス有限会社(現レッドフォックス株式会社)を設立し、代表に就任。

モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱。 2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。

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