正しい相続手続き,名義借預金,相続税の申告
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

亡くなった人が、子どもや孫のために貯金を残していることは、少なくないでしょう。

この時、子ども名義や孫名義の預金だった場合、相続財産に含まれるのでしょうか。

もし含まれるとしたら、相続税が課税されることになるのでしょうか。

このようなケースの対処法など、詳しくご説明いたします。

相続税の税務調査

相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に、申告書を提出し、納税しなければなりません。

相続税は、原則として納税期限までに、現金で一括して納付しなければなりません。

申告書は、被相続人(亡くなった人)の住所地の税務署へ提出します。

決して相続人の住所地の税務署ではありませんから、注意が必要です。

原則として、相続人全員で1通の申告書を共同で、提出することになります。

なお、一般的に申告書は、税務署に持参しますが、郵送しても構いません。

税務署に相続税の申請書を提出し、納税すれば、すべて手続きが終わるわけではありません。

提出された申請書について、税務署の資産税専門の部署が、内容を精査することになります。

その後で、申請書の内容を確認するために、税務署の職員が相続人の家を訪問し、申告書の内容について、質問を行ったり、証拠書類の実地調査をしたりします。

このような調査を「税務調査」と言います。

この税務調査は、不正の発見だけを目的として行われるわけではありません。

提出された申告書の内容の基となる資料が添付されていない場合には、その資料をチェックするという目的もあります。

また、不動産などの評価の方法、あるいは預貯金の所有者の認識、つまり自分の預貯金としての意識があるのかどうかを確認する場合もあります。

相続税を申告した場合、この税務調査が行われる確率は、かなり高くなります。

申告書を作成する段階から、税務調査を念頭に置いて、十分に準備しておく必要があります。

税務調査のポイント

税務調査の最大のポイントは、金融資産の確認です。

税務調査では、被相続人の金融資産について、相続開始前、つまり亡くなる7年ほど前にさかのぼって、特に大金の移動をチェックされます。

もし、大金の移動があった場合、その経緯について、相続罪税を申告する相続人が把握していないと、指摘を受けることになります。

ですから、相続人は、事前に通帳を確認し、7年ほど前のお金の動きを確認しておく必要があります。

もし通帳が見つからなければ、銀行から取引記録を取り寄せるなどして、準備しておきましょう。

このような通帳、取引記録がそろったら、相続税の申告前に、預貯金の出し入れとその行き先を把握して、もし現金の使途、行き先が明確でないものがあった場合には、はっきりさせておく必要があります。

特に、被相続人の預貯金が、一部の親族に渡っている場合、その他の親族から不信感を持たれ、トラブルの原因になりますから、相続人全員、親族全員での情報開示に努めなければなりません。

名義借預金とは

「名義借預金」とは、文字どおり「人の名前を借りた預金」のことです。

相続の際、あるいは相続税を算定する際に最も問題なるのは、「相続財産の範囲」です。

通常、被相続人名義の不動産(土地、家など)、所有している動産(車や骨とう品など)は、誰の目から見ても、被相続人の財産、つまり「相続財産」です。

しかし、被相続人が、例えば、孫のために、孫の名前で預金をしていた場合は、どうでしょうか?

預金の名義は孫の名前ですから、普通に考えれば孫の所有物になりますが、お金の出処は被相続人ですから、被相続人の財産、つまり「相続財産」とも取れます。

これが、「名義借預金」と呼ばれるものです。

この「名義借預金」については、被相続人がお金を拠出したものであり、名義本人がこの預金の存在を知らなければ、被相続人の財産とみなされます。

一般的に、被相続人が、生前に配偶者、子ども、孫などにお金を贈与したつもりでも、被相続人自身がその通帳や印鑑などを保管したり、運用したりしていた場合には、「名義借預金」となり、被相続人の財産として、相続税の対象となるのです。

ですから、配偶者、子ども、孫の通帳がある場合には、それが被相続人からの贈与であることをきちんと立証できるようにしておかなければなりません。

課税の対象とならない名義借預金

被相続人が、例えば子どものために預金をして、子ども名義の預金通帳があった場合、基本的に被相続人の財産とみなされます。

では、このような預金が名義人本人の財産、つまり相続財産ではない、相続税の対象のならない場合とは、どのような状況でしょうか?

子どもが被相続人から、生前に贈与してもらったことをきちんと立証できる場合、相続税の対象とならないとみなされます。

立証ですから、最も確かな証拠としては、「贈与契約書」を被相続人と子ども間で作成しておくことです。

もし、年間110万円以上を贈与されていたら、税務署の「贈与税」の申告を行っておけば、その申請書が物的な証拠となります。

相続税申告の注意

相続税を申告する際に、預貯金について注意すべき点があります。

それは、金融資産の残高を確認するために、残高証明書を取り寄せておくことです。

もちろん、通帳でも残高が印字されていますが、以前のままで記録が更新されていない可能性がありますから、残高証明書を準備します。

また、先程もご説明したように、税務調査では、概ね7年間程度の預貯金の動きが調査されますので、預金の出入り、受取人、金額、その年月日などをきちんと把握しておきましょう。

まや、不動産の売却、高額の退職金支給があった場合には、7年間とは限らず、KSKシステム(国税総合管理)で、収入の状況が記載されていますので、是非確認しておきましょう。

このKSKシステムは、「KOKUZEI SOUGOU KANRI(国税総合管理)システム」の略称です。

全国の国税局、税務署をネットワーク結んで、納税者の申告に関する全情報を一元的に管理するコンピュータシステムのことです。

このシステムでは、過去の税申告関連のデータが全て蓄積されており、税務調査対象とする納税記録参照の際などに利用されています。

まとめ

祖父母や親が、子どもや孫のために預金をすることは、決して珍しいことではありません。

しかし、相続に関しては、きちんと手続きを踏んでいないと、被相続人の財産、つまり相続財産とみなされ、相続税の対象となってしまいます。

贈与である証拠を事前に集めて、相続に臨む必要があります。(提供:ベンチャーサポート法律事務所