ウクライナ侵攻後の世界経済
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(本記事は、戸田 裕大氏の著書『ウクライナ侵攻後の世界経済』=扶桑社、2022年7月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

経済制裁の効果によりロシアはどう変化するか

経済制裁が科されたことにより今後のロシア経済やロシア政府の行動がどのように変化していくかを考えていきます。

一つは、既に現実に起きていることでもありますが、ロシアは中国との結びつきをより強めていくということが真っ先に考えられます。2004年まではロシアと中国は国境問題を抱えていたのですが、同年の「中露国境協定(1970年代から続く中国とロシアの国境画定の完了)」を経て、両国の国境問題は解決し、以降は良好な関係を築いています。

またアメリカの政策変更も中ロ関係の強化につながっています。トランプ政権においては1対1の貿易の不均衡を訴えて各国と交渉をしていましたが、バイデン政権下においては「人権問題」を前面に推し進めることで、民主主義陣営と権威主義陣営の対立構造を際立たせており、この状況下においてはパワーバランスの観点から中ロが力を合わせることは必然です。

次にインドとの関係強化が考えられます。

ロシアはそもそも国家戦略として「多極化」を推進しています。これはボリス・エリツィン大統領時代の首相エフゲニー・プリマコフ氏の時代より推し進められており、アメリカの1強体制ではなく、たとえばEU、アメリカ、中国、ロシア、インドの5極など、多極で世界バランスを保っていくべきだとする構想に沿って動いています。

そうした国家戦略のもと、これから大国の仲間入りを果たすであろうインドとの関係を強化していくことは理にかなっています。伝統的に非同盟、全方位外交を志向するインドはロシアの体制を許容できる可能性が高く、大量の資源を必要とする資源輸入国として、ロシア経済との相性もよく、またロシアから武器を輸入していることもあり、国連総会のロシア非難決議を棄権しています。

ロシアへの効果的な制裁とは

ロシアへの効果的な経済制裁を実現するとすれば、対外的な収入源である資源輸出を完全に止めることが重要です。しかし、それではEUや日本における資源調達コストの高騰が想定され、結果として経済活動が停滞してしまいかねず、現実的ではありません。

2022年5月9日、G7がロシアからの石油の輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致したとの方針を発表しましたが、アメリカやイギリスは産油国ですので即時停止できますが、EUや日本は原油など化石燃料に乏しいため、段階的な措置をとることとなります。

またこうした動きは世界の民主主義陣営全体が、中国など権威主義陣営を巻き込みながら進めていかなければならず、そのハードルは依然として高いといえます。

もう一つ効果的な経済制裁は、中東など産油国の協力を得て、原油や天然ガスの供給量を増やし、需給バランスを崩して、資源価格を低下させることです。

ところがアメリカと中東の関係も芳しくありませんし、そもそも中東としても資源価格を低下することは経済的な痛みを伴いますので、現時点では供給サイドに働きかける動きも難航していると見るのが無難でしょう。

軍事的手段を講じるという方法もありますが、NATOは動かないことを宣言しており、これも現時点では非現実的です。そもそも多くの国がロシアの政治的な崩壊を望んでいない可能性もあります。ロシアの一般国民が大きな混乱へと巻き込まれることも望ましくありませんし、核兵器を持つロシアの行動を制御できるかも見極めなければなりません。

こうした状況を投資家らは見越していると考えられ、結果としてロシアルーブルの価値はウクライナ侵攻以前の水準よりも高い位置にまで戻ってきています。

金融マーケットの反応として経済制裁の効果は現時点ではそこまで大きくないと私は考えています。また執筆にあたりロシアの産業構造を考慮しても、やはり資源、特に原油と天然ガスが重要であり、SWIFTの件に関しても代替手段はありますので、制裁の種類は多岐にわたっているものの、効果を十分に発揮できていないと感じます。

ロシアに対して資源輸出をどこまで禁じられるか、資源価格をどこまで低下させることができるか、ここがロシアに対する経済制裁のポイントです。

日本はロシアに対してどう接するべきか?

2020年のロシアの全貿易に占める日本の割合は輸出入ともに3%弱とそこまで大きな割合を占めていません。したがって日本単独でロシアに対してさまざまな策を講じるよりも、各国と協調して足並みを揃えた制裁を行っていくことが重要です。

EUや日本の政府関係者は既に本書で述べてきたことと大筋で同様の解に至っていると思いますので、ロシアの資源輸出を封じたいと考えているはずです。

岸田首相は2022年4月26日、テレビ東京の番組で、原子力発電所の再稼働をめぐり、「原子力規制委員会の審査の合理化・効率化を図り、審査体制も強化しながら、できるだけ可能な原発は動かしていきたい」と発言しました。

これは物価上昇を抑え内閣の支持率の向上につなげたい考えと、もう一点は各国と協調でロシアへの資源依存を低減させたい考えによるものと推測されます。

日本も含めて多くの国が化石燃料を中東やロシアに頼らざるを得ず、ゆえにそれらの国に対して何かを譲歩せざるを得ない局面が出てきてしまうので、先に述べた原発だけでなく、併せてクリーンなエネルギーを含めた新エネルギーの確保に向けて国を挙げて取り組んでいく必要があります。

北方領土問題については大変に残念なことではありますが、協調制裁へと踏み切ったことで一旦は棚上げとなってしまいました。2021年7月に領土割譲禁止を明記したロシア憲法改正があり、返還交渉については既に厳しい状況にあったのですが、今回、ロシアは北方領土の経済協力をめぐる日本との対話を打ち切り、ビザなし交流についても制限すると宣言するなどさらに一段と厳しい状況になっています。

ロシアは過去に中国に対して国境を譲歩した経緯もありますし、日本も過去から粘り強く交渉してきたので、これで話が振り出しに戻ってしまったことは大変遺憾です。

日本が現実的に抱えている国境問題などの大きな問題を解決していくためには、日本自身が世界の国々と対等に交渉をできる力を身につけていく必要があると思います。そしてその交渉力の根拠となるのは、資源のない日本にとっては、やはり日本経済の再興にあると考えます。

資源もない経済力もない、軍事力も制限されているとなると、国際社会での存在感は発揮できません。強い日本、強い経済に向けて取り組んでいくことを今後の政府に期待していますし、自分自身、その分野で貢献できるよう努めていきたいです。

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戸田 裕大(とだ・ゆうだい)
株式会社トレジャリー・パートナーズ代表取締役。2007 年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10 年間、外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして1日に数十億ドルの取引を執行するとともに、日本のグローバル企業300 社、在中国のグローバル企業450 社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019 年9月、CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は法人向けに、トレジャリー業務(為替・金利)に関するコンサルティング業務を提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(小社刊/ 2020 年)がある。

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