ウクライナ侵攻後の世界経済
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(本記事は、戸田 裕大氏の著書『ウクライナ侵攻後の世界経済』=扶桑社、2022年7月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

インフレと金利の関係

次にインフレと関係の深い金利や株式について見ていきます。

2022年に入って株式市場全体が軟調に推移しています。

たとえば世界でも有数の知名度を誇るアメリカの代表的な株価指数S&P500を例にとると、年始の4796・56ドルから4月末の終値4131・93ドルまで13・9%程度下落しています。

これにはさまざまな見方がありますが、ウクライナ侵攻で資源高が長引き経済に下押し圧力がかかりそうなことに加えて、アメリカなど主要先進国の金利が上昇して、資金調達環境が悪化してくることも要因の一つと考えられています。

私が銀行の為替ディーリング部門で働いていた頃、上司からはすべての金融商品の源は金利であり、ゆえに金利を理解すれば、金融マーケットへの理解が深まると教わりました。それくらい金利を理解することは、世界の金融マーケットを理解するうえで重要と考えられています。

基本的に金利は市場で自由に設定されます。ただし、それらの基礎となる金利が存在し、これが各国中央銀行が管理する「政策金利」と呼ばれるものです。

政策金利は通常は翌日物、つまり1日間の金利を指すことが多く、意図としては1日の金利が定まれば、その他の期間の金利にもある程度の波及効果が及ぶことが期待されています。また近年は短期の政策金利を調整することに加えて、長期の年限の金利を調整することにより、短期から長期までの金利全体のカーブをコントロールする政策を採り入れる場合があり、これがYCC(Yield Curve Control)と呼ばれています。

中央銀行はこの政策金利を上げたり下げたりすることで、景気を抑制したり、刺激したりするのですが、その目的は景気調節とともに、物価の安定でもあります。金利を引き下げることで景気刺激や物価上昇を期待し、金利を引き上げることで景気や物価上昇の抑制を図るのです。

このように政策金利を引き上げることを「利上げ」、引き下げることを「利下げ」と呼びます。ニュースや新聞等でも耳にする機会もあるかもしれませんが、利上げや利下げは、実は物価の安定を目的としたものである場合が非常に多いです。

ここまでお伝えしている通り、物価のコントロールが効かなくなると国は崩壊の危機に瀕しますので、そういったことにならないよう金融面では中央銀行が大きな役割を果たしており、そのための代表的なツールの一つが金利調節、すなわち政策金利ということになります。

今、アメリカを中心に主要先進国の中央銀行は利上げに転じています。

金利先物市場という将来の金利を取引する市場があるのですが、そこではアメリカの政策金利は2023年の3月頃に3・3%を超える水準で取引されています。2022年5月5日時点のFFレート(Federal Funds Rate)と呼ばれる政策金利は0・8%台ですので今後10か月程度でさらに約2・5%の利上げを見込んでいることになります。

利上げが行われたのちに、高い水準で政策金利が維持されると経済活動が徐々に停滞していく効果があります。そのためどの程度、政策金利が高水準でとどまるのかも非常に重要で、現在は少なくとも2023年~2024年までは高水準でとどまるというのが大方の見方でもあり、FED(Federal Reserve Systemの略称、アメリカの中央銀行)メンバーの見方でもあります。こういった金利水準の見通しがアメリカのS&P500指数など米株価が下落している一つの要因になっています。

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戸田 裕大(とだ・ゆうだい)
株式会社トレジャリー・パートナーズ代表取締役。2007 年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10 年間、外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして1日に数十億ドルの取引を執行するとともに、日本のグローバル企業300 社、在中国のグローバル企業450 社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019 年9月、CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は法人向けに、トレジャリー業務(為替・金利)に関するコンサルティング業務を提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(小社刊/ 2020 年)がある。

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