2021年、イスラエルのスタートアップは過去最高の技術投資を記録。イスラエルとビジネスを進めるにあたって欠かせないのが、イスラエル人のメンタリティや企業風土を理解した弁護士の起用です。米国、イスラエル、英国にオフィスを構える国際的な法律事務所であるPearl Cohenで、日本およびドイツ・デスクの議長を務め、ハイテク、ベンチャーキャピタル、M&A、会社法、商法を専門分野とするGuy Lachmann氏が解説します。
ポスト・コロナに加速する社会のデジタル化
世界がCOVID-19から回復した後、イスラエルと日本のビジネスコラボレーションはどう変化するのでしょうか。コロナが終息したからといって、2019年と同じ環境、経営状態に戻ると考えるのは甘いでしょう。
世界情勢や、人々の考え方、コミュニケーションの仕方、そして生活に関わるすべてが、2019年末時点の概念とかけ離れていることは周知の事実です。デジタル化、効率的なオンラインソリューション、これまでとは異なる職場環境、労働倫理、ワークライフバランスに対する欲求など、すべてが大きく変化しています。
この変化はイスラエルと日本の関係にも及ぶでしょう。例えば、両国のビジネスパーソンの考え方や、顧客との関係や社内組織のコミュニケーションを促進するためにどのような解決策が必要なのか、といったことです。
2019年の時点で、探求するに足ると考えられていた興味深く魅力的な事柄の数々が、2022年のポスト・コロナの世界にあってにわかに現実味を帯びてきました。企業は率先してサービスを提供していかなければなりません。
日本と同様、世界各国もポスト・コロナのニーズを把握し、解決策を模索しています。イスラエルの先端技術を求めているのは、日本だけではないでしょう。
主要な経済国は、パンデミック後にデジタル化が加速し、日々の問題をテクノロジーによって解決できることを認識しています。デジタル化はもはや数あるオプションの一つではなく、急速に変化する世界と社会に対応するための生き方の一つなのです。
イスラエルで過去最高の技術投資が行われた2021年
2021年、イスラエルでは過去最高の技術投資が行われました。パンデミックはイスラエルのテクノロジー部門に悪影響を及ぼしてはおらず、かえって地元産業を新しい成長へと引き上げたのです。2021年にハイテク産業とスタートアップに世界中から注ぎ込まれた金額は、300億米ドルを超え、過去最高を記録しました。
2022年は減速が予想されていたにもかかわらず、イスラエルのハイテク分野は、前例のない数十億ドルの投資によって、変化しました。地域のエコシステムや雇用市場の再形成によって、新たな機会が創出されています。
日本は、ドイツ、イギリス、アメリカ、南米諸国などと肩を並べ、イスラエルのテクノロジー企業と協働し、現地での取引や協力の機会を獲得していかなければならないでしょう。
そのためには、日本企業はこれまで以上にビジネスに焦点を当て、よりスピーディで効率的に仕事を進めていく必要があります。世界中の同業他社にチャンスを奪われないよう、機会を見極め、イスラエルのスタートアップと契約しなければならないでしょう。そのためには、イスラエルでのビジネスの進め方や、スタートアップ企業がどのような意思決定をしているのか、しっかりと理解することが重要です。
また日本企業は、イスラエルでの取引成立のスピードや、スタートアップの熾烈な競争に適応していく必要があるでしょう。スタートアップの形態は大企業とは異なります。ハイテク企業は、ローテク産業や商業とは比較になりません。これらのスタートアップは絶え間ない生存競争にさらされており、時にはリサーチやプロセスを抜きにした素早い意思決定を行います。
金融危機が予想される中、この状況はさらに激化することは間違いありません。これをよく理解し、決断を下すために勤勉に働けば、技術協力やオープンイノベーションの機会を逃すことも少なくなります。
イスラエルのスタートアップと協働する上では法的基盤が必要不可欠
これらの取引は、ビジネスと法律の調和を図りながら行われるべきものです。
ビジネス上のコラボレーションは、強固な法的基盤が必要です。ビジネスパートナーや技術パートナーを見つけさえすれば、その後も良い取引関係を維持できると考えているなら、それは間違いです。ビジネスをクローズすることと、法的な取引を成立させることの間には、非常に大きな隔たりがあるのです。
企業間の競争で優位に立つには、イスラエルのメンタリティと目的を理解する弁護士の存在が必要です。
日本企業が成功するには、3つ、あるいは4つのステップを含んだ方法論にのっとって取引を進めることです。
評価プロセスは、まずイスラエルのスタートアップ企業の技術力を調査することから始まります。小規模なスタートアップと取引をする際は、製品の機能や技術力に関する情報の信頼性を確かめる必要があります。
評価プロセスが確立されていたとしても、イスラエルのスタートアップが提供する技術を自社に取り入れることは可能か、その技術を日本でローカライズすることが可能か、その製品を日本の市場規模に適合させることは可能か、確認しなければならないのです。
そのためには、PoC(Proof of Concept)の実施が必要不可欠です。PoCの構成はさまざまですが、筆者が考える理想的な方法は、マイルストーンを設定することです。目的を明確にし、マイルストーンを達成し、都度検証することで、両者とも状況に応じて進歩していくことができます。
また、マイルストーンを達成するたびに、支払いを行うことも可能です。例えば、最初のマイルストーンは無料に設定し、つづくマイルストーンでは、カスタマイズされた技術開発、コードの作成、より専門的なプロセスを含む可能性があるため、全額を支払うという形です。
PoCが完了し、成功すれば(それほど時間はかからないでしょう)、実際の取引に移行できます。例えば、デザインパートナーシップ、研究開発、日本または他の場所での流通などを含む商業的な取引などといったものです。
初期段階の買収や投資は熟考が必要
これまでの経験上、スタートアップとパートナーシップを結ぶ際、取引と投資を同時に行うことで、より良いビジネス関係を築くことが可能だとわかっています。実際に、両者の協力関係が強化され、目標達成の可能性が高まることを何度も目の当たりにしてきました。投資額は数十万米ドルから一桁万米ドルまでとさまざまです。ただし、この段階では共同作業を支援するための投資と考え、多額の投資は避けた方か良いでしょう。
このような投資と契約を補足する文書によってさまざまな権利を得られ、将来的により良い条件での契約が保証されます。ビジネス・法律面と投資面との調和を図る上では重要な要素となります。
我々の経験では、最初から買収を検討することはお勧めできません。そのような考え方は時代遅れであり成功につながらないからです。買収を検討するのは、それ以降の段階であるべきです。技術やインテグレーションの検証をせずに買収すると、失敗する可能性が非常に高くなります。M&Aを中心に考えてはいけません。それはいずれ適切なタイミングがあります。企業は逃げませんし、スタートアップを買収しなければ機会を失うという考え方は間違っており、むしろその逆です。
すべての段階において適切なデューデリジェンスを実施する必要がありますが、しばし、法的、財務的、技術的な面でギャップが見受けられます。多くの場合、スタートアップには問題が山積しています。中には、対処しなければならない深刻な法的問題や、プロセスの成功を阻害する可能性のある問題があります。例えば、スタートアップの知的財産権について曖昧だと、将来的にビジネス関係全体の崩壊につながる可能性があります。同様に、スタートアップの株式資本や所有権などに関して不透明な点があれば、投資が無駄に終わるかもしれません。
イスラエルのスタートアップが得意とするデジタルテクノロジーとは?
ポスト・コロナの時代には、デジタル化に関するあらゆることに関心が高まるというのが私の印象です。これは日本経済にとって極めて重要なことです。日本はデジタル化に関して、他の先進国より遅れている部分があります。イスラエルとイスラエルのテクノロジーは、そうしたデジタル化に対するニーズを支援するために最適なのです。
デジタル化といっても、その範囲は非常に広いため、様々な分野が含まれるかもしれません。その典型的な例が、デジタルヘルスであり、デジタルヘルスによって実現される高齢者ケアです。 イスラエルでのテクノロジーは、これらの分野で世界をリードしています。人事や労働環境、食糧技術、農業技術、気候環境技術、グリーン技術、そしてフィンテックでも同様です。
これらはすべて、技術革新を遂げた、あるいは遂げつつある経済圏に関わるものであり、パンデミック後の世界や人々のニーズをサポートするための解決策が望まれています。2019年末時点の予想を遥かに超える形で激化することが予想されます。
その他、より一般的に知られている分野としては、サイバーやサイバーディフェンス、AIや機械学習などがあります。一方で、デジタル化の過程をサポートするという役割も加わっています。
一方、スタートアップは、金融危機においては、実際に利益を生み出すビジネス関係が重要であることを理解しており、より多くのポテンシャルを探ろうとする傾向があります。それを阻害しないよう、また大企業がスタートアップの視点から見て、大きな遅れを見せないよう、万全な対策を講じなければなりません。
日本のビジネスマンは、イスラエルのスタートアップとの、ビジネスや技術協力における環境の変化に備えなければならない、というのが私の見解です。テクノロジーを駆使した新しいニーズに対応する分野にもっと焦点を当てるべきです。そして、ビジネスや法律の専門家のサポートを受けながら、取引が実際に成立し、協働がうまく機能するよう、慎重に進めていく必要があると考えます。
ご用命はPearl CohenのGuy Lachmannまで
米国、イスラエル、英国にオフィスを構える国際的な法律事務所であるPearl Cohenは、ビジネスの効果を最大限に高めるため、イノベーティブな法的アドバイスを提供しています。
筆者はハイテク・グループの共同議長、Pearl Cohenの日本およびドイツ・デスクの議長を務めています。ハイテク、ベンチャーキャピタル、M&A、会社法、商法を専門分野としています。インターネット、モバイル、フィンテック、インシュアテック、デジタルヘルス、ブロックチェーン、モビリティとスマートシティ、メディアとアドテクノロジー、サイバー、アグテックとフードテック、医療機器、さらにHRとレジテックの分野で、起業家や投資家、企業のさまざまな開発段階での代理人を務めています。
イスラエルのスタートアップと仕事を進めるにあたって、法律家のアドバイスを必要としている方は、Guy Lachmannまでぜひお気軽にご連絡ください。