古酒巡礼: 失われた時が育てたワインたち
(画像=NewAfrica/stock.adobe.com)

(本記事は、秋津 壽翁氏の著書『古酒巡礼: 失われた時が育てたワインたち』=あさ出版パートナーズ、2021年7月7日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

コロナ禍の昨今、ワイン会や食事会を自粛せざるを得ない。そこで家飲みが多くなるわけだが、毎晩グラン・ヴァンを飲むわけにもいかない。結果、普段飲みにはお気軽な軽めの古酒となる。オークションのウェブサイトで最低落札価格の低い順にソートして、1960年代から1970年代の手ごろな古酒を探し、ダメ元で最低落札価格+10€くらいのビットを入れていくのだ。だいたい5分の1くらいが落札される。これに送料、国内酒税、消費税などが1本につき3000円くらいのっかる勘定である。

安い理由は幾つかある。①無名のシャトーである。②今はないネゴシアン物である。③液面が非常に低い。④エチケットが汚れている、または全くない。⑤不作の年である。⑥雑多なワインのミックスロットである、など。こうして入手したワインをデイリー古酒として自宅で楽しんでいるのだ。そのうちの幾つかをご紹介しよう。

Châteauneuf du Pape Blanc 1979
Domaine de la Serriere Michel Bernard-VigneronQuartier Sommelongue

4本で80€(安いのは色の変化のせいか)。ローヌの白ワインは全体として酸化に強い印象があるが、色調は4本ともバラバラで、レモンイエローから古い畳の緑茶色までのヴァリエーションだ。1本目は明るい金色、香りは冷たく閉じ気味、平凡だが面白みのある風味。翌日には膨らみが出てきたが、複雑さは乏しい。評価は〇。2本目は一番枯れた色、ひね香が強いが、すぐに日の当たった果物屋の店先のような濃厚な果実が開く。味は、苦みが邪魔しつつも好ましい熟成だ。こちらも〇。3本目は40年熟成にふさわしい落ち着いた色調、しかし平凡な味と香り。時間をかけても知らん顔なので△。4本目は少し濁りのある黄金色、わずかにカビが香るコルク。渋みが強くアルコールは低め。一杯半でギヴアップで×。というわけで、二勝一敗一分でした。

Château Saint Pierre Sevaistre 1974
St-Julien-Beychevelle M,M,Casteleing Van denBussche Prop

古酒巡礼: 失われた時が育てたワインたち
(画像=『古酒巡礼: 失われた時が育てたワインたち』より)

6本で60€(ヴィンテージのせいで安い?)。シャトー詰めで中小ネゴシアン扱いである。購入理由はエチケットに書かれたベイシュヴェルの文字である。コミューン名のサン・ジュリアン・ベイシュヴェルをエチケットに書くことは禁止されているはずだが……。同じワインの最近のヴィンテージにもちろんこの表記はない。ヴァン・デン・ブッシュはオランダの会社で、分散していた畑を統合したが、最良の区画を村長のアンリ・マルタンに買い取られ、シャトー・グロリアに組み入れられてしまったらしい。1982年にはアンリがオーナーになり、ワインの質が向上し始めたという。

1本目は液面ミッドショルダー、コルクは乾燥気味。わずかにさび色の混じる赤紫、おいしそうな色である。香りは全くなし。苦い、渋い、まずい、で×。2本目はローショルダー、干しショウガの香りのコルク。枯れた鉄さび色。アルコールはしっかりしているが、酸が弱くタンニンも細い。すっぽ抜けワイン、×。3本目はローショルダー、ぼろぼろコルク。黒褐色で濃いドライプラム香。骨格はしっかりしているが、前半は素っ気ない。後半、ジャミーに香りが開き大満足、〇。4本目はミッドショルダー、乾いたコルク。味は平凡なボルドーで△。一勝二敗一分。

Château L'Enclos 1973 Pomerol
Société Civile du
Château L'Enclos Schröder & Schÿler & Co

4本で$110。アメリカのオークションではマイナーシャトーは人気がなく、わりと安く落札される。1本目はミッドショルダー、しっとりとおいしそうなコルク。淡い紫の赤褐色、マルベリージャムの香り。細いが艶っぽい酸味と果実味で〇。2本目は液面6㎝、軟らかいコルク。濃厚な土の香り、プルーンシチュー、〇。二勝ゼロ敗。これは当たりだな。

Condrieu Luminescence 1999 E. Guigal( ハーフボトル)

5本で130€。ギガルがヴィオニエの遅摘み葡萄を使い、1999、2003、2015年にだけ造った甘口ワイン。エチケットにキラキラ感を出そうとアルミ箔っぽくしているので、経年変化でぼろぼろになったために格安で落札できた。1本目は濃い赤茶色、強いエステル香。貴腐のような強い苦みがある。酸が細くなっており、べた甘い感じで×。2本目は明るいオレンジ色にわずかな濁り。酒石が沈んでいる。糖度に追いつく酸が残っており、デザートとして単体で楽しめたので〇。3本目は赤褐色、香りがなく、苦みだけが残る。水っぽい酸味も辛くて×。4本目も外れボトル。飲みきれずで×。一勝三敗。

なかなかコスパのよい古酒探しは難しいです。

〈2020.10〉

古酒巡礼: 失われた時が育てたワインたち
秋津 壽翁
1954年、和歌山生まれ。医学の分野に進む前に大阪大学工学部発酵工学科で醸造学を修め、その後に医学部に進んだ。醸造学時代にワインにはまり、やがて「古酒」という異次元の世界にのめり込んで今日に至っている。TVのレギュラーとして「主治医が見つかる診療所」などに出演、「健康には赤ワイン! 」「動脈硬化にはポリフェノール! 」と叫んでいる。

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