イギリスの現代アートを代表するアーティスト、ジュリアン・オピーの個展が東京のMAHO KUBOTA GALLERYで、オピー初のVR個展「OP.VR@PARCO」がPARCO MUSEUM TOKYOで同時にスタートした。ダンスを主題とした5点の映像作品と8点のペインティングの新作がお披露目される注目の展示をレポート。

©︎ Julian Opie/courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

これまで「歩く人」や「ポーズをとる人」、「走る人」「ポールダンサー」など、現代社会における人間のふるまいを主題とした作品を発表してきたオピーが今回着目したのが「ダンス」である。MAHO KUBOTA GALLERYでは、5点のダンスをする人物を写した映像作品と8点のペインティングの新作が並ぶ。

©︎ Julian Opie/courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

考古学の時代区分の一つに挙げられる「先史時代」がある(一般には文献記録が残っていない時代を先史時代とし、それ以降を「歴史時代(有史時代)」としている)。この先史時代に、人類は言語の獲得より早く、ダンスをコミュニケーションの手段としていた可能性があるという。

神々への礼拝や儀式、祝祭などの場で行われてきたダンスは、個々を結びつけてコミュニティーを形成する重要な文化のひとつであり、各国に多種多様の伝統的なダンスが存在する。現代においては、テレビやSNS、ポップ・ミュージックなどのポップ・カルチャーを通じて流行りのダンスが生まれては、時代の象徴として人々に愛されている。

©︎ Julian Opie/courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

オピーが制作したLEDのディスプレイ内で踊るダンサーたちは、TikTok(短い動画を作成・投稿できるSNS)で現在約12億回再生されている人気動画「シャッフル」というダンスだそう。足で規則的なステップを繰り返し踏み、複数人で踊る場合はそのダンスの一体感を楽しむものである。この映像作品でも4人のダンスはぴったりとシンクロしているが、しばらく見ていると、服のなびきや足を上げる角度、足に合わせて動く腕など、それぞれが微妙に違う動きをしていることが分かる。

©︎ Julian Opie/courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

オピーはピクトグラムやアニメの表現を連想させるような、最小限のシンプルな要素で表現するのが得意なアーティストだ。これらの作品もミニマムではあるが、不思議とその人の年齢だったり性格だったり、その人が送る日常生活、ひいてはこのダンスへの意欲までもが感じ取れるほどの個性が作品を見ていると伝わってくる。

オピーの作品はごく自然に、見る人の想像を掻き立てる。そして、描かれているのは誰でもない誰か、つまり現代に生きる私たちを映し出しているように思える。オピーの芸術は、なぜいつ見ても違和感なく心にすっと入ってくるのか、理由はそこにあるのかもしれない。現在から未来へ、時代は移り変わっていくが、見る人全てを投影する普遍性を携え、オピーが描き出す洗練されたミニマムさはこれからも不変であり続けるだろう。

©︎ Julian Opie/courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

同時スタートしたオピー初のVR個展も是非訪れてほしい。VRゴーグルを装着し、オピーの世界に飛び込むことができる革新的な展覧会である。バーチャルな空間に映し出されるのは、これまで美術館やギャラリーで展示してきた作品の再解釈を中心としたもので、オピー自身も「今回は初めてのVR展示だが、他にもさまざまな可能性に繋がる扉を開けたばかりの感覚がある。」(「OP.VR@PARCO」パンフレットより引用)と述べている。文字通り、今までとは違う新たなアートの世界へと足を踏み入れたと感じることができるはずだ。

ジュリアン・オピー

1958年ロンドン生まれ。イギリスの現代美術を代表するアーティスト。風景や人物など、アートにおける伝統的なモチーフをピクトグラムやアニメの表現を連想させるシンプルな描画と色彩表現により簡略化し、最小限の要素で表現するスタイルがアート界のみならず広義のカルチャーシーンで大きな支持を集め続けている。日本美術にも造詣が深く、広重や歌麿などの浮世絵の収集家でもあり、作風への影響もよく知られている。ニューヨーク近代美術館、大英博物館、テートギャラリー、ステデリック美術館など世界の主要な美術館に作品が収蔵されており、日本では東京国立近代美術館、国立国際美術館、高松市等にコレクションされている。

近年の展覧会としては東京オペラシティアートギャラリー個展(2019年)、レンブルック美術館(ドイツ、2019年)、ベラルド美術館(ポルトガル、2020年)ニューランズハウスギャラリー(イギリス、2021年)、ヴェニスビエンナーレ(2022年)などがある。Blurのアルバムジャケット、英国ロイヤルバレエ団やU2のステージデザインなど、アートの枠を越えたプロジェクトも多数手がけている。

「ジュリアン・オピー 個展」

会期:2022年10月21日(土) – 11月26日(土)
時間:12:00-7:00pm(入場無料)
休廊:日・月および祝日 ※ただし11月3日(木・祝)、6日(日)は10時-18時開廊
会場:MAHO KUBOTA GALLERY(東京都渋谷区神宮前2-4-7 1F)
公式HPhttp://www.mahokubota.com

オピー初のVR個展「OP.VR@PARCO」

会期:10月21日(金)- 11月14日(月)
会場:PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)東京都渋谷区宇田川町15-1
入場料:一般1,500円 ※事前予約制 ※ショップは入場無料
前売券販売ページhttps://eplus.jp/OP.VR/
※前売り券は10/15(土)11:00より販売開始
※入場は閉場の30分前まで ※最終日は18時閉場
公式HPhttps://art.parco.jp/museumtokyo/

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文・写真:千葉ナツミ