正しい相続手続き,遺産分割協議,進め方
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

皆さんがただいま、相続手続きに直面しているとしましょう。

ここで、相続人が誰であるか判明したところ、現在絶縁状態にあり、どこにいるか分からない。

そんな状況を想像してみてください。

また、相続人は全員揃っているけれども、実はその中の一人が認知症であることが分かった。

そんな状況もありうるでしょう。

このような場合、私たちはどのようにして相続手続きを進めていけばよいのでしょうか?

相続人はいまどこにいるの?

相続手続きを進めるためには被相続人(=亡くなった人のこと)の財産の承継先となる相続人は誰であるかを確定させなければいけません.

そのためには、相続人がご自身で、または法律専門家に依頼をすることにより、被相続人の出生から死亡までの戸籍の取得をし、相続人の過不足をチェックします。

しかし、場合によってはここで問題が生じることがあります。

つまり、たまに「この人だれ?」という相続人が現れるケースがあるのです。

このような場合にはどうしたらいいのでしょうか?

実は、戸籍によく似たような書類に、「戸籍の附票」と呼ばれる書類があります。

同じ本籍地の市区町村役場にて、この書類を取得すると、その相続人が現在どこに住んでいるのか確かめることができます。

よって、判明した住所あてに対して通知等を行うことによって、その相続人に対して相続があったことを知らせることができます。

ところが、これでも相続人の居場所が判明しないケースも極稀にあります。

例えば、相続人が海外に居住しているようなケースです。

戸籍制度は日本特有の本籍地把握システムですので、海外には戸籍制度がないことが大半です。

そのため、海外に居住しているような場合には、戸籍情報を調べてもそこから、相続人の現在の居場所を特定することはできないことになってしまいます。

相続人が行方不明の場合の相続手続きの進め方とは?

相続人が不明であるからといって、そのままの状態で相続手続きをすることはできません。

そのような場合に、必要とされる以下のような手続きを踏まなければいけないことになっています。

失踪宣告の制度が使える

民法には「失踪宣告」という制度が設けられております。

これは、通常の場合にはある人が7年間行方不明である場合に、その人の利害関係者からの請求により、その人は死亡を擬制されることになります。

ただし、後からその人がご存命であったことが発覚した場合には、複雑なことになってしまいますので、確実に行方不明であり、もう連絡のつくことがあり得ないと確信できる場合以外には、利用すべきではありません。

というわけで「失踪宣告の制度が使える」という表題を付けましたが、結論からすると、確かに使えるが使わない方がよいということになりますので十分ご注意ください。

不在者財産管理人をたてましょう

そこで、失踪宣告の代替的手段として不在者財産管理人を立てることがあります。

不在者財産管理人は、行方不明者の財産を管理監督するために法的に選任される人のことです。

これには、行方不明である相続人の代わりとなり、その者の財産権について代理を行う者を利害関係者が家庭裁判所に申し立てをするという手続きが必要です。

不在者財産管理人には、およそ配偶者の方が就任されることがほとんどです。

不在者財産管理人選任手続きは法的な処理が必要となりますので、やはり選任までそれなりの期間が必要となってきます。

そのため、比較的身近で、きちんとご本人の財産を管理しやすい立場にある配偶者が選ばれる傾向にあるということです。

万が一、配偶者の方がいらっしゃらない場合には、弁護士など法律専門家が就任することになっています。

一点ご留意いただきたいのは、不在者財産管理人の選任申し立てには、所定の手数料がかかるということです。

したがって、申し立ての費用を控除すると、受け取ることができる相続財産が少なくなってしまいますので、予めお金の用意も必要です。

不在者財産管理人はご本人の利益のために行動する

正しい相続手続き,遺産分割協議,進め方
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不在者財産管理人は、行方不明である相続人の利益を確保するように行動するように求められる中立的な職務を行う使命があります。

そのため、遺産分割協議の結果、行方不明の相続人の相続分は一切なしとすることは認められないでしょう。

遺言書を是非作っておきましょう

遺言書を作成しておけば、遺産分割協議をすることなく、相続手続きを進めることができます。

行方不明者がいることが事前に判明しているのであれば、上記のような煩雑な手続きを踏むことなく、円滑に相続手続きを済ませることができるようになります。

相続人に意思能力がない場合には?

相続手続きは、法律に関する手続です。

よって、法律行為を行うための能力が必要となります。

しかしながら、相続人の中に意思能力がない方が含まれていた場合には、どのように相続手続きを進めていけばよいのでしょうか?

意思能力のない方は遺産分割協議に参加できない

まずは、意思能力について簡単にご説明致します。

意思能力というのは、法律行為を行うために必要不可欠な行為に対する弁識能力のことです。

法律上意思能力がない場合は、法律行為をそもそも行うことができないことになっています。

ここで、相続を行うことは法律行為です。

よって、意思能力者は相続手続きをすることができないことになります。

ここで、意思能力のない者について考えてみましょう。

意思能力のない者としては幼児を挙げることができます。

また、この他にも認知症の方も意思能力のない者であると考えられています。

意思能力のない人は遺産分割調停もしくは審判にも参加することはできない

意思能力のない人は相続手続きに参加することができませんので、相続手続きの一種である遺産分割協議に参加することは当然できません。

それでは、遺産分割の話し合いが家庭裁判所、遺産分割調停もしくは審判で行われる場合には認められるのでしょうか。

残念ながら、これも遺産分割協議と同じく認められないという取り扱いになっています。

つまり、認知症等の意思能力のない者は、総じて相続手続きに関与することができないということを意味します。

意思能力のない者の相続手続きとしての成年後見人制度

ここまでお読みいただいた方は、意思能力のない人を無視して相続手続きを進めればよいのではないかと思われたかもしれません。

しかしながら、相続人を一人でも無視して相続手続きを続行することは手続き上認められていません。

そこで、法律上これを解決するために、成年後見制度が設けられています。

成年後見人の申立てをする

「成年後見制度」というのを初めて耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。

これは、事理弁識能力を欠いている、または全くないという人は、そのままでは法律行為を行うと不利益を被る可能性が高いことから、そのような人を保護するために成年後見人等がつくことになっています。

この成年後見人の申し立てを家庭裁判所にて行うことによって、ようやく意思能力のない者も相続手続きができるようになります。

場合によっては特別代理人を選任し、公平な財産分配を実現します

成年後見人は法律専門職から選ばれることが多いですが、ケースによっては、ご家族など身近な人から選任されることも少なくありません。

そんな時に、相続人とご本人を代理する成年後見人が同一の方となってしまった場合はどうでしょうか?この場合、本来はご本人のために行動をしなければいけないはずの成年後見人は、一方で相続人でもあるのですから自分の利益のために自分の相続分を増やすために行動をしてしまうかもしれません。

このような状況では、ご本人が不利益を被る可能性が高くなってしまいますので、特別代理人を選任し、この特別代理人にご本人を代理して公平な財産分配を行ってもらう必要があります。

成年後見人はいったい何をする人なのか

成年後見人はご本人のために行動するといっても、具体的にはどのような行動をとることが目的とされているのでしょうか。

相続の場面においては、成年後見人は財産管理を目的として行動しなければいけないことになっています。

そのため、相続手続きの場面では、最低限のご本人の法定相続分の利益を確保するように行動するよう求められます。

また、成年後見人は家庭裁判所により選任されますので、定期的に財産の状況などを報告する義務を負っています。

成年後見人は万一にでもご本人の財産を減らすリスクのある行動をしてはならず、例えば、投資信託などのリスク性のある支出もしてはいけないことになっています。

法定後見制度と任意後見制度について

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度に分類されます。

法定後見制度はすでにご本人が意思能力を失っている場合に利用されます。

これに対して、任意後見制度はご本人が、意思能力が将来失うことを見越してあらかじめ成年後見人となる者を選任しておくことができる制度です。

相続対策には遺言書の作成がお勧め

意思能力のない人は相続手続きに参加することはできません。

ただし、遺言書を作成しておけば、意思能力のない者がいたとしても比較的円滑に相続手続きを進めることに貢献することができます。

なぜならば、遺言書は意思能力のない者が作成する訳ではなく、意思能力のない者は単純に相続分を譲り受けるだけで済むからです。

まとめ

今回は、相続人に行方不明の者及び意思能力のない者がいた場合の手続きについて解説しました。

いずれの場合についてもしっかりと遺言書をすることが有効となりますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。(提供:ベンチャーサポート法律事務所