マイクロプラスチックは、海洋汚染による環境破壊の要因の一つとして注目され、G20サミットでも問題提起されている。SDGsへの取組みが一般化する中、企業にも対応が求められている課題だ。本記事では、マイクロプラスチックの定義や環境、人体への影響、その対策について解説する。
目次
マイクロプラスチックとは
マイクロプラスチックとは、海洋汚染ごみとして注目されている「直径5mm以下の微小なプラスチック」のことだ。海洋生物が誤飲したり、体を傷つけたりする被害が出ており、2050年にはプラスチックごみの量が海洋生物数を上回るという試算がダボス会議で報告された。
マイクロプラスチックがなぜ注目されているか
「持続可能な開発目標:SDGs」では、17の目標で環境保護や健康について提言されており、マイクロプラスチックによる環境汚染を防ぐ取り組みは目標達成のために欠かせなくなっている。
プラスチックによる海洋汚染は「目標14:海のゆたかさを守ろう」を阻害する大きな課題であり、陸上汚染は「目標11:住み続けられるまちを」のゴミ問題ともつながっている。また、プラスチックの製造や燃焼自体が環境問題の原因となっており、企業にはガバナンスの構築・実行が求められている。
日本開催のG20大阪サミットでは、2050年までに新たな海洋汚染ゼロを目標とする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が宣言され、官民の協力で進める必要がある。
マイクロプラスチックに分類されるもの
マイクロプラスチックの元となるものは、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフレタートなどさまざまだが、発生原因によって大きく以下の2種類に分類されている。
・一次マイクロプラスチック
製品の生産段階で5mm以下の粒子状で製造されている微小なプラスチックのことだ。一般消費者が使用する最終製品の研磨工程に使用される研磨剤、洗顔料のスクラブ剤やファンデーションやコンシーラー、チークなどに含まれるマイクロビーズなど、さまざまなものがある。
・二次マイクロプラスチック
もともとは5mmを超える大きなプラスチック製品やその破片などが、海や川、陸地などの外部環境で紫外線や波の力、物理的な摩擦などにさらされ、長い時間をかけて小さくなったものを指す。
マイクロプラスチックが与える被害
マイクロプラスチックは、海洋流出によって環境や人体に影響を与えるとされている。
環境に与える影響
プラごみの浮遊による海洋汚染はもちろん、海中のポリ塩化ビフェニル類などの「残留性有機汚染物質(POPs)」を吸着、蓄積したマイクロプラスチックを、海洋生物が誤飲するといった悪影響を及ぼす。
魚類や鳥類がマイクロプラスチックを誤って食べると、消化器系の障害や栄養吸収の妨げ、さらには生殖能力の低下などを引き起こす可能性がある。また、これらの影響は食物連鎖を通じて広がり、最終的には人間の食品安全性にも影響を及ぼす恐れがある。
人体に与える影響
マイクロプラスチックは食品や水、空気を通じて人体に摂取される可能性があり、体内で蓄積するとさまざまな健康問題を引き起こす恐れがある。例えば、粒子が消化器官や血液中に入り込むことで内分泌系や免疫系の乱れを招き、アレルギーや炎症反応を引き起こす懸念がある。
マイクロプラスチックの人体への直接的な影響はまだ完全には解明されていないが、人体への潜在的なリスクは無視できない重要な課題だ。
マイクロプラスチックの発生防止に必要なこと3つ
マイクロプラスチックの削減や発生防止には何が必要なのだろうか。
1.マイクロプラスチックの発生源や影響度の調査
マイクロプラスチックは、発生源はもちろん具体的にどのような悪影響を環境や人体に与えているのか解明されていない。これらを科学的な視点で分析、調査して発生源や流出対策を行うことが重要だ。
2.プラスチックごみの排出量削減が重要
使い捨てプラスチックごみの生産や使用を減らし、排出量を減らすことも重要だ。ペットボトルやレジ袋、プラ容器などのごみが多ければ海洋に流出する可能性も高まるため、欠かせない対策の一つである。
3.マイクロプラスチックそのものの使用を止める
一次マイクロプラスチック削減も重要であり、製品開発や製造の段階で使用しない設計が求められる。また、発生してしまったマイクロプラスチックの回収方法も確立しなければならない。
企業の取組事例
環境省の『マイクロプラスチック削減に向けたグッド・プラクティス集』では、さまざまな企業の取組事例が紹介されている。
・スズキ株式会社:船外機に取り付けるマイクロプラスチックの回収装置の開発
・株式会社ダイセル:セルロースを原料としたマイクロビーズの代替素材開発
・JFE エンジニアリング株式会社:水処理装置によるマイクロプラスチック回収する仕組みの検討
・住友ゴム工業株式会社:スポーツ施設で使用する人工芝からのプラスチック流出対策
・日本化学繊維協会:衣服などの洗濯時に発生する繊維くずの測定試験方法の確立と国際標準化
・ミズノ株式会社:プラスチック製パイルの耐久性を向上させた人工芝「MS Craft」の開発
・レンゴー株式会社:生分解性のあるセルロース系マイクロビーズ「ビスコパール」の開発
中小企業でも取り組めるマイクロプラスチック流出対策
製品の開発・製造を行うメーカー以外の中小企業でも、さまざまなアプローチによってマイクロプラスチックの流出対策はできる。ここでは、比較的容易に取り組める活動を紹介する。
廃棄物の管理方法の改善
事業所内で発生する廃棄物を適切に管理し、再利用可能な素材は一般ゴミと分別管理してリサイクルに出すことで、マイクロプラスチックの流出を減らすことができる。
リサイクルすることで新たなプラスチックの製造料も減らせるメリットもあるため、ゴミ箱を分ける、ペットボトルの蓋は別途回収するなど、基本的なことから始めてみよう。
事業所内でのプラスチック使用量削減
事業所で使用する事務用品や食器など、日常的に使用する消耗品にプラスチックの使用を減らすことも大切だ。
例えば、使い捨てのプラスチック製品を使わず、再利用可能な代替品に置き換える、ペットボトル飲料ではなくマイボトルの使用を奨励するなど、自社の状況に合わせてできることから取り組もう。
従業員教育による意識改革
従業員に対して、マイクロプラスチックの問題に関する教育を行い、環境に対する意識を高める取り組みも欠かせない。
どんな活動も、従業員の協力を得られなければ期待した効果は得られない。日常業務の中での環境に優しい選択を奨励し、従業員のマイクロプラスチック削減の積極的な活動への表彰や報奨金の支給を行うなど、モチベーションアップへの配慮も大切だ。
マイクロプラスチックに目を向けてSDGsを達成しよう
SDGsへの関心が高まる中、製造業以外の一般企業経営者にもマイクロプラスチックの発生・流出防止への意識改革と目標達成のための計画・実行が求められている。環境省のグッド・プラクティス事例なども参考に、マイクロプラスチック削減への取り組みを検討してみはいかがだろうか。
Q&A
マイクロプラスチックとは何なのか?
直径5mm以下の微小なプラスチックのことで、マイクロプラスチックの主要物質は、PEやPET、PPなどさまざまである。マイクロプラスチックは、製造段階で元々小さなサイズで作られている一次マイクロプラスチックと、大きなプラスチック製品が環境中で分解されて生じる二次マイクロプラスチックに分類されている。
マイクロプラスチックの何が悪い?
マイクロプラスチックの海洋表層浮遊による海洋汚染や、海洋中のPCBsやDDTs、HCBなどの「残留性有機汚染物質(POPs)」を吸着して海洋生物を媒介とした拡散による環境汚染につながることが懸念されている。
マイクロプラスチックは水生生物によって摂取され、食物連鎖を通じて生態系に蓄積し、生物の生存や繁殖、発育に悪影響を及ぼす可能性がある。また、小さな生物ならば、誤飲によって消化器官に物理的損傷を受ける恐れもある。
マイクロプラスチック汚染の原因は?
製品段階で5mm以下の微小サイズのプラスチック、生産工程で使用されるマイクロビーズなどの「一次マイクロプラスチック」の流出や、プラスチック製品やそのごみなどが海や川などに流出し、紫外線や熱などで粉砕した「二次マイクロプラスチック」が海洋汚染の原因にとなっている。
マイクロプラスチックは人体に有害か?
人間が残留性有機汚染物質(POPs)の蓄積されたマイクロプラスチックを誤飲した海洋生物を食べることで、内分泌系や免疫系などに何らかの健康被害を引き起こす懸念があるとされている。プラスチック製品には内分泌を乱したり生殖機能に悪影響を及ぼしたりするさまざまな添加剤が含有されている。具体的な影響はまだ調査段階だが、マイクロプラスチックが体内に蓄積され続けることは好ましくないとされている。
マイクロプラスチックの回収は難しい?
マイクロプラスチックは直径が5mm以下、場合によっては数マイクロメートルに達するほど非常に小さいため、通常のフィルターや網では捕捉が困難だ。また、海洋や河川、土壌など広範囲に分散しているため、局所的な回収作業では効果が限定的である。
マイクロプラスチックの回収には、海流や風を利用してマイクロプラスチックを集めるフローティングデバイス、排水処理施設などでの微細なメッシュサイズを持つフィルターの使用などの試みが行われている。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)