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富士山マガジンサービス 古い業界にサブスクリプションで新たなプラットフォームを築く
株式会社富士山マガジンサービス 設立:2002年7月 本社:東京都渋谷区 資本金:2億5619・8万円(2017年12月末現在) 従業員数:55名(2017年12月末現在) |
株式会社富士山マガジンサービスは、雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営している2002年設立の会社。1万誌以上を取り揃える雑誌専門の定期購読サービスをEコマースサイトで提供するほか、出版社向けに定期購読に関する業務の請負やコンサルティングなども行っています。日本電信電話株式会社や株式会社ネットエイジグループ(現ユナイテッド株式会社)、アマゾンジャパン株式会社(現合同会社)を経て、会社を設立した西野伸一郎代表取締役社長CEOに話を伺いました。
――売上や顧客数はどういった状況でしょうか?
現在、登録会員数は約280万人で、そのうち定期購読中の会員が約60万人です。その内訳は個人の方が8割、法人の方が2割で、売上比率は個人:法人=7:3となっています。ご存知の通り、昨今は出版不況と言われていますが、おかげさまで当社の売り上げはずっと右肩上がりで、2018年12月期の連結決算で売上高は34・6億円です。それはひとえに、サブスクリプションビジネスだからこそ着実に実績として積み上げられているのだと思います。
――出版不況もさることながら、最近では「dマガジン」など「電子雑誌読み放題」のサービスも増えています。競合に対しての対抗策は?
実は、私たちは電子雑誌読み放題サービスを競合とは考えておらず、共存できるものだと考えているのです。当社もデジタル版雑誌を約3000誌取り扱っていますし、「auブックパス」や「FODマガジン」「U―NEXT」など提携事業者への取次販売も行っています。出版社は当社にデジタル版をPDF納品してもらえれば、各社に納品することができるのです。
――顧客向け施策としてどのようなことに取り組んでいますか?
当社のサービスに価値を感じてもらえるためには、やはりなるべく顧客にさまざまな選択肢をご用意する、ということが一番だと考えています。取扱雑誌の品揃えもそうですし、支払方法もそうです。定期購読の場合、通常は年間購読費を一括払いしてもらうことが一般的ですが、2011年から月額払いを導入し、顧客満足を高めることができました。やはり顧客にとってニーズのあることだったのだと思います。さまざまな顧客とやり取りしていてわかるのは、人によってベストな支払方法や継続頻度は異なるということ。ですから、できる限り多様な手段をご用意することが顧客満足を高めることにつながると考えています。一見、年間契約は事業者にとって魅力的ですが、月間契約にすることでその分顧客との接点が増え、サービスや顧客満足度が向上したことは大きな発見でした。
また、定期購読特典のプレゼントはやはり雑誌によってはかなり効果を上げているところもありますよね。広告を掲載しているクライアントの商材をパッケージすることで、新たなモニター獲得手段として訴求することもできる。読者のニーズをリサーチすることで、どんなものが好まれるのか、年々改善しているところもあります。
――顧客の継続率を上げるために取り組んでいることは?
もっとも効果的なのは、顧客に自動更新を選択していただくことです。自動更新は、あくまでも顧客の手間を取らせないためのサービスという位置づけですが、やはり自動更新を選択している/していないで継続率は大きく違います。更新時期しか手続きのご案内を差し上げない状況では、継続率は低くなってしまいますから、メルマガなどで継続的にご案内をしていくことは基本です。また、これは読者層にもよるのですが、更新時期にお電話一つ差し上げるだけでも継続率が上がるというデータもあります。それこそ、さまざまな施策をトライ・アンド・エラーでABテストしてみて、この案内よりもこの案内のほうが反応が良かった、こっちのほうが好評だったと、一つひとつ……本当に地道な努力なんだけど、こつこつと積み上げてきている、という感じです。そのデータの蓄積があって今、継続率は70%あたりを推移しています。
それと、月額払いというのも顧客からしてみれば、「更新時期のない定期購読」ということなんです。出版社にとっては一括払いのほうが喜ばれますが、顧客にとっては「いつでも好きなときにやめられる」ほうが便利ですから。それも、顧客の選択肢を増やすということです。そして、私たちとしてもマーケティングの手段が広がったんです。一括払いだけの場合、「年間購読費の○%オフ」といった割引しかできませんが、月額払いなら、「初回3号無料」「初回3号までは50%オフ、4号以降は10%オフ」など、柔軟に割引特典がつけられます。もちろん、それ以降の継続率を上げる施策も同時並行で進めなければいけませんが。その結果、新規顧客のコンバージョン(反応)率が上がり、トータルで売上を伸ばすことができたのです。
――今後の展望は?
私たちとしては、これから大きく業界変動が起こる中でも、しっかりと読者、出版社、法人それぞれの顧客にとっての価値を提供していけたら、というところですね。そもそもサブスクリプションという言葉自体、私たちが日本で事業をはじめたときにはまったく浸透していなかったけど、ここ数年、サブスクリプション業界が大きく成長し、さまざまなカテゴリーの事業が広がってきました。やはり、これからどんどん新しいものが生まれてくると思うのです。「サブスクリプションをはじめよう」というより、さまざまなビジネスの可能性を追求していった結果、「あ、これもサブスクリプションだね」となるような。それが、ある意味業界の成熟というか、より良いサブスクリプションビジネスのあり方として定まってくるのだと思います。そしてそこにはイノベーションが生まれるだろうし、できればそれを自分たちでも作っていきたいですね。
●成功のポイント・解説
富士山マガジンサービスの事業モデルは、以前から存在していた「雑誌の定期購読」をベースに、インターネットを介したEコマースプラットフォームを作ることで、顧客・出版社・法人の利便性やコスト削減を追求したもの。企業と顧客にとって、より良い商取引や販売促進をサポートする「BtoBtoC」「BtoBtoB」ビジネスの王道と言えるでしょう。そこに、サブスクリプションの「定期購入モデル」を適用しています。
中でも注目すべきなのは、「顧客・法人向けに定期購読雑誌を販売する」ビジネスだけでなく、「出版社の定期購読関連業務を一手に請け負う」ビジネスを事業の柱に置いていること。雑誌は出版社が価格を決めており、商材の特性上、なかなか客単価を上げることができませんが、顧客情報管理や発送、カスタマーサービスなどの定期購読関連業務は、自ら価格を設定することが可能です。そこで、定期購読雑誌の販売で得られるマージンだけではなく、別の角度から収益を確保しているのです。
また、昨今の紙媒体の販売不振に対して手をこまねくのではなく、いち早く雑誌のデジタル化に着手、2007年にデジタル雑誌の販売サービスを開始し、各電子雑誌読み放題サービスに対してデジタルデータの取次販売を行っていることも見逃せません。
雑誌は各出版社が発行しているものですから、商材のクオリティや内容は出版社に準拠することになります。そのため、富士山マガジンサービスは徹底的に顧客・企業・法人の利便性を追求し、「取扱雑誌を増やす」「決済方法や更新頻度を多様化する」など、とにかく「選択肢を増やす」ことで顧客満足度を高めています。
月額払いの「初回3号までは50%オフ、4号以降は10%オフ」といった訴求方法は、2ステップマーケティングの応用と言えるでしょう。新規会員獲得の反応率を高める効果的な手段です。このとき起こりがちなのは、「50%オフ期間を過ぎるとすぐに解約されてしまう」といったことですが、最低契約期間を設定しておくことで、ある一定の収益を確保することも可能です。
そのほか、「地道な努力」という言葉もありましたが、さまざまな施策を試し、PDCAを回すことでしか得られないノウハウがあります。広告やサイト上の反応率を見るだけでなく、顧客が何を望んでいるのか、カスタマーサービスで実際の声に耳を傾けることも重要です。
最後に、「お得(O)」「悩み解決(N)」「便利(B)」に当てはめてみましょう。
お得(O)
- 「○%オフ」「初回3号無料」など、お得に雑誌を定期購読できる(顧客・法人)
- 煩雑な定期購読関連業務を安価でアウトソーシングできる(出版社)
悩み解決(N)
- 複数の雑誌を定期購読すると、申し込みや振込先、問い合わせ先がバラバラになるのを解決してくれる(顧客・法人)
- どの雑誌を選べばいいかわからないとき、予算内でリスト提案してくれる(法人)
- 定期購読関連業務が煩雑で、カスタマーサービスに追われてしまうのを代行してくれる(出版社)
- 書店では返品率の高い雑誌を、ほぼ返品率ゼロで読者に購入してもらえる(出版社)
便利(B)
- 雑誌の発売日に直接、指定先に配送してくれる(顧客・法人)
- 定期購読していても、好きなときにやめることができる(顧客)
- 自動更新してくれる(顧客・法人)
- 複数の雑誌を購入しても、請求書を一つにまとめてくれる(法人)
- 顧客への新たな販売チャネルを構築できる(出版社)
- 顧客の属性やニーズをマーケティングできる(出版社)