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- Win-Win-Win-Winの事業モデル「サブスクリプション」はなぜ重要なのか?
- サブスク特化会社「テモナ」社長が考える、日本におけるサブスクリプション
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●筆者の体験
なぜ、私がここまでサブスクリプションビジネスを声を大にして広めようとしているのか。それは、会社を起業した当時の試行錯誤が原体験にあるからです。
私はもともとフリーランスのシステムエンジニアとして働いていました。
お客様の悩みや要望を伺い、それを反映したシステムをオーダーメードで設計し、完成したものを納品して、「便利になった」と喜んでもらう――。ものづくりが好きだった私にとって、それは天職だと感じていました。
お客様が他のお客様を紹介してくださり、さらにまた他のお客様を……と、少しずつお客様が増えていくにつれ、仕事もどんどんふくれあがり、一人ではとても追いつかなくなってきました。そこで「テモナ」という自分の会社を起業したのです。
けれども従業員が少しずつ増え、5人ほどになったとき、ふと自分が以前と同じサイクルに入っていることに気づきました。仕事がどんどん増えて、それに対応するために人を採用したら、さらに仕事が増えていく。忙しさは増す一方で、手が回らず納期の遅れも出てしまう。単発の受注に依存しているため売上が安定せず、にもかかわらず人員が増えて固定費の負担は増していく。事業のリスクがどんどん高まっていくのです。
もっと継続的かつ安定的に取引を行い、収益性を確保し、会社を拡大して、もっと多くのお客様に喜んでもらえるようにするためには、どうすればいいのか――。そう考えていた矢先に出会ったのが、あるEコマースでサービスを提供する企業でした。
ネットでサプリメントを顧客に毎月定期的に販売していたその企業は、ネットショップのリニューアルを予定しており、当社はそのシステム構築を受託開発することになりました。ネットショップでは会費を払うと1ヶ月に1回、注文したサプリメントが届くようになっていました。定期会員は200人を超えていたのですが、顧客管理業務はすべてエクセルで行われていました。
顧客ごとに定期購入の基本情報をエクセルのシートで管理していて、注文作成から同梱対応、決済/出荷処理、休止・キャンセルや変更対応などを社員がいちいちチェックして、商品発送を行っているというのです。そのため、商品拡充や細かなお客様フォロー、販売促進活動など、本来やるべき業務がおろそかとなり、それだけでなく人為的なミスが発生してしまうような状況となっていました。「これ以上会員が増えれば、とてもじゃないが管理できない。顧客管理と発送手配、在庫管理などを自動化するシステムを構築できないか」というのが、その企業からの依頼でした。
私は要望通りにネットショップのシステム構築に取り組みながら、内心、その企業が提供している「定期購入」のビジネスモデルに大きな可能性を感じていました。
サプリメントは、習慣的に摂取することに意味があるため、継続的に購入するお客様がほとんどです。いちいち注文するより、一度会員になれば、自動的に商品を送ってくれるサービスのほうが便利でしょう。しかも、都度購入するより定期購入会員のほうが安価になるのなら、お客様としても選ばない手はありません。
お客様にもメリットが多く、企業にとっても顧客と安定的な関係性を結ぶことができ、継続的に収益を得られる――。
そんなビジネスモデルを、自分たちのビジネスにも適用できないか。そうやって考えたのが、ネットショップの定期購入用システムをプラットフォーム化し、月額料金をいただいてサービスを利用してもらうこと。それが、2010年からはじめたサブスクリプションビジネス支援事業の「たまごリピート」だったのです。2019年4月からは、食品、小売、サービス等、業種業態を問わず利用できる、サブスクリプションビジネスのクラウド型システム「サブスクストア」を提供しています。
サービス開始当初から、「こんな仕組みを待っていた」「ぜひ導入したい」という企業からの声をいただき、順調に取引事業者数も増え、今では1400社を超える企業に導入していただいています。そしてテモナは2017年に東証マザーズに上場、2019年には東証一部に上場することができました。それだけ多くの企業が自社事業にサブスクリプションモデルを採用しているのです。
そして、その傾向はますます強まっています。サブスクリプションビジネス支援事業の立ち上げ当初は、サプリメントや基礎化粧品などを定期販売する事業者からの相談が大半でしたが、近年では食品や雑貨から、デジタルコンテンツやソフトウェアなど、その事業分野は多岐にわたってきています。
日本におけるサブスクリプション
サブスクリプションモデルがいち早く広がりを見せた欧米では、「そんなものまで!?」というような商品までもが、サブスクリプションで販売されています。カミソリの替刃やプリンターのトナーのような消耗品はもちろん、医師の往診や弁護士の法律相談サービスだってあるのです。食品や書籍、アパレルなどあらゆる分野でサブスクリプションモデルが取り入れられています。
そしてテクノロジーはますます発達し、顧客の趣味嗜好や消費傾向をデータ化し、アルゴリズムで解析することによって、より顧客のニーズに対応した商品を提案してくれます。たとえば、スポティファイやアップルミュージックなどで聴いた音楽からその人好みのプレイリストが生成されたり、ネットフリックスやプライムビデオで提案されるオススメの動画を、「自分の好みにピッタリだ!」と楽しめたりするようになってきました。
そして日本でも、サブスクリプションは急速に広がりつつあります。調査によれば、動画配信や音楽配信のサブスクリプション型サービスの存在を知っている人の割合(認知率)はすでに50 %を超えています。
一方で、サブスクリプション型サービスの利用経験のある人はまだまだ少なく、利用経験のない人が3割以上、さまざまなサブスクリプション型サービスの存在を知らない人も3割以上にのぼります。
サブスクリプションモデルを事業に取り入れる企業は年々増えてきましたが、まだまだ市場としては未成熟と言わざるを得ません。同一商品を定期販売するようなシンプルな事業モデルに留まっているものや、海外の成功事例をそっくりそのまま模倣したものの、うまくいかずに撤退を余儀なくされる事例もあるようです。当然ながら、日本と海外とでは、価値観や文化、商習慣や生活習慣も異なり、好みや特性も異なります。日本でサブスクリプションビジネスを成功させるには、日本に暮らす人々が本当に欲しいものは何なのか、「こんなサービスがあればいいのに」と望んでいるものは何なのか、徹底的に考え抜く必要があるのです。
私は2010年以来、1000社を超える企業と取引を行う中で、「これこそが日本におけるサブスクリプションビジネスの成功の鍵だ」と思えるノウハウを蓄積することができました。本書でそのノウハウを、できる限りわかりやすくお伝えします。この本を読むことで、一人でも多くの事業者、経営者に、移り変わりの激しい変革の時代を生き抜いてほしい。少しでも楽に事業の成功を手にしてもらいたい――。それが、私の大きな願いです。