サブスクリプション実践ガイド
佐川 隼人(さがわ・はやと)
日本サブスクリプションビジネス振興会 代表理事、テモナ株式会社 代表取締役社長。学校卒業後、起業した事業が解散。就職し、営業の傍ら独学でプログラミングを学ぶ。その後、約2 年オーストラリアへ留学したのち、フリーランスとして独立。いくつかの起業経験を経て4 度目の起業となる2008 年10 月にテモナ株式会社を設立。労働集約型のシステム受託開発事業に限界を感じ、サブスクリプションビジネスモデルに転換。SaaS サービス「たまごリピート」「サブスクストア」を開発。2017 年にマザーズ上場を実現。2019 年4 月、東証一部昇格。2018 年12 月、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会(サブスク振興会)を設立。代表理事に就任。

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『サブスクリプション実践ガイド』シリーズ
  1. Win-Win-Win-Winの事業モデル「サブスクリプション」はなぜ重要なのか?
  2. サブスク特化会社「テモナ」社長が考える、日本におけるサブスクリプション
  3. 雑誌のオンライン書店「富士山マガジンサービス」サブスクモデル成功のポイント
  4. ヘルスケア通販「MEJ」サブスクモデル成功のポイント

あらゆる分野で広がるサブスクリプション

なぜ今、サブスクリプションが注目を集めているのでしょうか。

さまざまな要因が考えられます。そのひとつは、他でもないインターネットの普及でしょう。インターネットによって、ニュースやコラム記事、音楽や動画などさまざまなコンテンツが無料で見られるようになりました。いわゆる「フリーミアムモデル」が台頭してきたのです。それによって、従量課金制、つまり利用するたびに支払いを求められる仕組みが、人々の消費行動に馴染まなくなってきました。

あなたもきっと携帯電話の料金プランを、当たり前のように「通話し放題」や「データ定額」にしていることでしょう。今さら「動画を観た時間に応じた料金を払ってくれ」と言われても、戸惑うのではないでしょうか。

また近年、多くの人の関心事は、物質的な豊かさを求めることから「体験としての楽しさ」へ移り変わってきました。いわゆる「モノ消費からコト消費」への移行です。

たとえば、会員制スーパーのコストコへ足を運ぶとき、あなたの目的は何でしょうか。決して「ほしいものを安く大量に手に入れる」だけではないはず。おそらく、「海外で買い物をするような楽しさ」「珍しい商品を見つけるワクワク感」なども求めているのではないでしょうか。つまり、消費体験そのものに「ストーリー」を求めているのです。それにともない、企業やブランド、ショップが発信するストーリーやメッセージに共感し、それらに参加するために「会費」を払うという消費の仕方が広がってきたのです。

一方で、そうやって消費者のニーズが多様化し、商品やサービスが細分化され、選択肢が無数に増えたぶん、「どれがいいかわからない」「選ぶのが面倒」「好きなものを好きなだけ利用したい」といった意識を持つ人が増えてきたことも確かです。

洋服のコーディネートに迷ったとき、インターネットで「コーディネート おすすめ」と打ち込んで検索しても、自分に似合う洋服はわかりませんよね。かといって、実際にセレクトショップへ足を運んで、店員さんに「お似合いですよ」と言われても、本当に似合っているかどうか不安になったり、余計な服を売りつけられてしまうのでは? と思ったりする人もいるのではないでしょうか。その代わりに、プロのスタイリストが自分のために選んでくれた洋服を借りられる定額制のファッションレンタルサービスなら、いつでも自分に似合ったファッションを安心して楽しむことができます。

つまり、サブスクリプションは、多種多様な消費者の気持ちを最大限にくみ取り、悩みや課題を解決する手段として、非常に優れたビジネスモデルなのです。だからこそ今、勢いのある企業がこぞって導入していると言えるでしょう。

なぜサブスクリプションが重要なのか?

サブスクリプションは、消費者の悩みや課題を解決してくれるだけではありません。もちろん、企業側にとっても大きなメリットのあるビジネスモデルでもあるのです。

あらゆるビジネスモデルは「フロー型(労働集約型)」と「ストック型」の二つに大別されますが、サブスクリプションはストック型に分類することができます。

フロー型ビジネスは、単発の受注や販売で収益を上げつづけるビジネスモデルのことです。自動車を製造して販売する、野菜を仕入れて売る、レストランで料理を出してお金をもらうなど、世の中の多くの事業がフロー型のビジネスモデルで行われています。このモデルでは、販売するたびに確かな収益が得られますが、継続的な売上見通しを立てることは困難です。景気や気候、ライバル店の動向など外的要因によって業績が左右されやすく、先々の計画も立てにくいと言えます。

売上の見通しを立てるうえで経営者が参考にするのは、一般的には前年実績や見込み客だと思いますが、これらが一定のペースで続く保証はどこにもありません。経営者はスタッフに「最低でも前年比110%を達成できるように頑張ろう」などと漠然とした数値目標を掲げることもあるでしょうが、その数値は予測に基づくものではなく、期待に基づくものに過ぎません。頑張りによって一時的には前年比110%を達成できたとしても、それが続く保証もないのです。

来月、再来月といった先々の売上の見通しが立てにくいため、生産や設備投資の計画も立てにくく、その意思決定はつねにリスクの高いものとなります。期待によって作られた「前年比110%」といった事業計画に基づいて生産しても、売上が思ったほど上がらなければ、余剰在庫が生じることにもなり業績が落ち込みかねません。業績の見通しが立てられない、先行きが不透明・不安定な会社ということになると、銀行や投資家から高い評価を得ることは難しいでしょう。資金繰りに不安を抱え、上場を目指すこともできず……と、経営者はネガティブな要素ばかりに悩まされることとなるのです。

一方、ストック型ビジネスは、単発ではなく継続的な収益を確保していくビジネスモデルです。1回売り切って終わり、ではなく、一度契約したら毎月定額で料金をいただく、というわけです。

ストック型ビジネスでは基本的に、顧客数・顧客単価・継続期間(解約率)というわずか3つの要素の掛け算で売上の見込みを立てることができます。継続的な収益が見込めるため、事業計画の策定も比較的容易になってきます。安定的な収益基盤を構築するのには時間がかかるものの、一度それを実現することができれば、利益を計画的に投資へ回すことも可能となります。

たとえば、アマゾンが提供しているサブスクリプション型プログラム「Amazonプライム」はその最たるものと言えるでしょう。4900円(税込)の年会費、もしくは500円(税込)の月会費を払えば、配送料が無料となり、速達が可能となるほか、さまざまな動画が配信されている「プライムビデオ」を視聴することができます。プライムサービスは年々、コンテンツが拡充されており、音楽聴き放題の「プライムミュージック」や書籍読み放題の「プライムリーディング」などお得なサービスが提供されています。会員の支払う会費を資本に、ますます顧客満足を高めようとしているのです。

つまり、ストック型のビジネスモデルであるサブスクリプションを導入すれば、価値観や志向性が多様化した顧客のニーズに細やかに対応することができるだけでなく、企業も収益を安定的かつ継続的に上げることができるのです。そこで働く社員たちにもより多くを安定して還元できるようになるでしょう。そうして企業価値も上がれば、銀行や投資家からの評価も上がるでしょうし、資金繰りの不安も軽減され、上場を目指すこともできるかもしれません。

サブスクリプションは、顧客・企業・社員・投資家にとって「Win-Win-Win-Win」の理想的なビジネスモデルなのです。