ロシアへの世界的制裁が強まる中、対ロシア貿易拡大やロシア株式取得計画を進める中国が「巻き添え」になるのではないかとの懸念が浮上している。米上場中国企業273社が上場廃止に追い込まれるリスクが高まったことも圧力となり、テック株は約250兆円の損失、各種中国企業株価指数は最低水準に落ち込んだ。
中国株叩き売り! 世界金融危機以来最悪のパニック
2022年3月11日は香港上場の中国株にとって、世界金融危機以来最悪の1日となった。
中国政府による大手企業締め付け強化、米市場締出し、コロナ感染再拡大など、ロシアのウクライナ侵攻以前からすでに市場のセンチメントは悪化していた。そこへ中露の密接関係に対する懸念と新たな規制リスクへの警戒心が高まり、パニック売り連鎖を誘発した。
アリババやテンセントなどのIT大手株を筆頭に中国株の売りが深まり、ハンセン中国企業指数は2008年11月以来最大の下げ幅となる7.2%減で取引終了した。ハンセンテック指数は11%下落し、2020年7月の指数開始以来最悪の下げ幅を記録した。年初のピークと比べると、わずか1日で2兆1,000億ドル(約250兆8,813億円)の価値が消滅するという大混乱ぶりだ。
一方、中国ジャンク債の利回りは初めて25%を上回り、10年債の利回りは過去3ヵ月で最高水準に達した。市場のパニックの飛び火は、不動産市場や国外上場にまで及んだ。
広範囲な相場暴落を受け、JPモルガンチェースは一部のIT株を "投資対象外 "と判断したほか、チャイナ・ルネッサンス証券の株式責任者アンディ・メイナード氏は、「2008年の金融危機よりも緊迫した状況かもしれない」と警鐘を鳴らした。
アリババなど大手株が反発
事態を重く見た国務院金融安定発展委員会は2022年3月16日、国内金融市場の安定と経済成長を後押しする方針を打ち出した。中国企業の国外上場を支援するとともに、米上場の中国銘柄を巡る規制問題について、米当局との協議を介して具体的な計画の策定を進めているとの声明文を発表した。
発表後は市場に楽観的観測が広がったことから、一部の大手株は目を見張るような回復を見せた。アリババの株価はニューヨーク証券取引所で20%以上、香港証券取引所で27%上昇した。Eコマース JD.com (JD)の株価は、香港証券取引所で35%以上急上昇した。
しかし、「中国株に圧力をかけていた規制の改善や支援政策が好機となり、2022年後半には本格的な転換期を迎える」というポジティブな見方がある一方で、依然として懸念要因が内在している事実を指摘する声もある。国泰君安証券のアナリスト、ダニー・ロー氏は「市場センチメントの改善は非常に短期的なもの」とバロンズ紙に語った。
中国企業237社による米上場廃止の損失、推定131兆円以上
中国株への警戒が長引くと予想される要因は複数ある。
1つ目は中国企業の米上場廃止だ。2021年12月12月に米国で「外国企業説明責任法(The Holding Foreign Companies Accountable Act、以下HFCAA)」が成立し、3年連続で米公開会社会計監視委員会(PCAOB)の監査基準を順守できていない企業は、米国内の証券取引所での上場が禁じられることとなった。
米証券取引委員会(SEC)は2022年3月、HFCAAに違反している中国企業5社に監査に必要なアクセスをPCAOBに提供するよう通告した。通告を受けたのは、KFCやピザハットなど1万1,000軒以上のレストランを中国で運営しているヤムチャイナホールディングスや、バイオテクノロジー企業ベイジーン、ザイ・ラボなどだ。
いずれの企業もHFCAAの要件を満たすために動いているが、順守できない場合は2024年以降、強制上場廃止となる。同様のリスクに直面している中国企業は237社にのぼる。強制上場廃止が現実となれば、総額1兆1,000億ドル(約131兆 4,121億円)の時価総額が失われるとフォーブス誌は算出している。
対ロシア中立的支援が新たな火種に?
もう1つの不安要素は、ウクライナ情勢を巡る中国の中立スタンスだ。
中国はロシアの行動を批判・制裁しないが、軍事侵攻に反対していること、武力や武器の支援を行う予定はない意思を一貫して明確にしてきた。米国側は3月14日の米中高官会談で、「中国がロシアを支援した場合は、制裁の手が中国にも伸びる」と釘を刺しており、中国も中立スタンス維持を改めて表明した。
しかし、ウクライナ侵攻に先駆け、これまで輸入制限を行ってきたロシア産の小麦を全面解禁したほか、のガスや石油の供給を強化する一連の取引に署名している。また、ロシアのエネルギー、コモディティ企業の株式購入あるいは増加を検討していることが関係者の証言から明らかになるなど、間接的な経済支援を提供している。
中国側にとっては、東欧の紛争がエネルギーや金属、食料品などの高騰を加速させている現状を踏まえ、輸入を確保する意図もあるはずだ。主要国がロシア制裁を強化する中、中国の中立的支援が新たな火種になる可能性は十分に考えられる。
足元が崩れ始めた中国の現状を象徴?
折しも、中国では国有企業(SOE)によるデフォルト(債務不履行)の割合が増加しており、恒大集団の巨額負債を引き金とする不動産バブルの崩壊への警戒も高まっている。今回の中国株暴落は、足元が崩れ始めた中国の現状の象徴なのだろうか、それとも「転換期」が訪れる兆しなのだろうか。
文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)