企業はそもそもなぜ「上場」を目指すのでしょうか。成長するため、優秀な人材を確保するため、資金調達により事業を拡大するため。あるいは厳しい日本経済の中で生き残るため。
様々なメリットが得られる上場ですが、一般市場と呼ばれる東証一部や二部、マザーズ、JASDAQ への上場は「ハードルが高い」と感じている経営者も多いのではないでしょうか。
そのような中で、地方企業や中堅・中小企業等、より多くの企業の皆様にご活用いただきたい想いから2009年、新たに東京証券取引所「TOKYO PRO Market(TPM)」が開設されました。
2021年の新規上場企業社数は過去最高を突破!
TPMとは参加できる投資家を、投資の知識や経験が豊富なプロ投資家のみに限定していることが大きな特徴のひとつです。一般市場と比べて上場企業数はまだ少ないですが、2021年の新規上場企業社数は過去最高の13社 を記録しました。今年に入ってからも、2月末までの2ヵ月間で6社が新規上場を果たしており、TPM市場は盛り上がりを見せています。なぜTPM市場の注目度が増しているのか、TPMにはどのような魅力があるのかを解説します。
「なぜTPM上場か」5つの魅力
1つめは、TPMの上場基準は一般市場と比べて比較的緩やかであるため、上場のハードルが低いといわれています。
一般市場ではそれぞれの市場ごとに「利益の額」や「株主数」「流通株式時価総額」など、数値的な基準(=形式基準)が設定されており、上場しようとする企業はこれらをクリアしないといけません。一方でTPMは、こういった数値基準(=形式基準)が一切設定されていません。参加できる投資家をプロに限定することにより、TPMは一般市場よりも柔軟な市場設計となっています。 そのため会社の規模に関しても、売上10億円以下や従業員数10名以下の会社でもTPMに上場したケースが複数あります。これらの理由から、TPMは中小企業でも比較的上場しやすく、一般市場への登竜門としても、多くの企業の経営者様に目指していただきやすい市場といわれています。
2つめの魅力は、経営の支配権(オーナーシップ)を維持したままでの上場が可能である点です。
上場と聞くと、株式を公開し、売り出さなければならないというイメージですが、TPMは流動させなければいけない株式数や株式比率に関する基準もなく、上場時に株式を手放す必要もないので、株主構成を変えずに上場することができます。社員を家族のように思い事業を大切にしてきた経営者にとっては、「利益至上主義の株主に惑わされないか」など、外部の顔の見えない株主に不安を抱くこともあるでしょう。上場時、株式による資金調達が任意のTPMであれば、経営の支配権を維持したまま上場することができるのです。
3つめは、J-adviser制度により、上場前~上場後まで専門家のアドバイスを受けられる点です。
同制度は、東証が「企業に対する経営支援の経験が豊富で、IPO(株式上場)に関わる深い知見を有している」と認めた企業にJ-adviser資格を付与し、J-adviser企業が東証や証券会社に代わって上場準備のサポートや上場審査、上場後のモニタリング業務を一貫して行う制度です。東証とのやりとりも、すべてJ-Adviserが行います。J-adviserのサポートにより、着実に最短距離で上場を目指せるのは、TPMの大きな魅力のひとつと言えます。
4つめに、上場準備プロセスそのものが異なる点です。
TPMの上場に必要な監査期間は1年、一般市場では2年の監査期間が必要です。そのためTPMは一般市場よりもスピーディーに上場することができ、同時に上場準備期間を短縮できるので、結果として上場コストの抑制にも繋がります。一般市場に上場する際は、株主数を増やすため、または資金調達のために、証券会社を通じて資金調達(IPOファイナンス)を行います。株式市場のキャパシティーやカレンダーの都合から、一般市場に上場できるのは年間100社前後がリミットと言われています。上場基準をクリアできるような体制整備を行ったうえで、更にこの100社選ばれないと一般市場へは上場できないのです。これが、一般市場への上場が「狭き門」と言われる所以です。 しかしTPMは門戸が広い上にスピーディーに上場できるため結果コストの抑制につながるのです。
5つめは、前述したとおりTPMは柔軟な市場設計を持っているのに、得られるメリットは一般市場と変わらないという点です。
TPMへの上場も、「東証上場」ということに変わりはありません。 正式に東証に認められた企業ということになり、金融機関からはもちろん、取引先からの信頼性が高まり、新なビジネスチャンスが生まれます。採用活動でも、上場しているかどうかで安定性や健全性を判断する人は多いため、上場企業になることは優秀な人材の確保につながります。また上場時の打鐘セレモニーも一般市場と同様に行われたり、名刺に東証ロゴマークを使えたりと、上場の恩恵を一般市場と変わらず受けられる点も魅力です。
信頼獲得のため、社員の士気向上のため、資金調達をして新たな挑戦を行うため、一般市場上場へのファーストステップ等、TPMの活用方法はささまざまです。地方の企業であれば地元の経済に貢献する”スター企業”となり活気が溢れる。中堅中小企業にとっては、成長の起爆剤となり、飛躍的な事業拡大ができる。TPM上場はそんな可能性を秘めています。
「一般市場に向けて上場準備中だけど、なかなかうまくいっていない」
「上場したいけど、外部株主には入ってこられたくない」
「経営スタイルを変えずに今後も成長を続けたい」
といったお考えをお持ちの皆様。TPMは、中堅中小企業オーナーなら一度上場を検討してみる価値がある市場といえそうです。
TPM上場に向けて必読の一冊
日本M&Aセンターでは、中小企業の成長やイグジット(経営のゴール)を叶えるべく、J-AdviserとしてTPM上場を支援しております。当社執筆の書籍「中小企業のための新しい株式市場 東証TOKYO PRO Market あなたの会社も上場できる」では、「どのような企業がTPM 上場に適しているのか」や、実際上場した企業経営者の「上場に至るまでの心理的変化」なども事細かにご紹介しており、TPM上場にご関心のある方にとっては必読の書です。是非こちらもご覧ください!