矢野経済研究所
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日本財団が進めてきた無人運行船の開発実証プロジェクト「MEGURI2040」に2つの大きな成果があった。1月11日、丸紅、トライアングル、三井E&S造船、横須賀市をメンバーとするコンソーシアムは横須賀の猿島で小型観光船による実証実験を実施、離桟から着桟を含む1.7㎞の航路で無人操船を成功させた。その6日後、17日には日本財団、三菱造船、新日本海フェリーによるコンソーシアムが世界初の大型フェリーによる無人運行実験を実施、こちらも成功した。

後者の実験に使用された船は新日本海フェリーの「それいゆ」、総トン数15,515トン、全長222.5mの大型船、就航は2019年、設計段階から将来の無人航行を想定した最新鋭の “スマートフェリー” である。実験は新門司港から伊予灘沖で約7時間かけて実施、一般の船舶や漁船との衝突を回避しながら最速26ノットという高速での自動操船に成功した。また、回頭や後進など、高度な操船技術が要求される自動離着岸の実験も成功させている。

国内旅客船の船員数は2000年代初頭からこの20年間で1万人から7000人へ減少している(国土交通省)。背景には船員の高齢化、離島の過疎化に伴う航路の採算性悪化がある。「MEGURI2040」は2040年時点に国内船籍の50%を無人運行船に置き換えることを目標としており、内航船舶関連事業者のみならずICT、AI業界などへの波及効果も大きい。経済効果は1兆円、成長産業として日本が世界で戦える技術分野の一つである。

さて、2020年7月、商船三井が傭船した「WAKASHIO」がモーリシャス沖で座礁、大量の重油が流出した事故はまだ記憶に新しい。原因は、船員が携帯電話を使うために島に接近したため、と報道された。海難事故の8割がヒューマンエラーと言われる。完全な無人航行の実現には時間を要するだろう。しかしながら、船の安全航行システムをクルマの運転支援システムレベルに引き上げることは可能であろう。技術面での実証実験と合わせて、規格、法体系、費用負担の在り方などシステムの段階的な導入に向けて国際的なレギュレーションづくりを主導して欲しい。

余談になるが、その「WAKASHIO」を所有する長鋪汽船が1月21日付で一通のリリースを発表した。タイトルは “当社管理船の座礁および油濁発生の件 第14報”、内容は「2022年1月15日、船骸の撤去がすべて完了した。引き続きオイルフェンスの撤去作業を進める。今後も現地当局と連携し、環境の修復に努める」とのことである。私見ながらここまで報じてはじめて本当の意味での報道ではないか。危機に際してこそ経営者の資質が問われる。我々はそこに企業の真価を見出したい。

今週の“ひらめき”視点 1.23 – 1.27
代表取締役社長 水越 孝