アベノミクスが始動してから約半年が過ぎた。評価のほどは未だ定まってはいないが、長年の景気低迷に対するカンフル剤としての効果はてき面であったといえる。バブル崩壊と不良債権処理に呻吟した日本は、その後のアジア通貨危機、リーマンショック、あるいはヨーロッパ通貨危機などの影響で経済の疲弊はその極に達していた。失われた20年にとどめを剌しかねなかった急激な円高によって、製造業の海外シフトが加速し、国内民間設備投資減少、雇用情勢悪化につながった。そして雇用の悪化は民間消費支出の長期停滞となり、構造的デフレの慢性化となって表れていた。

アベノミクスは、上記のごとく、とどめを剌されかねなかった日本経済を劇的に救済したカンフル剤であった。 円高が修正され輸出産業を中心にその恩恵を受け、株価も著しい回復を見せた。旧来型ではあるが公共工事主導による景気刺激策によって、国内で最も就業人口の多い士木・建設業経営者に大いなる安堵をもたらした。同時に、衰退の一途であった地域経済にも、暁光を拝する感 を与えてもいる。

膨張するマネタリーベース

アベノミクスとM&A
(画像=William Potter/Shutterstock.com)

アベノミクスの「本質」とは何か。その第1ステージは「マネタリーベース」の膨張、およびそこから生じる連鎖的信用創造による景気浮揚ということに尽きる。5月末現在でのマネタリーベースは市場空前の約160兆円。いわば膨張した「官製金融システム」に立脚景し気た浮揚である。黒田日銀総裁は就任時にマネタリーベースを2年間で倍増させる旨を表明している。

アベノミクスは、景気底割れをぎりぎりの線で回避するためのカンフル剤として成功をおさめたことは事実である。しかし、ヨーロッパ通貨危機およびその後の実体経済の混乱をみるまでもなく、金融システムは、グローバルな環境となった現在では、わずかな状況変化にセンシティブであり、容易に変節するものであることも見過ごしにはできない。

BRICs経済の減速によって国際商品市況の過熱感が一服している現在、想定外のインフレに見舞われる可能性は低いであろうが、為替市場、商品市場、債・券株式市場などは一夜にして変転し、時としてオーバーシューティング現象が起こり得る。その際に現政権および日銀がどう対応するかを常に想定しておくべきだと考える。膨張した金融システムに立脚した実体経済もまたセンシティブであり、容易に変調することにも注意を要する。

成長戦略の根幹とは?

アベノミクスの一方の柱は「成長戦略」であることは論をまたない。カンフル剤的施術をしたうえで、持続的な成長をどう描き切るかが課題である。「高齢化社会への対応」、「グリーンエネルギー需給の実現」、「次世代インフラの構築」、「地域資源の活用」、以上4つの中核領域は良いとして、成長戦略立案の根幹は「新たな付加価値の創造」とその「健全な市場化」が骨子となるべきである。なぜなら、「成長」とは消費サイドの潜在的欲求・要求を、供給サイドが技術革新、ノウハウ、資本他あらゆるリソースを使って満たし続けることにより達成されるからだ。また創造される新たな付加価値は、「知財」として一定期間供給サイドを潤すべきである。これにより両サイドの「豊かさ」と「富」が増大し、さらに重要な点であるが、新たな「雇用」を生み出すことにつながる。旧来型のハード・インフラ重視の経済成長はもはや財政上許されない。

企業の3大投資 -R&D、設備、M&A-

この意味では、成長戦略の牽引車となるべきは「官」よりもむしろ「民」である。官は法制面の整備・改廃、規制緩和、税制面におけるグローバルな視点での改善などの側面支援に回るべきだと考える。「新たな付加価値の創造」とその「健全な市場化」は、民間企業が日々取り組んでいる課題であり、永久に求め続けるゴールでもある。企業は、成長の源泉である「R&D (研究開発)投資」を積極的に行い、新たな付加価値を絶えず模索する。FSを経た市場化段階で、新たな「設備投資」がなされる。さらに、自社内リソースにとどまらず、「他社リソースの取り込み」も視野に入れながら行うことが投資効率の面で必要だろう。我田引水の謗りを恐れずに言うならば、ここに企業による「M&A投資」の重要性があると考える。

200兆円といわれる民間企業手元キャッシュが、法制・税制面での後押しを得ながらR&D投資、設備投資、およびM&A投資に効率よく配分される時こそ、アベノミクスの第2ステージ「成長戦略」が実現される時だと考える。

平山巌(執行役員企業戦略部長 株式会社日本M&Aセンター)