10月26日、三菱重工はH-ⅡAロケット44号機の打ち上げに成功、準天頂衛星システム「みちびき」の初号機後継機が無事に軌道投入された。「みちびき」は日本独自の衛星測位システムで、初号機の打ち上げは2010年、現在は4機体制で運用されている。通常、静止衛星は赤道上を地球の自転周期と同じ周期で公転しているが、「みちびき」は宇宙から見て日本からオーストラリアにかけての上空を八の字を描くような軌道をとる。こうすることで常に1機を日本の上空に滞在させることができる。複数機での運用は日本上空の滞在時間を長くとるためで、2023年度には3機を追加投入、7機体制での運用を目指す。
このニュースは筆者にとって特別な感慨がある。筆者は2003年、技術試験衛星ETS-Ⅷプロジェクトの一環として、将来の準天頂衛星システムを想定した需要分野を検証する調査事業に参画した。車両の運行管理、企業内通信、過疎地の遠隔医療、山岳遭難救助サービスなど民生需要から公共サービスまで、宇宙開発事業団(現JAXA)のメンバーと喧々諤々議論させていただいたことを思い出す。そして、今、それらの多くが、当時想定した以上のレベルで実現されていることが嬉しい。
さて、ご承知のとおりGPSはもともと米国が軍事目的で開発したシステムであり、1993年の民間開放によって民生利用が一般化する。と同時に、米国依存からの脱却が目指される。中国が初号機を打ち上げたのは2000年、翌年末には民間に開放、そして、昨年6月、55機目の軌道投入に成功、中国版GPS「北斗」の完成が宣言される。ロシア、インドも独自システムを運用、欧州も開発に着手している。“測位主権” を確保することの安全保障上の重要性は言うまでない。一方、民生市場における主導権争いも本格化する。中国は「一帯一路」戦略のもと “北斗” を売り込む。関連製品は既に120ヵ国に輸出、2020年の市場規模は4000億元、2025年には1兆元を見込む。
アジアからオセアニアを一体的にカバーできる「みちびき」のポテンシャルも大きい。「みちびき」の競争優位は米GPSとの互換性にもとづく高精度と安定性にあると言えるが、市場開拓には民間からの独創的な利用提案が欠かせない。
今年度、「みちびきを利用した実証実験」には7件が採択された。視覚障害者向け介助サービス、ドローンの飛行支援、電動キックボードの走行位置把握など、テーマは多岐にわたる。提案者の顔ぶれも多彩だ。大手メーカーから独立したスタートアップ企業、マイクロモビリティのベンチャー、先端ロボット開発の助成財団などバライエティに富む。実験の成功と実用化、そして、市場開拓への貢献に期待したい。
今週の“ひらめき”視点 10.24 – 10.28
代表取締役社長 水越 孝