元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書
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(本記事は、吉田 尚記氏の著書『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』=アスコム、2020年8月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

悩み 定番ネタから話が広がらない

武器 定番ネタを掛け合わせて疑問形で話そう

話題作りの定石をまとめて「木戸にたちかけし衣食住」といいます。[気象・道楽(趣味)・ニュース・旅・知人・家族・健康・仕事・衣・食・住]のことで、どれもHOWに結び付きやすく、よくまとまっています。天気の話は一見つまらないように思えますが、誰にでも関係がありながら責任を取らされる者もいなくて、時系列につながっているからとても使いやすい質問の種です。この基本カテゴリーを学んだら、二つ三つ掛け合わせるのも面白いです。「天気」と「衣」を掛け合わせて、「最近暑くなってきましたけど、夏物出しましたか?」とか。

ここに「スポーツ」があってもよさそうなのに、盛り込まれていないのは、ひいきにしているチームや選手が違うと、対立をまねく可能性が高いからです。同様に、政治と宗教の話も、タブーが存在するおそれがあるので、相手と相応の信頼関係ができるまでは踏み込むのは避けたほうがよいでしょう。

《実践例》

サロン参加者:最初は話すことがないので定番の話題を出すのですが、どうしても「何だかわざとらしい、白々しい」と自分で思ってしまいます。どうすれば克服できるでしょうか?

吉田:私も同じような悩みを持っていました。ベタなことは聞かないぞ、と意気込んで、番組に来てくれるゲストのことを必死で調べて、事務所に問い合わせの電話までしていたんです。ちょっと気負いすぎでした。そんなことをしなくなったのは、定番の質問はほとんどの人に当てはまる、普遍的なものであることが腑に落ちたからです。「ラジオで天気の話をするなんてダサい」みたいに思っていましたが、私とリスナーが同じ時間を共有していることを表現できる話題だ、ということがわかってからは、抵抗がなくなりました。上っ面ではない、相手への関心が持てれば、天気の話から、その人がその人である理由にたどり着けることが何度か経験できてから、相手の情報が何もないところから会話の「壁を登る」ことができるようになりました。

悩み 相手に合わせた会話ができない

武器 相手ならではのカードが引けるまで定番ネタでつなぐ

その日に初めて会う知らない人と会話をしなければいけないこともあれば、相手が事前にわかっている場合もありますよね。

初めて会う人に対しては、普段から誰にでも使える定番の質問を準備しておけば、ちょっと会話に詰まっても怖くないですよね。新たなカードが引けるまでは、定番のカードでやりくりしてください。

相手の情報を事前に知ることができるなら、少しでも調べておくと、会話のラリーがスムーズに進みます。できる営業マンは、事前に取引先相手の好きなものを調べて、気持ちよくしゃべってもらって商談を有利に進めます。これが、カスタマイズです。

○ 自分 「 ○○です。よろしくお願いします。今日は暖かくなりましたよね、私は花粉症持ちなので今日みたいな日はつらくて…。○○さんは、花粉症は大丈夫ですか?」(→健康などの話へ)

○ 自分 「 ○○です。よろしくお願いします。□□さん(相手)のSNSでインドカレーがお好きだって見たんですよ!都内でおすすめのカレー屋さんって、どこですか?」(→グルメ情報、街、旅などの話へ)

《実践例1》

サロン参加者:最初の会話のラリーはある程度うまくできるようになったのですが、もう少し相手に踏み込んで仲良くなるために、汎用性のあるアイデアはないでしょうか?

吉田:会話が続く絶対的テーマを、めちゃくちゃ具体的に挙げると「給食の話」です。ラジオで、このテーマでメールやツイートが集まらなかったことはありません。

それは、「多くの人が共通して経験しているが、人によってディテールが違う」からです。

給食の話、修学旅行の行き先、夏休み、男子校か女子校か共学か、制服は学ランやセーラー服だったのかブレザーだったか、あるいは私服だったか。得意科目と苦手科目……学生時代のエピソードは誰でも持っているのですが、それぞれ経験したことがまったく同じ、ということはありえません。地域や時代によっても違いがあり、さまざまな情報や記憶が出てきて新しいカードが引けます。

この「みんな心当たりがあるけど、ディテールが違うもの」は、必ず会話が弾みます。ちょっと頭を使って、探してみましょう。

《実践例2》

サロン参加者:初めて会って話をする相手のSNSを見つけて、事前に何に興味があるのか知ることができました。その情報をそのまま話のネタとしてカード化すれば、安全に会話が盛り上がる気がするのですが……。

吉田:情報をそのままなぞるだけではもったいない!「知っている情報を聞く」のは取り調べと同じというお話をしましたが、知っていることの空白を聞いていく方がよっぽど面白い情報を聞き出せると思います。なぜそういった投稿を載せたのか、その話題に興味があるのかを聞きましょう。

最近、私の番組で話題になったのが、宣伝のためにインスタグラムを始めたという、ある声優さんの話でした。ザ・鉄板ネタの「犬・風景・スイーツ」の写真ばっかりで、もちろん、それぞれ一つひとつについて、具体的に聞いても良かったんですが、「インスタならこれ!というテーマをまっすぐに選ぶなんて、本当にまじめ!」ということに気づき、そのまま「本当にまじめですよね」「悪いことできないでしょう?」って聞いてみたら、まじめエピソードをたくさん話してくれて、他の番組とはまったく違う展開になりました。ちょっと変則的なテクニックですけどね。

逆に、まじめじゃなかったら、じゃあなんでインスタはまじめなの!?という疑問について聞いていった先には、きっと面白い話が待っていると思います。

悩み ベタな話題ばかりで会話がイマイチ盛り上がらない

武器 定番ネタに感情と感想を乗せる

いわゆる「話を広げる」武器です。

1〜2枚だけしかカードがドローできていないときや、ベタな話題から一歩踏み出したいときに有効なのは、定番の話題に自分の感情や感想を乗せることです。自分の意見や気持ちをオープンにするのは怖いかもしれませんが、相手と意見が違うことは気にしなくて大丈夫です。こちらから心を開けば「お、それぐらいオープンにしてもいいのね?」と、相手との「共有ルール」が変更されます。オフィシャルなインタビューに飽きている著名人の方に対してもかなり有効なので、私もよく使います。先ほど話した、会話では相手に対して「本当に関心を持つこと」が大事、ということの表れでもあります。

 相手 「毎日いってる気がするけど、暑い日ばっかりできついですよね」

△ 自分 「本当ですよね。一体いつごろピークを過ぎるんですかね」

 相手 「毎日いってる気がするけど、暑い日ばっかりできついですよね」

○ 自分 「 え!そうですか?私は暑いの大好きなんですよ!ずっと夏でも構わないくらいです。まあ、でもやっぱり普通は苦手な人が多いですよね」

《実践例》

サロン参加者:自分の感想や感情を出してみたのですが、相手と意見が違っているのではないか、相手が不快な思いをするのではないかと心配になって、それ以上踏み込めませんでした。

吉田:漫才のコツに、「人前に出たら、コンビは意見が違った方が良い」というものがあります。「オレは蕎麦が好き!」「は?何いってるの、うどんの方がいいに決まってる!」とならないと、漫才は始まらないわけです。漫才も会話も、本当は仲が良い者同士がじゃれ合うようにケンカをするくらいが、理想的なんですよね。

もちろん本当にケンカをする必要はありませんが、会話を弾ませるためには、多少意見が食い違うくらいがちょうどいいんです。「違っているところ」に注目すると、自分が知らないことがたくさんあるので、質問を次々と思いついて、カードをどんどんドローできるわけです。思いがけない共通点が見つかる可能性もあります。100枚もカードを引けば、「あっ!」と思えるテーマがあるはず。そうなったら、和やかなコミュニケーションだけでなく、人生にとって意味のあるやりとりに発展することもありますよ。

元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書
吉田 尚記
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など幅広く活躍。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人となるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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