(本記事は、吉田 尚記氏の著書『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』=アスコム、2020年8月22日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
Q マウントを取りたがる自分の心を何とかしたい
A マウントを取りたくなるのは自然なこと ある意味「一生懸命」な証拠!
マウントを取るのは、生物の本能だった
吉田:実は私、マウントを取りたいと思ってしまう自分に、気づいてしまっているんです。
うわっマジかよ、と思った人はごめんなさい。いちおう言い訳をしておくと、たぶん人様に迷惑をかけるようなことにはなっていませんが、心の中にはどうしてもマウントを取りたい自分がいる自覚がある。
たとえば、お仕事を通じて親しくしている(とこちらは考えている)アイドルや声優さんの結婚を、直前にお目にかかる機会があったにもかかわらず後からニュースで知ったときに、「なんで私に教えてくれなかったんだ……」と思ったりします。
「吉田さん、いつもお世話になっているのであらかじめお知らせしておくんですけど、実はあさって、かくかくしかじかの発表が……」
「えーっ!それはそれは、おめでとうございます!いやぁ知らなかったなぁ」
みたいに、事前に教えてもらいたかったなぁという気持ちが出てしまいます。ご本人にはいいませんけど。
自分でも実に浅ましいと思うんですが、人より上位にいたいという形ではないけれど、「大切に思われたい、重く扱われたい、重要人物として処遇されたい」という感情は否定できません。
コミュニケーションにおいては、この意識はすごく邪魔な存在です。自分が誰かにとって大切だと思われたいがために、ないがしろにされると冷たい気持ちになってしまう。この悩みについては、あなたにもマウントを取りたい気持ちがあるかもしれないし、取りたがる人のせいで迷惑を受けているときの対策にもなるはずです。
たとえば、キャバクラってマウント大会です。お断りしておくと、お付き合いや話の流れで相当前に行ったきりですけど、たまに行くと、そこらじゅうで「オレすごいんだよ」の繰り返しなんです。そういうとき、私自身の「マウント」問題にも気づかされてしまう。向後先生、いかがでしょう?
向後千春先生(早稲田大学人間科学学術院教授)(以下、向後):マウントを取りたくなるのって、ごく自然なことだと思いますよ。私はアドラー心理学の専門家という立場で呼ばれていますが、最近は「進化心理学」がめちゃくちゃ面白いんです。研究自体は80年代から始まっていたんですがなかなか世間に受け入れられず、最近やっと本が出てきたんです。
吉田:どういうものなんですか?
向後:生物は何百万年かけて進化してきたわけですが、人間の脳の大きさはこの1万年ほど、ほぼ変わっていないらしいんです。つまり、現代人である我々は、農耕以前の木の実を拾ったり、イノシシを見つけて追いかけたりしていた狩猟・採集時代と同じ認知システムで生きているということなんです。当時は、マウントを取ることがまさに死活問題だったんですね。特に男にとっては。
吉田:男は元来、マウントを取るものなんですね。
向後:そう。なぜなら、女性は限られているから。女性は男を選べるけれど、男は競争の果てにしか女性を獲得できないんです。力がある、財力がある、優しくできる、権威がある……そんな競争社会の「マウント」が今まで生きているわけです。マウントはナチュラルで、原始人的なものなんです。
吉田:脳というハードウェアは1万年前から変わっていなくて、本来的な「マウント」が残っていて、今になってみるとちょっと不具合に感じてしまう。
向後:いえ、不具合でもないですよ。マウント欲求のおかげで多くの人が上昇志向を持ったり、功名心を争ったりするわけですから。ファッションに気を使ったり、高い車や時計を買ってSNSに載せたりするのもマウントのせいかもしれないけれど、新しいことを発明したり、新規ビジネスを起こしたりするのもまたマウントあってこそなんですよ。そのモチベーションの源泉は、女性に対するアピールなので、自分をよく見せようという気がなくなったらピークアウトしてしまうんです。
吉田:ということは、結婚する前くらいまでが、パワーの使いどころなんですか。そんなこと、考えたこともなかった……。
向後:実は、科学でも芸術でも、大傑作、大発明、大発見をした人の年齢を調べると、だいたい思春期終わりから成人前期なんです。20代ぐらいまでにピークがきて、そのあとは、まあ惰性なんですよ。女性にいいところを見せる必要がないから。進化心理学は、そういうことをまじめに議論するんです。
吉田:かの有名な建築家・ガウディは生涯童貞だったといわれていますよね。
向後:そうなんですか?それは知らなかった。
吉田:それでサグラダ・ファミリアとかを造っちゃうというのならわかりやすいですね。マンガ家の永井豪先生も、ものすごいですよ。当時、センセーショナルなエロをマンガに投入していたのは、先生が童貞だから描けたというんです。当時の編集者の一番大切な仕事は、永井豪に女性を近づけないことだったという(笑)。今の向後先生のお話を聞くと、その対策は間違ってなかったかもしれない。
向後:ですね。結婚して安定すると、そういう傑作は出ないのかもしれない。
吉田:ということは、進化心理学的には、マウントを取りたいと思っていると良い仕事ができるということなんですね。
向後:だから、相手にマウントを取られて嫌な思いもするかもしれないけど、基本的にはそのままにしていていいと思います。
吉田:マウントを取る人も、マウントを取りたがる自分も変える必要はないってことですね。迷惑をかけられている人は、相手を原始人だと思えば、少し溜飲が下がるかもしれませんね。
向後:もうひとつの見方としては、マウントを取る人って「一生懸命」だな、地位を上げるために努力していてかわいいところがあるな、と思えばいい。
吉田:そうか、原始人が一生懸命生きていると思えばいい。だいぶ受け入れやすくなった。そして、私は原始人ですね……!
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