水素社会の実現に向けて、国内外に向けての“ゲームチェンジャー”であれ
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トヨタは2014年に発売した世界初の量産型FCV(Fuel Cell Vehicle)「ミライ」をフルモデルチェンジ、12月9日から販売を開始した。乗用車としての進化はもちろんであるが、注目すべきは動力源であるFCシステムが商用車、船舶、産業用発電など幅広いニーズに対応できるよう設計されている点にある。トヨタは初代ミライの発売後、FCV関連特許の無償化を発表、FCVの普及を目指した。しかし、“仲間づくり” は思惑どおり進んでいない。今回はそうした状況も踏まえ、産業界全体への普及を促す。

その1週間前、任意団体「水素バリューチェーン推進協議会」が立ち上がった。トヨタ、三井住友フィナンシャルグループ、岩谷産業を共同代表にエネルギー、運輸・物流、総合商社など88社が名を連ねる。地方自治体との連携、水素の製造・輸送・貯蔵の課題解決、商用車、鉄道・船舶、化学・鉄鋼等における需要拡大など、水素社会の実現に向けての政策提言や渉外活動を行う。水素技術は太陽光や風力によって発電された電力を水素に変換して保存することが可能であり、不安定な自然エネルギーの蓄電システムとしての役割も期待できる。次世代自動車ではEVに大きく水を開けられた水素であるが、いよいよ本格的な黎明期を迎えそうだ。

水素技術は日本が世界をリードしてきた。しかし、欧州、中国も水素への投資を本格しつつある。6月、ドイツは国家水素戦略を策定、1兆円規模の予算を投じると発表した。その翌月にはEUも「欧州の気候中立に向けた水素戦略」をとりまとめ、2030年までに水素の生産量を1,000万トンへ引き上げるとの目標を掲げた。中国はモデル都市群を選定し、商用車を中心に2030年代の半ばまでに100万台規模のサプライチェーンを構築するという。

こうした中、日本政府も水素社会の実装を急ぐ。国内利用量に関する従来の政策目標は2030年時点で「30万トン」であったが、これを「1,000万トン」に引き上げるべく調整に入った。これは原子力発電所30基に相当する規模であり、国内電力の1割をカバーできる。
カーボンニュートラルの実現に向けて、国際競争はこれまで以上に激化するだろう。新たに米国を率いるバイデン氏は、クリーンエネルギー分野に178兆円を越える投資を公約している。日本は水素のフロントランナーであり続けることができるか。そのためには電力行政の見直しや規制緩和はもちろん、未来社会の全体構想にもとづく長期戦略が不可欠だ。既存業界の慣習や既得権から解き放たれた大胆な政策発想に期待したい。

今週の“ひらめき”視点 12.6 – 12.10
代表取締役社長 水越 孝