(本記事は、奥村 聡氏の著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』=翔泳社、2020年9月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
行き詰まった会社が銀行を味方につける方法
「後2カ月で現金が枯渇する」という、経営に行き詰まったアパレルの販売会社の仕事を受けていました。私は、事業を引き取ってくれる買い手を見つけて話をつけました。第二会社方式を使って、事業だけを譲ることで売り手も買い手も合意しました。ここからが注目すべき点です。
社長は銀行のことが心配でなりません。できれば話もせず、事業を買い手に譲りたいと思っているようです。でも私は集会を開いて債権者の銀行に集まってもらうことを提案しました。もちろん社長は納得できません。「声をかけなければいけないの?しかも、呼び出すの?」と。
しぶしぶ私の提案を受け入れた社長です。しかし、やってみると「本当にうまくいってびっくりしました。あんなに不安に思っていたのがバカバカしくなるくらいでした」と、驚いていました。私にはもちろん勝算がありました。
その理由の一つが、お金の流れのデザインです。第二会社方式を使って関係者全員の利益を向上させられるように設計しました。このケースでただ倒産となれば、借りている店舗の原状回復費や備品の撤去・処分費、さらに中途解約による違約金まで請求される可能性があります。ざっと見繕うと500万円近くが予想されました。一方で、事業を1200万円で買ってもらえる話があります。この話がまとまれば、現状維持費などの500万円の出費を回避し、さらに、会社は返済原資となる金を手にできることになります。結果、融資の回収額が増えるならば、銀行も話に乗ったほうが得です。
利益が増すのは銀行だけではありません。雇用も仕入れ先も、外注先も守られます。買い手は投資ができます。こうなれば誰も損をしません。もちろん後になって訴訟を起こされることもないでしょう。社長は買い手の会社に雇ってもらえることになりました。彼の利益も向上したのです。
次に、話の進め方です。「債権者を呼び出していいのか。こちらから出向いて話をしなければ礼を欠くのではないか」と、社長は思ったそうです。たしかに、疑問に思う部分でしょう。しかし、集会という形式を取ることで、隠し事をせず、オープンにやろうとしている姿勢を伝えることができます。
銀行とやり取りをしていると、よくこのような展開になります。「話はわかりました。ただ、他行さんの反応はどうでしょうか?」と、他の債権者の動向をとても気にするのです。集会という形式を取ることで、銀行の気がかりは自然と解消されます。もちろん、話の内容が銀行ごとに異なるという不都合も起きません。
債務者側のメリットとしては、一度で話を済ませられます。また、他の銀行の目があるので、おとなしく対応していただけます。ありがたいですね(笑)。
私は「金持ちケンカせず」を座右の銘としています。金持ちだからケンカしないではなく、ケンカしないから金持ちになれる(=利益を損なわれない)という意味だと解釈しています。この事例で私の企画したやり方は、ケンカをする関係になることを避け、関係するみんなの利益向上を目指したものです。
同じ第二会社方式であっても、胡散臭いコンサルタントのやり方とは全く別ものだとおわかりいただけるでしょう。あちらは、自己の利益を増やそうとして銀行と敵対関係を作り、後になって痛い目にあうやり方です。
全体利益の向上を目指しているのですからコソコソやる必要もありません。相手も巻き込んで協調する。誠実かつオープンにやる。こういうスタンスが着地戦略の際とても大切だと思います。
弁護士ならば、法律上の争いになった時のリスクに目がいくことでしょう。しかし私たちは、相手とそんな対立する関係にすらならない状況を目指すべきです。ケンカに勝つことではなく、そもそもケンカをしないことが大事です。納得と合意を引きだす工夫をしましょう。
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