社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
(画像=doucefleur/stock.adobe.com)

(本記事は、奥村 聡氏の著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』=翔泳社、2020年9月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

銀行交渉がうまい社長は貸借対照表に強い

決算書の二本柱は損益計算書と貸借対照表です。損益計算書は一年の稼ぎを、貸借対照表は今の資産と負債の様子をレポートしています。化粧を落とすためにはこの決算書を修正していただくことになります。

ところが、修正する以前の問題として「自分の会社の決算書なんて全然見ていない」という社長さんが少なからずいます。特に、資産と負債の状況を表す貸借対照表となると、「知らない」「読めない」「興味ない」というようなひどいことになっている場合もあります。会社運営上、この上なく重要な情報なのですが、社長から完全に無視されてしまっていることがほとんどなのです。

売上や利益には関心があるし、わかりやすいので、損益計算書の数字までは頭に入れている社長は多いです。ところが貸借対照表はわかりにくい面があります。また、「わかったところでどうなる?」と、モチベーションが働きにくいようです。しかし、この感覚は改めていただく必要があります。社長と他者との間で考え方や発想にズレが生じる時、問題の根っこにこの貸借対照表への理解の有無が絡んでいる場合が多いのです。

「銀行が金を貸してくれなかった。ウチは2年黒字が続いているのに」

かつて、融資の申し出を銀行から断られて、このように怒っている社長がいました。稼いでいる会社なのだから銀行はお金を貸して当然だと、社長は考えていました。でも、銀行はお金を貸しませんでした。なぜなら、会社は利益が出ているというのは、損益計算書上の話だからです。

実際には、その会社は負債が多くありました。金融機関からの借入に加え、知人の会社からの借金もあります。負債の額と比較すると、資産はひ弱でした。こちらは貸借対照表の話です。銀行は貸借対照表を見ていたので、この会社にお金を貸すことをためらいます。もし、今すぐ事業をやめられるようなことが起きたら、自分たちが貸したお金を回収できない見込みが高くなるからです。「もっと借金を減らしてから、また借りに来てください」というのが、本音でしょう。しかし、損益計算書しか見ていない社長には、なぜ融資を断られたかがわかりません。極端な例ではありますが、現場ではこのレベルの話が転がっています。

皆さんが今後取り組むかもしれないM&Aや後継者への承継でも、貸借対照表への理解は必要となってきます。ある程度は貸借対照表を読み取るスキルを身につけて、自社の数字も理解しておきたいところです。

数字に対して、苦手意識がある方がいることは重々承知しています。でも、そこは安心してください。本書では小難しい分析方法は扱いません。最低限押さえてほしいポイントを、できるだけシンプルにお伝えしていきます。

とにかく、この時点では「貸借対照表も大切だ」と、まずは肝に銘じておいてください。右肩上がりの時代ならば、勢いで道を切り開けました。ゆえに、貸借対照表を見ていない方や、読み方がわからない方がいらっしゃるのもうなずける面があります。

しかし、時代は変わりました。貸借対照表についての最低限の知識は必要です。ここを押さえられていないということは、自軍がどれくらいの食糧や武器を持っているのか知らないのに、戦をはじめてしまうようなものです。まさに無謀と言えるでしょう。

社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意
奥村 聡
事業承継デザイナー・司法書士。平成21年、自らが立ち上げた地域最大の司法書士事務所を他者へ事業譲渡。コンサルタントに転身し、会社のおわりに寄り添い800社以上を支援。会社分割などの法的手法を武器に事業承継や廃業、過大借金、経営陣の不仲、伸び悩みなどの場面で出口を切り拓く作戦を立案してきた。中小企業経営の循環に貢献し、地域経済の風通しをよくすることを目指す。
 
社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意
廃業視点という新たな提案から、人気コンサルタントが会社のおわりとの向き合い方を徹底解説します。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』シリーズ
  1. 経営者が「廃業前提」で会社を経営すべき理由
  2. 2年連続黒字の会社でも銀行がお金を貸してくれなかったワケ
  3. M&A業者に「3億円で会社を売れますよ」とそそのかされた経営者の悲惨な末路
  4. 行き詰まった会社が銀行を味方につける方法2つ
  5. 倒産が近いと感じる経営者が知っておくべき3つのルール