(本記事は、奥村 聡氏の著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』=翔泳社、2020年9月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
会社をどう着地させるかを考え抜く
多くの現場を通して見いだした妙薬「廃業」
いきなりこの本の種明かしをしてしまいましょう。あなたの会社の承継や廃業をどうするか。うまくクリアする方法は、「廃業を前提にする」ことです。
「廃業だと!ふざけるな!」という声が早速聞こえてきそうです。でも少し耳を貸してください。
お怒りになった方は、もしかすると似たような言葉である「倒産」と混同されたかもしれません。また「廃業してください」と言っているのではない点もご理解ください。あくまで「基準を廃業にする」という考え方です。
そもそも自主的な着地方法には、大きく分けると三つあります。「会社を廃業させる」「社長を交代する」「会社を売却する」です。本書ではこれらを「中小企業の着地」という言葉にまとめさせてもらいます。その中でも着地の基準にすべきが「廃業」であり、廃業は「自らの意志で潔く撤退する」という姿勢なのです。本書では、社長自らが会社をよりよい着地に導くための秘伝をお話ししていきます。
事業承継デザイナーを名乗り活動する私のところには、中小企業の着地についてありとあらゆる相談が寄せられます。
「稼げないし、後継者もいないから会社をたたもうかと思っている」
「会社を売りたいけど、値段が折り合わずに売れなかった」
「子どもたちが社内にいるけれど、兄弟どちらを社長にすればいいのか」
「従業員を社長にするつもりだが、どう話を進めていいかわからない」
「社長である自分に何かがあった時、残された妻のことが心配だ」
これらはあくまで一例であり、まだまだ、さまざまなケースがありました。
ちまたには自分が社長をやめた時のことなんて微塵(みじん)も考えようとしない人もいます。でも、私のところに相談に来る社長は、どうにかしようと考えています。この本を手に取ってくださったあなたも、今まさに会社の今後について悩んでいるのではないでしょうか。そんな社長の気持ちを別の言葉で表現すれば「会社をうまく着地させたい」という悩みになるのではないでしょうか。
どのケースも深刻であり、簡単なものは一つとしてありません。問題の内容こそ会社ごとに違っていてもこの点は共通しています。「会社の今後をどうするか」は、会社の生死を決める話です。会社には多くの人が関係しているため、うまくクリアできるか否かが、会社に関わる全ての人たちに大きな影響を与えます。
社長個人にとっても同様です。中小企業の場合、会社は社長個人と密接にリンクしています。読者の社長の中には、「会社が人生そのもの」という方だっていらっしゃるでしょう。会社の着地問題の成否が、社長の人生を大きく左右することになります。
私はこれまで十数年間にわたり、800件以上の廃業や事業承継などの場面に立ち会い、社長たちと一緒に「どうすればいいか」を考え抜いてきました。苦しんでいる社長を見てきました。どうすればこの難しく、かつ重要な中小企業の着地問題を乗り越えられるのか。数々の現場を通して私が見いだした妙薬が「廃業」だったのです。
とはいえ、廃業という言葉を聞いただけで強い抵抗感を覚える方がいらっしゃるかもしれません。でも、前述の通り、何も「今すぐに廃業してください」と申しているのではありません。会社のおわりに正面から向き合い、廃業という着地点を視野に入れながら、会社の着地問題に取り組むスタイルを提唱したいのです。
廃業視点とも言うべきものさしを持つ。これが、中小企業の着地問題を解決することにつながります。しかし、それはあくまでものの見方や考え方であり、実際の結末をどうするかはまた別の話です。まずは中小企業の着地の現状が今どのようになっているか、リアルな場面を皆さんと一緒にのぞいてみたいと思います。
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