社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
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(本記事は、奥村 聡氏の著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』=翔泳社、2020年9月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

会社を上手に売るコツ〜M&A〜

会社への勝手な過大自己評価は厳禁

次にM&Aを目指す場合を考えていきましょう。細かい話を書きはじめたらきりがないので、落とし穴にはまらないようにするための入り口の話にとどめます。

まず、M&A業者の営業トークは、気持ち半分で聞いておくのがよいかもしれません。

「社長、M&Aでハッピーリタイアなんて最高ですよ!」なんて、よい話ばかりをしてくる可能性があります。でも、そんなにおいしい話ばかりが転がっているわけではありません。特別によかったケースがあるのならば、隠されている悪いケースだってあります。

営業マンのリップサービスには注意しておきましょう。M&A業者に「社長の会社ならば3億で売れますよ」と言われて、色めき立った社長と会ったことがあります。思いもよらぬ金額に心を打たれ、すぐM&Aに動きはじめたようです。しかし、いくら縁談を重ねても金額の折り合いがつきません。社長の頭には当初の「3億円」がこびりついてしまっているため、それ以下の値段の提案では納得できなかったのです。結局どこにも売れずじまいとなってしまいました。

この社長の話から得られる教訓は、「現実的にものを見る」に尽きます。この点、読者の皆さんは大丈夫なはずです。清算価値という現実が見えているからです。

もし、この社長が「会社が売れないで廃業になったらどうなるか?」という廃業視点でものを見ていたら、会社を手放せていたはずです。たとえば、相手が「2億円で買いたい」と言ってきたとしましょう。「誰にも継いでもらえなかった場合の清算価値である8000万円よりはマシだ。高望みしないで手を打っておこう」と、考えられたはずです。

この社長は結局、会社を倒産させています。M&Aの話は、私が出会う10年ほど前の出来事だったようです。私のところにはM&Aの相談を持ち掛けたのではなく経営再建の相談をしに来ました。しかし、どうにもならない状況だったため、仲間の弁護士を紹介し、粛々と法的に整理するしか手がありませんでした。

やり取りをしていた期間、社長は何度も「あの時なら3億で売れたのに……」と、愚痴をこぼしていました。皆さんにはこうなってほしくありません。期待だけを膨らませて足をすくわれないようにしてください。

あなたの会社にM&Aの手数料2000万円は適正か?

M&Aに着手している社長の話を聞くと、アドバイザーと呼ばれる業者選びですでにミスマッチを起こしているケースがあります。簡単に言えば、売り物(会社)に対して手数料が極めて高い業者と契約してしまっているようなケースです。極端な例では、5000万円くらいで売れれば御の字の会社なのに、成功時の手数料が2000万円必要な契約をしている場合もありました。さすがに、手数料の比率が高すぎます。

M&A成約時の手数料はそれなりにかかることは知っておきたいところです。そのうえで、価格帯や業者のタイプはいろいろあるので、自社に合ったところを選びましょう。

通常、不動産の宅建業者の手数料のように「売値の3%」といった基準がありますが、それとは別に最低報酬額も用意されています。銀行がM&Aを受託する時は、パーセントで計算しても最低報酬額に達しなければ、約2000万円の報酬を要求することが多いようです。中小企業のM&Aを専門的に行っている業者もあります。こちらの場合でも、最低1000万円以上を設定しているところが多いでしょう。なお、M&A業者にお金を支払うのは、売り手のあなただけではありません。買い手も業者に手数料を支払うことになります。

一般論としては、小さな会社が、これらの銀行やM&A業者を使うと、費用と成果のバランスが合わない場合が出てきてしまいます。買い手の間口を狭めることになるし、売れたとしても手元に残る金額が小さくなります。

このような状況を背景に、最近では小さな会社向けのM&Aサービスやツールも登場してきました。スモールM&Aと称し、最低手数料を200万から300万に設定したM&Aサービスを展開している業者もあります。税理士や中小企業診断士、司法書士などの士業のプレーヤーが参戦するケースも増えました。また、インターネット上でのM&Aマッチングサイトも活性化してきています。広く相手を募えるため、買収希望を持つ相手との出会いが低コストで実現できるようになっています。

ご自身の会社に合うM&A業者はどこかは慎重に決めてください。ミスマッチを起こしているケースで、なぜそのM&A業者を選んだのか聞くと「紹介されたから」と答える社長が多いところです。紹介は安心だと思われがちですが、紹介者があなたに本当にマッチするかまで考えていないケースは多々あります。裏のつながりだけでそこを紹介している場合だってあるのです。

社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意
奥村 聡
事業承継デザイナー・司法書士。平成21年、自らが立ち上げた地域最大の司法書士事務所を他者へ事業譲渡。コンサルタントに転身し、会社のおわりに寄り添い800社以上を支援。会社分割などの法的手法を武器に事業承継や廃業、過大借金、経営陣の不仲、伸び悩みなどの場面で出口を切り拓く作戦を立案してきた。中小企業経営の循環に貢献し、地域経済の風通しをよくすることを目指す。
 
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