社会保険料,月額変更
(写真=PIXTA)

従業員の社会保険料は、基本的に1年に1回見直される。しかし、昇給などによって給料が大幅に増減した場合は、「随時改定」によって月額が変更されるため要注意だ。経営者の方は混乱を招かないよう、月額変更の条件や手続き方法などを理解しておこう。

従業員の社会保険料はどう決まる?まずは基本的なポイントを確認

従業員の社会保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる金額をベースに決められている。この標準報酬月額は単なる基本給ではなく、以下のように明確に求め方が決められているため注意が必要だ。

〇標準報酬月額の求め方
【1】基本給に各種手当を加えた、「報酬月額」を計算する
【2】各保険料の保険料額表から、計算した報酬月額に該当する等級を確認する
【3】該当する等級に記載されている、標準報酬月額を確認する

文字だけではややイメージしづらいので、以下では東京都の保険料額表(一部)を見てみよう。

等級標準報酬月額報酬月額厚生年金保険料(全額)
22300,000円290,000円~310,000円54,900円
23320,000円310,000円~330,000円58,560円
24340,000円330,000円~350,000円62,220円
25360,000円350,000円~370,000円65,880円

(※平成31年4月以降のもの)

たとえば、従業員の報酬月額が305,000円であれば22等級に該当し、標準報酬月額は300,000円となる。このように、報酬月額と標準報酬月は金額が異なるため注意しておきたい。
従業員の標準報酬月額がわかったら、あとはその金額に各保険の料率をかければ、社会保険料を算出できる流れだ。

標準報酬月額はどのタイミングで決まる?

事業主は従業員を雇用したときに、報酬月額を届け出る必要がある。最初の標準報酬月額はこのときに決定されるが(資格取得時の決定)、以下のように届け出る時期によって適用される期間が異なる。

届け出る時期適用される期間
・1月1日~5月31日までその年の8月まで適用
・6月1日~12月31日まで翌年の8月まで適用

その後、事業主は4月~6月の報酬月額を届け出るが、この報酬月額をもとに標準報酬月額は毎年1回見直される。この毎年1回の見直しは「定時決定」と呼ばれており、このときに決められた標準報酬月額が9月~翌年8月まで適用されている。
つまり、標準報酬月額は基本的に毎年変わるため、それに応じて負担する社会保険料も変動していく仕組みだ。

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標準報酬月額の随時改定とは?

基本的に決定された標準報酬月額は1年間適用されるが、何らかの理由で従業員の給与に大きな変更があった場合、社会保険料が適正金額から大きく離れる恐れがある。その点を防ぐ目的で、標準報酬月額は上記で解説した「資格取得時の決定・定時決定」に加えて、「随時改定」と呼ばれるタイミングでも見直されるケースがある。
次は、この随時改定について詳しく見ていこう。

随時改定が必要になる条件

以下の条件にすべて該当する従業員が現れた場合、事業主は随時改定の手続きをしなければならない。

〇随時改定の条件
・昇給や降給によって、固定的賃金に変動があった
・変動月からの3ヶ月間に支給された報酬の標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた
・変動月からの3ヶ月間に関して、いずれも支払基礎日数が17日を超えていた

給与体系が変わるなどして固定的賃金が2等級以上変わり、その状態が3ヶ月以上続いた場合に適用されると考えればわかりやすいだろう。
ちなみに上記の「3ヶ月間に支給された報酬」には、残業手当などの非固定的賃金も含まれる。つまり、基本給が大きく変動した場合だけではなく、各種手当によって賃金が変動した場合にも、随時改定が必要になる可能性がある。
ただし、東京都の保険料額表を例に挙げると、数千円程度など少額の給与変動では2等級以上の差は生じない(少なくとも2万円弱の昇給・降給が必要)。そのため、基本給と各種手当を合わせて、数万円規模の給与変動が生じた場合にのみ、随時改定を意識しておくと良いだろう。

随時改定の対象になる具体的なケース

では、実際にはどのような場合に随時改定の対象となるのか、その具体例をいくつか見ていこう。

・昇給や降給によって、基本給が変動したとき
・時給制から月給制に変わるなど、給与形態が変更されたとき
・時給や日給が変わり、賃金が変動したとき
・通勤手当や住宅手当など、固定的な各種手当が新たに追加されたとき  ・歩合給制の単価が変動したとき など

上記のように給与のシステムに変更が加えられると、標準報酬月額が大きく変動し、以前のものと比べて2等級以上の差が生じる可能性がある。随時改定によって社会保険料が増額されると、企業側の負担額も増大することになるため、賃金のシステムを見直す際には社会保険料も意識することが重要だ。

随時改定の対象にならないケース

もう少し理解を深めるために、次は随時改定の対象にならないケースをいくつか紹介しよう。

・固定的賃金がやや上昇したものの、標準報酬月額に2等級以上の差がつかなかったとき
・時間外手当などの一時的な手当によって、非固定的賃金が変動したとき
・固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が上がり全体の報酬が増えたとき
・固定的賃金は上がったが、非固定的賃金が下がり全体の報酬が減ったとき など

随時改定の対象となるのは、あくまでも「固定的賃金に変動があった場合」だ。つまり、標準報酬月額に2等級以上の差があっても、非固定的賃金のみが変動した場合には、随時改定の手続きを行う必要はない。
また、たとえば固定的賃金が下がっても、非固定的賃金で補てんされる形がとられていれば、これも随時改定が必要なケースには当てはまらない。給与のシステムを大幅に変更する場合には、全体の報酬額の変動にも目を向けることが重要だ。

「年間平均の保険者算定」とは?平成30年10月からの変更点をチェック

従来の制度では、随時改定の標準報酬月額は3ヶ月間の給与の平均額によって算出されていた。しかし、この仕組みでは特定の時期のみに給与が高い場合に、社会保険料が不当に高くなってしまう恐れがある。
そこで平成30年10月から新たに導入された制度が、「年間平均の保険者算定」と呼ばれるものだ。この制度でも固定的賃金の算出方法は同様(3ヶ月間の平均)だが、非固定的賃金に関しては1年間の平均額が使用される。

従来制度と新制度の具体例

もう少しイメージをつかむために、以下ではひとつの例を挙げて解説していこう。

基本給(固定的賃金)残業手当(非固定的賃金)
1月290,000円10,000円
2月290,000円10,000円
3月290,000円10,000円
4月290,000円10,000円
5月290,000円10,000円
6月290,000円10,000円
7月290,000円10,000円
8月290,000円10,000円
9月290,000円10,000円
10月(この月から昇給)300,000円60,000円
11月300,000円60,000円
12月300,000円60,000円

1年間に、上記のような形で給与を受け取ったサラリーマンがいたとする。このサラリーマンは10月から固定給が1万円昇給したのに加えて、年末に向けた納品の影響で10月~12月は残業代も増加した。
従来の制度であれば、「固定的賃金の変動月以降の3ヶ月間の給与」がベースとなるため、随時改定によって標準報酬月額は36万円(30万円+6万円)となる。改定前の標準報酬月額(30万円)と比べれば、等級は22等級から25等級へ3つ上がる計算だ。つまり、従来の方法で計算をすると、従業員は固定的賃金が毎月1万円しか上がっていないにも関わらず、負担する社会保険料が増大してしまう。
一方で年間平均の保険者算定では、標準報酬月額は以下の流れで計算される。

【1】固定的賃金の変動月以降の3ヶ月間の金額を求める
(30万円+30万円+30万円)÷3=30万円
【2】非固定的賃金の1年間の平均額を求める
(1万円×9ヶ月+6万円×3ヶ月)÷12ヶ月=2.25万円
【3】上記2つの計算結果を合計する
30万円+2.25万円=322,500円

上記の標準報酬月額(322,500円)は23等級であるため、従来の制度とは2等級もの差が生じた。この等級の差によって、実際に従業員が負担する社会保険料にも以下のような違いが出てくる。

等級健康保険の負担額(従業員)厚生年金保険の負担額(従業員)
23等級15,840円29,280円
25等級17,820円32,940円

つまり、健康保険と厚生年金保険だけを見ても、月々の負担額は5,000円ほど変わってくる計算だ。これらの保険は事業者と従業員が折半をする形で支払われるため、もちろん企業側の負担額も増大する。
この例を見てわかるように、繁忙期などの影響により特定の時期に給与が上がりやすい企業は、年間平均の保険者算定を利用することで、社会保険料を抑えられる可能性が高いと言えるだろう。

年間平均の保険者算定の要件

上記の年間平均の保険者算定が適用されるには、以下の3つの要件を満たす必要がある。

〇年間平均の保険者算定の要件
・通常の随時改定による報酬月額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差がある
・通常の随時改定による報酬月額と、非固定的賃金を年間平均した場合の3ヶ月の報酬月額の平均が、2等級以上離れている
・現在の標準報酬月額と、年間平均した場合の報酬月額との差が1等級以上ある

上記を見てわかる通り、年間平均の保険者算定の要件はやや複雑だ。従来制度における随時改定の報酬月額などを計算し、保険料額表を見ながら等級を比較しなければならない。計算ミスなどが生じる恐れもあるので、要件の判断は慎重に進めるようにしよう。
また、上記の要件を満たす場合であっても、年間平均の保険者算定が適用されるためには、事業主の申立書と被保険者の同意が必須となる点も覚えておきたい。