社会保険料,月額変更
(写真=PIXTA)

従業員の社会保険料は、基本的に1年に1回見直される。しかし、昇給などによって給料が大幅に増減した場合は、「随時改定」によって月額が変更されるため要注意だ。経営者の方は混乱を招かないよう、月額変更の条件や手続き方法などを理解しておこう。

従業員の社会保険料はどう決まる? まずは基本的なポイントを確認

従業員の社会保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる金額をベースに決められている。この標準報酬月額は単なる基本給ではなく、以下のように明確に求め方が決められているため注意が必要だ。

〇標準報酬月額の求め方
【1】基本給に各種手当を加えた、「報酬月額」を計算する
【2】各保険料の保険料額表から、計算した報酬月額に該当する等級を確認する
【3】該当する等級に記載されている、標準報酬月額を確認する

文字だけではややイメージしづらいので、以下では東京都の保険料額表(一部)を見てみよう。

等級 標準報酬月額 報酬月額 厚生年金保険料(全額)
22(19) 300,000円 290,000円~310,000円 54,900円
23(20) 320,000円 310,000円~330,000円 58,560円
24(21) 340,000円 330,000円~350,000円 62,220円
25(22) 360,000円 350,000円~370,000円 65,880円

(※平成31年4月以降のもの)
(※◆等級欄の( )内の数字は、厚生年金保険の標準報酬月額等級)

例えば、従業員の報酬月額が305,000円であれば22(19)等級に該当し、標準報酬月額は300,000円となる。このように、報酬月額と標準報酬月額は金額が異なるため注意しておきたい。従業員の標準報酬月額が分かったら、あとはその金額に各保険の料率を掛ければ、社会保険料を算出できるという流れだ。

標準報酬月額はどのタイミングで決まる?

事業主は従業員を雇用したときに、報酬月額を届け出る必要がある。最初の標準報酬月額はこのときに決定されるが(資格取得時の決定)、以下のように届け出る時期によって適用される期間が異なる。

届け出る時期 適用される期間
・1月1日~5月31日 その年の8月まで適用
・6月1日~12月31日 翌年の8月まで適用

その後、事業主は4月~6月の報酬月額を届け出るが、この報酬月額を基に標準報酬月額は毎年1回見直される。この毎年1回の見直しは「定時決定」と呼ばれており、このときに決められた標準報酬月額が9月から翌年8月まで適用されている。

つまり、標準報酬月額は基本的に毎年変わるため、それに応じて負担する社会保険料も変動していく仕組みだ。

標準報酬月額の随時改定とは?

基本的に決定された標準報酬月額は1年間適用されるが、何らかの理由で従業員の給与に大きな変更があった場合、社会保険料が適正金額から大きく離れる恐れがある。その点を防ぐ目的で、標準報酬月額は上記で解説した「資格取得時の決定・定時決定」に加えて、「随時改定」と呼ばれるタイミングでも見直されるケースがある。

次は、この随時改定について詳しく見ていこう。

随時改定が必要になる条件

以下の条件に全て該当する従業員が現れた場合、事業主は随時改定の手続きをしなければならない。

〇随時改定の条件
・昇給や降給によって、固定的賃金に変動があった
・変動月からの3ヵ月間に支給された報酬の標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた
・変動月からの3ヵ月間に関して、いずれも支払基礎日数が17日を超えていた

給与体系が変わるなどして固定的賃金が2等級以上変わり、その状態が3ヵ月以上続いた場合に適用されると考えれば分かりやすいだろう。
ちなみに上記の「3ヵ月間に支給された報酬」には、残業手当などの非固定的賃金も含まれる。

ただし、東京都の保険料額表を例に挙げると、数千円程度など少額の給与変動では2等級以上の差は生じない(少なくとも2万円弱の昇給・降給が必要)。そのため、基本給と各種手当を合わせて、数万円規模の給与変動が生じた場合にのみ、随時改定を意識しておくと良いだろう。

随時改定の対象になる具体的なケース

では実際に、どのような場合に随時改定の対象となるのか、その具体例を幾つか見ていこう。

・昇給や降給によって、基本給が変動したとき
・時給制から月給制に変わるなど、給与形態が変更されたとき
・時給や日給が変わり、賃金が変動したとき
・通勤手当や住宅手当など、固定的な各種手当が新たに追加されたとき 
・歩合給制の単価が変動したとき など

上記のように給与のシステムに変更が加えられると、標準報酬月額が大きく変動し、以前のものと比べて2等級以上の差が生じる可能性がある。随時改定によって社会保険料が増額されると、企業側の負担額も増大することになるため、賃金のシステムを見直す際には社会保険料も意識することが重要だ。

随時改定の対象にならないケース

もう少し理解を深めるために、次は随時改定の対象にならないケースを幾つか紹介しよう。

・固定的賃金がやや上昇したものの、標準報酬月額に2等級以上の差が付かなかったとき
・時間外手当などの一時的な手当によって、非固定的賃金が変動したとき
・固定的賃金は下がったが、非固定的賃金が上がり全体の報酬が増えたとき
・固定的賃金は上がったが、非固定的賃金が下がり全体の報酬が減ったとき など

随時改定の対象となるのは、あくまで「固定的賃金に変動があった場合」だ。つまり、標準報酬月額に2等級以上の差があっても、非固定的賃金のみが変動した場合には、随時改定の手続きを行う必要はない。

また、例えば固定的賃金が下がっても、非固定的賃金で補てんされる形が取られていれば、これも随時改定が必要なケースには当てはまらない。給与のシステムを大幅に変更する場合には、全体の報酬額の変動にも目を向けることが重要だ。

「年間平均の保険者算定」とは? 平成30年10月からの変更点をチェック

従来の制度では、随時改定の標準報酬月額は3ヵ月間の給与の平均額によって算出されていた。しかし、この仕組みでは特定の時期のみに給与が高い場合に、社会保険料が不当に高くなってしまう恐れがある。

そこで、平成30年10月から新たに導入された制度が、「年間平均の保険者算定」と呼ばれるものだ。この制度でも固定的賃金の算出方法は同様(3ヵ月間の平均を取る)だが、非固定的賃金に関しては1年間の平均額が使用される。

従来制度と新制度の具体例

もう少しイメージをつかむために、以下では一つの例を挙げて解説していこう。

基本給(固定的賃金) 残業手当(非固定的賃金)
1月 290,000円 10,000円
2月 290,000円 10,000円
3月 290,000円 10,000円
4月 290,000円 10,000円
5月 290,000円 10,000円
6月 290,000円 10,000円
7月 290,000円 10,000円
8月 290,000円 10,000円
9月 290,000円 10,000円
10月(この月から昇給) 300,000円 60,000円
11月 300,000円 60,000円
12月 300,000円 60,000円

1年間に、上記のような形で給与を受け取ったサラリーマンがいたとする。このサラリーマンは10月から固定給が1万円昇給したのに加えて、年末に向けた納品の影響で10月~12月は残業代も増加した。

従来の制度であれば、「固定的賃金の変動月以降の3ヵ月間の給与」がベースとなるため、随時改定によって、東京都の場合、標準報酬月額は36万円(30万円+6万円)となる。改定前の標準報酬月額(30万円)と比べれば、等級は22(19)等級から25(22)等級へ3つ上がる計算だ。つまり、従来の方法で計算をすると、従業員は固定的賃金が毎月1万円しか上がっていないにもかかわらず、負担する社会保険料が増大してしまう。

一方で、年間平均の保険者算定では、標準報酬月額は以下の流れで計算される。

【1】固定的賃金の変動月以降の3ヵ月間の平均額を求める
(30万円+30万円+30万円)÷3=30万円
【2】非固定的賃金の1年間の平均額を求める
(1万円×9ヵ月+6万円×3ヵ月)÷12ヵ月=2.25万円
【3】上記2つの計算結果を合計する
30万円+2.25万円=322,500円

上記の標準報酬月額(322,500円)は23(20)等級であるため、従来の制度とは2等級もの差が生じた。この等級の差によって、実際に従業員が負担する社会保険料にも以下のような違いが出てくる。

等級 健康保険の負担額(従業員) 厚生年金保険の負担額(従業員)
23(20) 15,840円 29,280円
25(22) 17,820円 32,940円

つまり、健康保険と厚生年金保険だけを見ても、月々の負担額は5,000円ほど変わってくる計算だ。これらの保険は事業者と従業員が折半をする形で支払われるため、もちろん企業側の負担額も増大する。

この例を見て分かるように、繁忙期などの影響により特定の時期に給与が上がりやすい企業は、年間平均の保険者算定を利用することで、社会保険料を抑えられる可能性が高いといえるだろう。

年間平均の保険者算定の要件

上記の年間平均の保険者算定が適用されるには、以下の3つの要件を満たす必要がある。

〇年間平均の保険者算定の要件
・通常の随時改定による報酬月額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差がある
・通常の随時改定による報酬月額と、非固定的賃金を年間平均した場合の3ヵ月の報酬月額との間に、2等級以上の差がある
・現在の標準報酬月額と、年間平均した場合の報酬月額との差が1等級以上ある

上記を見て分かる通り、年間平均の保険者算定の要件はやや複雑だ。従来の制度における随時改定の報酬月額などを計算し、保険料額表を見ながら等級を比較しなければならない。計算ミスなどが生じる恐れもあるので、要件の判断は慎重に進めるようにしよう。

また、上記の要件を満たす場合であっても、年間平均の保険者算定が適用されるためには、事業主の申立書と被保険者の同意が必須となる点も覚えておきたい。

月額変更届を提出するまでの流れ・手続き

随時改定の要件を満たした事業者は、「月額変更届」と呼ばれる書類を提出しなければならない。この月額変更届が受理されれば、本来支払うべき社会保険料に変更される流れだ。

では、月額変更届を提出するまでの手続きについて、以下で詳しく確認していこう。

【STEP1】月額変更届を入手する

月額変更届は、正式名称である「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届」として、日本年金機構の公式ホームページ上で用意されている。このページからファイルをダウンロードし、印刷すれば月額変更届が入手できる。

日本年金機構

なお、月額変更届は電子申請でも提出できるため、公式ホームページではPDFとExcelの2つの形式が用意されている。以下で解説する提出方法も意識しながら、それぞれのケースに適した形式を選ぶようにしよう。

【STEP2】必要事項を記入する

手元に月額変更届を用意したら、次は提出者や被保険者に関する必要事項を記入していく。手続きをする理由に加えて、給与計算の基礎日数や報酬月額も記載する必要があるため、各従業員の情報はあらかじめ整理しておこう。

なお、日本年金機構の公式ホームページでは、月額変更届の記入例も公開されている。記入する欄の多い書類だが、記入例では必要な情報が丁寧に解説されているため、記入例を見ながら作業を進めると確実だ。

月額変更届(記入例)

【STEP3】添付書類を用意する

前述で解説した「年間平均の保険者算定」の適用を受ける場合には、月額変更届に加えて以下の添付書類も必要になる。

・年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
・健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)

これらの添付書類についても、日本年金機構の公式ホームページからダウンロードすることが可能だ。

添付書類

いずれの書類にも必要事項の記入が必要であるため、事業主の方は早めに目を通し、記入すべき情報を整理しておこう。

【STEP4】日本年金機構へ提出する

【STEP3】まで終わったら、あとは必要書類を提出すれば手続きは完了だ。提出先は事業所の所在地を管轄する年金事務所、もしくは事務センターであり、以下の4つの提出方法に対応している。

・電子申請
・電子媒体(CDまたはDVD)
・郵送
・窓口持参

電子申請以外の方法を選ぶ場合には、管轄の年金事務所や事務センターについてしっかりと調べておこう。なお、具体的な提出時期は定められていないが、「速やかに」と明記されているため、事実が発生したら早めに行動を起こすことが重要だ。

随時改定によって社会保険料はいつ変わる?

手続きが完了すると、該当する従業員の標準報酬月額と社会保険料が変更される。ただし、実際にこれらが変更される時期には差があるため、以下の情報もしっかりと押さえておこう。

変更される金額の種類 実際に変更される時期
・標準報酬月額 固定的賃金が変動した月から、連続する3ヵ月の翌月
・社会保険料 標準報酬月額改定月の翌月
(※社会保険料控除を「当月」としている場合は、標準報酬月額と同時期)

つまり、標準報酬月額は給与変動のあった4ヵ月目から、社会保険料は5ヵ月目から変更されることになる。従業員にもその旨を伝えておき、さらに給与明細書に通知書なども入れておけば、混乱やトラブルを防げるだろう。

なお、随時改定によって決められた標準報酬月額も、手続きの時期によって適用される期間が異なる。

改定時期 適用される期間
・その年の6月以前 その年の8月まで適用
・その年の7月以降 翌年の8月まで適用

固定的賃金が頻繁に変動する事業者は、上記の点も従業員に伝えておくとスムーズだろう。

経営者が正しい知識を身に付け、従業員に安心を

今回解説したように、従業員の固定的賃金が数万円単位で変動する場合には、随時改定が必要になる可能性が高い。そのため、特に給与体系を大きく変更するようなケースでは、随時改定の条件に該当していないかどうかを確認することが必要になるだろう。

また、要件を満たしている場合には、「年間平均の保険者算定」をきちんと活用するべきだ。本記事でも触れたが、適用を受けるには添付書類をそろえる必要があるため、従業員に確認を取りながら早めに準備を進めておこう。

社会保険についてはやや複雑な内容もあるが、経営者が正しい知識を身に付けておくと従業員の安心にもつながるため、理解をしっかりと深めてほしい。

文・THE OWNER編集部