経営破綻
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新型コロナウイルスの緊急事態宣言下による休業要請によって、経営が一瞬にして厳しくなり、経営破綻を身近に感じた経営者もいるのではないだろうか。今回は、経営破綻の要因や、経営破綻後に進める法的・私的整理の詳細、経営破綻を防ぐためのポイントについて説明する。

志磨 宏彦
志磨 宏彦(しま・ひろひこ)
志磨税務経営事務所所長・税理士、中小企業診断士、経営革新支援機関、1級販売士。1959年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。志磨税務経営事務所所長・税理士、中小企業診断士、経営革新支援機関、1級販売士。税理士として100社以上の顧問先を持つかたわら、企業のコンサルティング、セミナー講演等にも飛び回る。融資案件にも強く、政府系金融機関とのパイプが太い。また、多くの外部スタッフ(弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士等)と連携し、さまざまな企業ニーズに応えることを得意としている。

目次

  1. 経営破綻とは
    1. 経営破綻と倒産の違い
  2. 経営破綻する要因
    1. 経営破綻要因:外部環境要因
    2. 経営破綻要因:内部環境要因
  3. 経営破綻するとどうなるのか
    1. 民事再生
    2. 会社更生
    3. 破産
    4. 特別清算
    5. 任意整理
    6. 自主廃業
  4. 経営破綻しないためには
    1. 行き過ぎた節税をやめる
    2. 連鎖倒産をしない
    3. 借入れは慎重に
  5. 経営破綻を防ごう

経営破綻とは

経営破綻とは、一般的に債務の弁済が滞って会社の経営が続けられない状態をいう。具体的には、指定期日までに買掛金の支払いができない、借入金の返済ができないなどの状態を指し、手形が落ちない(不渡手形)状態が6ヵ月以内に2回発生すると、金融機関から取引を停止され、事実上経営破綻とされる。

経営破綻と倒産の違い

経営破綻と倒産では言葉の意味に差はないが、「倒産」という用語は非常にインパクトがあり、社会に与える影響も大きいので、「経営破綻」として柔らかく表現される傾向にある。

なお、破綻という用語は「財政破綻」にも用いられるように、倒産よりも広い意味で使われることが多く、倒産という用語よりも経営破綻を用いることが多い傾向にある。

経営破綻する要因

経営破綻や倒産などがニュースで取り上げられると、決まって負債総額が〇〇億円のように発表される。この数値を発表しているのが、日本でも有数のシンクタンクである「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」である。

帝国データバンクでは、経営破綻の要因を、①不況型倒産、②人手不足倒産、③後継者難倒産④返済猶予後倒産という形で区分している。2019年のデータでは、倒産件数が8,354件となっており、①が6,615件(構成比79.2%)と最も多く、②が185件(同2.2%)、③が469件(同5.6%)、④524件(同6.3%)となっている。やはり、経営破綻に至る要因は不況が主因であることがわかる。

経営破綻要因:外部環境要因

経営破綻の外部環境要因は大きく2つに分けられる。不況型と、環境変動型だ。

1.不況型

不況型の経営破綻の中には、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振などの細かい要因がある。2008年9月のリーマンショックによる不況は記憶に新しいであろうが、このリーマンショックで影響を受けたのは、証券業界を始めとする金融機関であった。また、株価が急落し、株式を保有する企業にも大きな影響を与えた。

2020年のコロナ禍は、リーマンショックのように業界がある程度限定されるのと違って、ほぼすべての業界に影響を及ぼす不況型の経営破綻の要因になると考えられる。識者によっては、1930年代の世界恐慌以来の大不況になるとも言われており、予断を許さない状況である。

2.環境変動型

企業は「変化対応業」と言われることが多い。企業30年寿命説という言葉があるように、時代の変化に対応しないと概ね30年前後で会社は潰れるとされているのだ。

環境変動型の経営破綻とは、主に技術革新によるところが大きい。

例えば、写真用フィルムで世界シェアのK社は、デジタルカメラの登場によってフィルム販売が激減し、会社更生法の申請を余儀なくされた。一方、ライバルの日本企業のF社は、フィルム事業は瀕死の状態だが、関連する技術を応用して化粧品などの分野へ事業を拡げることで生き残っている。

このように、経済の好不況に関係なく、成功している企業であっても時流に乗らなければ経営破綻の憂き目に遭うことがあるのだ。

経営破綻要因:内部環境要因

経営破綻の内部環境要因も大きく3つに分けられる。経営戦略の失敗、リスク管理の甘さ、そして内部管理だ。

1.経営戦略の失敗

市場や環境の変動が起これば、企業は新商品の開発や設備投資によって活路を見出そうとする。新発売した商品が売れていけば問題ないが、当初の計画ほど売れなかった場合は、投資回収が困難となって経営破綻の要因となる。

「社運をかけて・・・」などと新しい製品・サービスを打ち出す企業もあるが、よほどの自信がない限りは博打的な投資はすべきではない。

2.リスク管理の甘さ

リスク管理にはさまざまな意味があるが、ここでは経営者に関わる意味に限定する。経営者も人間であるから病気、ケガで入院することもあるだろうし、不測の事故に巻き込まれて死亡することもある。あるいは、経営者でなくても、重要なプロジェクトのキーマンが不在となる事態に陥れば、企業の存続に支障をきたす。

普段から経営者やキーマンが欠けても支障のないように、会社内で情報の共有化を行い、欠けた部分は残った社員で埋めるようにリスク管理することが望ましい。

3.内部管理

中小企業が経営破綻に陥ってしまう内部要因として多いのは、この内部管理であろう。

内部管理には、経営者の経営感覚の甘さ、節税に走りすぎたために起こる内部留保の脆弱さ、身の丈以上の投資の失敗、人材の流出などが挙げられる。経営者の第一の使命は、会社を継続させることであると肝に銘じて、内部管理に注意を払わなければならない。

経営破綻するとどうなるのか

経営破綻のタイミング、すなわちどの時点で「経営破綻」とするかはさまざまな解釈があるが、最もわかりやすいのは資金不足である。手形の不渡りを6ヵ月の間に2回起こすと、銀行から取引停止を受けることになるが、これはメインバンクに限ったことではない。手形決済をしていない場合でも、借入金の返済が滞ると取引停止となる。

取引停止になると借入金の取り立てが起こり、税金等の滞納があれば催告状が届いたり、税務署の職員が調査に来ることもある。取引先からも催促が執拗に行われ、残る道は経営破綻しかない状態になるのだ。

経営破綻すると、通常は弁護士に相談して対応を検討することになる。経営破綻をした場合の選択肢には①法的整理と②私的整理とがあり、①には民事再生、会社更生、破産、特別清算の4つがある。②には、裁判所の関与がないものが該当し、任意整理、自主廃業がある。

各法的整理の違い

民事再生会社更生破産特別清算
目的再建型再建型清算型清算型
対象個人、法人を問わない株式会社個人、法人を問わない清算中の株式会社(合同会社などは適用外)
業務、財産の管理処分権債務者(経営者)更生管財人破産管財人特別清算人
裁判所の関与度合い関与は限定的積極的な関与破産管財人を通じて間接的関与関与は限定的
弁済案の作成者債務者(経営者)更生管財人破産管財人が配当を実施特別清算人
経営者の関与できるできないできないできる

経営破綻後に行う、各法的整理について詳細を説明しよう。

民事再生

2000年に施行された比較的新しい「民事再生法」に基づく処理である。民事再生の前は「和議法」という法律に基づいて処理が行われていた。和議法も民事再生法も、中小企業が主な対象とされているが、稀に大企業にも適用されることがある。

「再生」という言葉が付く通り、法人を消滅させることが目的ではない。民事再生においては、まず「再生計画案」を立案し、債権者の多数決による決議によって「再生計画案」が採択された後に、業務を継続しながら再生計画を実行していくこととなる。

民事再生は、業務を継続でき、経営者はクビになる心配もないので一見良さそうに見えるが、事前に裁判所に納付する予納金や弁護士報酬、事業継続のための運転資金が必要になる。したがって、資金不足に陥って経営破綻してしまった状態では、民事再生の適用は困難なのだ。

他社で真似のできない技術を持っていたり、独自の販売ルートを持っている企業などの場合は、スポンサーとなる企業が現れて民事再生を行えるケースもある。

会社更生

民事再生と違い、破産してしまうと社会に与える影響の大きい大企業向けの債務整理である。裁判所が選任した更生管財人が、債権者などの利害関係者の同意の上で更生計画を策定して計画を遂行する。これにより、資金繰りに行き詰まった会社の事業の再建を図る。

会社更生手続きには強制力があり、債権者や株主の権利をも制約し、更生計画で彼らの権利をカットすることができる点に特徴がある。つまり、株式は紙切れ同然となり、債務のカットや経営者の交代といったようにドラスティックな処理が行われる。

破産

破産については、「破産法第1条」に以下のように記されている。

「この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする」

民事再生や会社更生などの再生型の債務整理と違って、会社の清算を図ることを目的としており、債権者の財産の適切な配当と債務者の経済的更生を目指している。

破産の手続きは、裁判所によって選任される破産管財人が、破産者の財産を調査・管理・換価処分して、債権者の弁済に充てる形態が基本である。

特別清算

特別清算とは、資金繰りに行き詰った株式会社が破産手続きよりも簡易な方法で清算する手続きである。破産管財人を立てることなく、債権者の3分の2以上の同意が得られれば、会社の債務を消滅させ、会社を清算することができる。したがって、債権者の数が少ない場合(同族会社などのケース)に限定されるというのが一般的である。

また、同意を得たとしても債務者の支払い順位の高い税金、社会保険料、従業員給与などの支払いが済んでいるという前提がつくので、注意が必要である。

特別精算を行えるのは株式会社のみで、特例有限会社や合同会社には適用されない点にも留意しておきたい。

任意整理

これまで紹介した法的整理とは違って、任意整理は私的整理に分類されるので、裁判所の手続をとらない。任意整理とは、経営破綻した会社が直接債権者と交渉して、債務を減額させる方法のことである。

例えば、金融機関から借入れをしており、債務カットによって企業が存続できるならば、金融機関との間で話合いをして債務(主に利息)一部免除してもらったり、返済計画の変更(リスケ)を承認してもらう事で、会社の経営再建を進めることになる。

任意整理の方法について、法に定められたものはないが、手続の公平性・透明性という観点から、2001年に政府より発表された「私的整理に関するガイドライン」を参考にすることをお勧めする。

自主廃業

自主廃業は今回のテーマである経営破綻後の手続きとは意味合いが違うが、経営破綻に関連するキーワードなので紹介しておこう。

経営破綻は、経営の継続が困難となった状態を指すのに対して、自主廃業は現状では経営の継続は可能であるが、企業を取り巻く経営環境の悪化などから、仮に経営を存続させればいずれ債務超過に陥る恐れがあるという経営判断に基づいて、経営の存続を中断させるということである。

中小企業経営者の高齢化が進み、後継者不在の企業が増加しており、そのような企業は傷口が広がらないうちに自主廃業を選択するケースが多く、日本経済の根幹に影響を与えてきている。自主廃業を選択する前に、M&Aなどを活用して存続させてもらいたいものである。

経営破綻しないためには

経営破綻をしないために必要なポイントは3つだ。無理な節税をしない、連鎖倒産は避ける、そして借り入れを慎重に行うことだ。

行き過ぎた節税をやめる

税理士をしていると、さまざまな経営者から節税の相談を受ける。節税は経営手法の一つで、租税特別措置法によって中小企業にとって有利な節税策が整備されている。

国のお墨付きの節税をしているくらいなら良いが、経費の使い過ぎ、経営者の私的経費などで利益を過少にしていると、内部留保が少なくなり、不況によって売上が減少した際には経営破綻に近づくことになる。したがって、しっかりと税金は納め、借金は減らし、内部留保を厚くするという経営が、経営破綻を防ぐためにも理想である。

連鎖倒産をしない

連鎖倒産とは、取引先が倒産し、そのあおりを食って自社が破綻に追い込まれることである。取引先は自社の商品を買ってくれており好意的に見るのが普通だが、日頃から冷静になって観察していくことが重要である。

取引先の経営者とのコミュニケーションを密にし、帝国データバンクなどから決算書を入手するなどして、信用状態を見極めることが重要である。

借入れは慎重に

2020年発生の新型コロナウイルス禍によって、さまざまな政府の経済対策が打ち出され、日本政策金融公庫を中心に融資の緩和が行われている。中には必要以上に資金を借入れた企業もいると聞く。当たり前のことだが、借りたら返すのが世の常。かならず返済が発生する。

バブル経済の時に身の丈以上に借りた企業が、バブル崩壊とともに破綻した例は枚挙に暇がない。借入れをする際には、しっかりと経営計画を作成し、返済に問題なしと判断した場合に限って借入れをしたいものである。

経営破綻を防ごう

以上、経営破綻について述べてきた。企業はコロナ禍のような不測の事態で経営が悪化する場合もあるが、経営破綻の中には経営者の努力で防げるものもある。

経営破綻後の処理について、法的整理と私的整理についても紹介したが、どれも茨の道であることに間違いはない。是非とも経営破綻の兆候がないかチェックしながら堅実経営を貫き、1年でも長く企業を継続してもらいたいものである。

文・志磨宏彦(税理士・中小企業診断士)

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