労災
(画像=崇正 魚谷/stock.adobe.com)

労災は、従業員が仕事中にケガや病気などの被災を受けることを意味し、労災認定されることで補償金が支払われる。労災については、認定基準があまり一般に知られておらず、実際に被災した際に判断に迷う事もある。ここでは、労災の基本や労災適用の基準、具体的な補償金額まで説明する。

目次

  1. 労災とは
    1. 業務災害の定義
    2. 通勤災害の定義
  2. 労働者災害補償保険法とは
    1. 労働災害補償保険制度がなければどうなるのか
    2. 労働災害補償保険は加入が必須なのか
  3. 労災が適用される基準とは
    1. 労災の認定基準1:業務遂行性
    2. 労災の認定基準2:業務起因性
    3. 通勤災害の労災認定
  4. 労災の具体的な補償金額
    1. 具体的な補償金額
    2. 休業補償以外の補償金
  5. 労災について不明点があれば専門家に相談しよう

労災とは

「労働災害」という言葉を短縮して、通常「労災」と呼ばれている。「労働災害」の言葉からわかるように、会社の従業員が「労働」によって被った「災害」が労災であり、「業務災害」と「通勤災害」の2つがある。

業務災害の定義

業務災害は、会社で指定された業務に従事している時に、従業員がケガを負ったり病気をしたりすることだ。ただ、仕事上のケガや病気が全て労災と認定されて補償されるわけではない。「労働基準法」に規定されている「業務上疾病」に該当する場合だけ、労災と認定される。

つまり、従業員が仕事中にケガをしたり病気になったりした場合、それが労働基準法上の「業務上疾病」になるか否かを検証することになり、「業務上疾病」と認定されれば金銭的な補償を受けることができる。

「業務上疾病」は、文字どおり従業員が業務を行う上で被ったケガや病気のことである。業務上疾病の基準は厳格に設定されているため、しばしば災害を被った従業員と会社の間で意見が対立して裁判になることもある。

通勤災害の定義

通勤災害は、従業員が会社へ通勤する途中でケガを負う、あるいは会社や仕事先からの帰宅途中で傷病を負うことを言う。ただ、従業員が出社、帰宅に使用する通常の経路から外れた場合、例えば寄り道をした場合は、基本的には労災として認められない。寄り道をした場合に、全てが労災に認定されないわけではなく、一部認められる場合がある。この基準については、後で詳しく説明する。

労働者災害補償保険法とは

従業員が、出勤・帰宅途中、あるいは仕事が原因でケガや病気をして、それが労災に認定された場合、金銭的な補償を受けることができる。労災の補償に充てられる原資は「保険」であり、一般的に「労災保険」と呼ばれているが、正式には「労働者災害補償保険」のことである。

労災保険に関して規定されている法律が、「労働者災害補償保険法」である。この法律を根拠として、仕事中、あるいは通勤・帰宅中のケガや病気、または長時間労働が原因の過労死といった労災に対して、金銭補償されるという仕組みになっている。また、ケガや病気の治療費、休業中の補償、従業員が死亡した際の遺族への補償なども、労働者災害補償保険法に規定されている。

労働災害補償保険制度がなければどうなるのか

もし「労働災害補償保険」制度がなければ、会社の従業員が仕事中、出勤中・帰宅中にケガをした場合には、「労働基準法」の第75条~第83条の規定に基づき、会社の代表者が自分の財産を持ち出して、労災の対象者に補償しなければならない。

仮にそのような事態が起これば、多額の補償金を会社が支払うことになり、会社の経営に多大な影響を与えかねない。また、労働災害補償保険に加入できない中小企業に従業員が就職しなかったり、労災補償の責任回避のために、資産を持たない会社が従業員を雇わなくなることも予想される。

そうなれば、会社は業績を上がることが難しくなり、従業員も安心して働くことができなくなる。この結果、経済が停滞して社会に多大な影響を与える懸念があるため、労働災害補償保険が必要となったのである。

ただし、労働災害補償保険があったとしても、従業員に対する会社の「安全配慮義務」がなくなるわけではない。もし、会社が従業員のために十分な配慮をせずに従業員が労災に遭遇した時には、労働災害補償保険で補填できない部分について、会社がその金銭的負担をしなければならない。

労働災害補償保険は加入が必須なのか

ところで、この労働災害補償保険は強制加入なのだろうか。会社にとっても、従業員にとっても気になる点である。

「労働災害補償保険法第3条」では、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定されており、基本的に従業員を雇っている会社は労災保険の適用対象となっている。つまり、労働災害補償保険に加入しなければならないということだ。

仮に、会社が労働労災保険の保険料を支払っていなくても、従業員の労災が認定されれば補償金が支払われる仕組みになっている。この場合、まず従業員に対して労災保険が給付され、その後に、政府が会社に対して保険金の一部や全額を請求するという対応を行う。

労災が適用される基準とは

労災と認定されるためには、ケガや病気をした従業員、あるいは従業員が死亡した場合にはその家族が、労働基準監督署に労災認定の申請手続きを行わなければならない。労災の適用基準は2つある。

労災の認定基準1:業務遂行性

「業務遂行性」は、ケガや病気をしたのが事業主が管理している業務中だったか否かということだ。日々の業務の際に、従業員がケガ、病気をしたことはもちろん、強制的な参加が促される集まりや、親睦会やレクリエーションの最中にケガや病気をした場合でも、労災が適用されることになる。

例えば、会社の親睦会などの開催中に、従業員がトイレに行く途中でケガをした場合でも労災が適用される。もちろん、社員旅行中のケガや病気をした際も労災の対象となる。つまり、広く就業時間中にケガや病気をした場合には労災適用となるのだ。

労災の認定基準2:業務起因性

「業務起因性」は、従業員がケガや病気をした原因が、業務にあるか否かということである。例えば、営業職にある従業員が外回り中に交通事故に遭ってケガをした場合、会社指定の営業業務に起因するため、労災に認定される可能性は高い。

また、ハラスメントについても、会社の上司から業務中に従業員が何度も厳しく叱責されてうつ病で入院した場合、従業員の入院と上司による業務中の叱責にはパワハラとの因果関係があるため、労災に認定される可能性がある。

通勤災害の労災認定

「業務遂行性」や「業務起因性」は、業務中にケガや病気をした場合の基準である。一方で、会社への出勤中や仕事先からの帰宅中にケガや病気をした場合でも、基本的に労災が適用される。ただし、出勤中や帰宅中のケガや病気が労災に適用されるには、合理的な通勤帰宅ルートでの被災という要件がある。

わかりやすく説明すると、自分の住居である「家」から仕事先の「会社」までを寄り道することなく、真っ直ぐ通勤、あるいは帰宅することだ。

ただし、「寄り道することなく」というのはあくまでも原則である。例えば、通勤中に昼ご飯を買うためにコンビニエンスストアに寄ったり、帰り道に夕食の材料を買うためにスーパーマーケットに寄ったという場合は、「生活必需品の購入」という目的であるため、労災に認定される可能性がある。

労災の具体的な補償金額

労災適用者に対する補償の中で最も代表的なものは、「休業補償」だ。これは、勤務中の業務遂行中や出勤中・帰宅中にケガや病気をして会社を休んだ場合に、休業4日目から補償金が支給される制度である。なお、正式には、仕事中のケガや病気に対する補償を「休業補償」、出勤中・帰宅中のケガや病気に対する補償を「休業給付」と呼ぶ。

具体的な補償金額

具体的な補償金額は、平均給与の日額の60%(休業補償・休業給付)に、同じく平均給与の日額の20%(休業特別支援金)を加算して算出する。つまり、休業補償金額は、平均給与の日額の80%が支給されることになる。

平均給与の日額は、ボーナス等を除いた直近3ヵ月の給料を日数で割った金額となる。例えば、給料が毎月30万円で6月にケガや病気などの被災をした場合、直近の3ヵ月は4,5,6月であるため、日数は91日になる。

従って、平均給与の日額は、「30(万円)×3(ヵ月)÷91(日)=9,890(円)」となるため、休業補償の1日の金額は、「9,890(円)×80(%)=7,912(円)」である。

なお、休業補償・休業給付の支給については、期間に上限はない。また、休業1日目~3日目は、支給されないが、仕事中の災害が原因の場合は、別途会社がこの3日間の補償をすることになっている。

また、療養した病院などの医療機関が、労災保険指定機関の場合、「療養補償給付たる給付請求」の手続きを行えば、その医療機関に療養費を支払う必要はない。また、労災保険指定機関での受診でない場合でも、一旦自分で療養費を支払い、その後に「療養補償給付たる給付請求」の手続きを行えば、支払った療養費が還付される。

休業補償以外の補償金

休業補償制度の他にも、治療後に障害を負った場合には「障害補償金」が支給され、障害の重い等級である「1~7級」の人には「障害補償年金」、比較的軽い等級である「8~14級」の人には「障害一時金」が支給される。

また、労災によって死亡した従業員の遺族に対して、「遺族補償年金」が支給される。死亡した従業員の収入で生計を立てていた場合、配偶者、子ども、両親、孫、祖父母、兄弟姉妹に受給する資格がある。なお、労災によって死亡した従業員については、葬儀を行う遺族などに対して「葬祭料」が支払われる。

さらに、労災が発生してから治療を開始して、1年6ヵ月経ってもケガや病気が治らなかった場合、「傷病補償年金」が支給される。ただし、国が定める疾病の等級に該当する人のみが対象であることに注意が必要だ。

労災について不明点があれば専門家に相談しよう

労災保険は、従業員が安心して働くために必要な制度だ。しかし、労災補償には保険金が充てられるため、労災に該当するか否かについては厳格な基準がある。労災保険は従業員を守るためのセーフティーネットなので、経営者としても、労災の適用範囲などについて不明な点があれば、必ず専門家に相談しよう。

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)

無料会員登録はこちら