労災保険
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労働者が労働災害にあった際に、治療費などを補償する労災保険制度であるが、基本的には会社役員は労災保険の対象外となっているため、災害補償は受けられない。ここでは、労災保険の制度の仕組みや適用対象者、また、労災保険に役員は加入できるか否かについて説明する。

内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

目次

  1. 労災保険とは?
    1. 労災保険の変遷
  2. 労災の適用対象は「労働者性」で決まる
  3. 特別加入の労災保険とは?
    1. 労災保険の特別加入対象者
    2. 労災保険の特別加入申請の流れ
  4. 労災保険も健康保険も使えない場合とは?
    1. 民間保険会社の傷害保険のメリット3つ

労災保険とは?

労災保険とは、企業に雇用されている「労働者」が、仕事中はもちろん通勤途中に発生した災害によって、怪我や死亡した場合などはもちろん、セクシャルハラスメントによる精神疾患が発生した場合などにも保険給付を行う制度である。

労災保険は「労働者災害補償保険」の略語であり、いざ労働に関わる災害が起こった時に、労働者はもちろん遺族の生活も守るための社会保険である。日本政府が運営している社会保険制度であり、労働者を雇用している事業者は一部の例外を除いて加入義務があり、保険料全額を事業主が支払わなければならない。

労災保険が適用される労働者は、正社員などの一般労働者だけでなくアルバイトや日雇労働者も含まれが、法人の役員や個人事業主自身は対象とならない。

類似の保険である「国民健康保険」との違いは、労災の補償対象に認定されれば、治療費などを自己負担する必要がないという点である。また、休業時の手当についても健康保険の傷病手当金よりも手厚い補償となっている点である。

労災保険の変遷

労災保険は、何故このような制度になっているのだろうか。

かつて労働災害の補償は、個別企業と労働者との関係において行われていたため、労働者が労働災害に被災した際は、業務を起因とする災害であったことや雇用する側に過失があったことを証明する必要あったため、労働者の立場が弱かった。

しかも労働者側に過失があれば過失相殺によって賠償額は減額されたため、労働災害によって就業不能に陥ってしまった労働者にとって、保障が不十分であった。これは、通常の不法行為と同様の法律構成で損害認定を行っていたためであった。

しかし、企業の経営活動においては、個人事業主などを除いて、労働者の活躍によって企業は利益を得ているのであり、業務上での災害であれば雇用する側が補償を行うのが当然であるとの意見もあり、労災保険が制度化された。このような時代背景で成立したものであるため、役員等、使用者に対する保障は当初は考慮になかったのである。

労働者を守るための制度であるため、悪質な業者などで、仮に未届けで労災保険の保険料納付が未実施の事業所での労災であっても、労働者側に責任はないことから、労働者への保険給付は行われる。この場合、事業主は保険料を追加徴収され、故意や重大過失の場合には保険給付に要した費用も徴収される。

労災の適用対象は「労働者性」で決まる

労災保険の対象は原則として労働者のみであるため、本来、使用者にあたる会社役員は労災対象外となるが、名前は役員であっても、現場監督の責任者などのように法人としての業務執行権を有さない場合は、労災保険の加入対象となる。

労災保険の適用対象のポイントは代表権や業務執行権を有するか否かという点である。 実務上は業務執行権を有しているかどうかの判断は非常に難しいかもしれないが、業務執行権を有する人の指示監督を受けて通常の労働者と同様に勤務していれば、労働者として取り扱われるため労災保険の対象になる。

業務執行権を有さない役員のことを、通常の労働者と同一の環境で勤務をしていることから、「労働者性」のある役員という。

特別加入の労災保険とは?

法人の代表者や個人事業主などの労働者性を有さない役員は、労災保険に加入することはできない。しかし、中小企業や一人親方など、代表者自身が現場に立って労災保険の適用される労働者と一緒になって作業していることもある。

そのような現場で事故が発生した場合に、代表者だからといって保障が何もなければ、会社の存続自体が危ぶまれることになりかねない。そこで、労働者性のない人々を対象とした「労災保険特別加入制度」がある。

労災保険の特別加入対象者

「中小事業主」「一人親方」「特定作業従事者」「海外派遣者」のいずれかに該当すれば、労災保険に特別加入することが可能である。

「中小事業主」とは、一定の人数以下の従業員を雇用している事業主のことである。人数の基準は業種ごとに異なるので、自身が中小企業主に該当するかどうかは事前に確認が 必要である。

「一人親方」とは、主に土木作業や建設業を営む人々が該当することが多く、労働者を 雇用せずに1人で仕事を請け負っている場合や、雇用をしていても、雇用者の勤務日数が年間100日以下であったり、労働者が家族で業務を請負している事業者が該当する。

「特定作業従事者」は、下記のように個別で具体的に定められた仕事に従事している人を指す。

・特定農業従事者
・指定農業機械作業従事者
・国または地方公共団体が運営する職務訓練に携わる従事者
・家内労働者とその補助者
・労働組合等の常勤役員
・介護作業従事者および家事支援従事者

また、「海外派遣者」についても適用の範囲内となる。国によっては労災保険があってもレベルが低く、適用の基準が曖昧な場合もあり、日本であれば労働災害の保障が受けられる要件に相当しても、海外では保障が受けられなくなってしまう場合がある。

その場合に、海外派遣されている労働者も、日本国内の水準で補償が受けられるようになる。ただし、海外の現地採用労働者は労働災害の特別加入の対象外であり、あくまで日本国内の法人から派遣されている労働者に限られる。

法人の代表や会社の社長であっても労災保険に加入することはできるが、注意しなければならない点もある。特別加入の労災保険は、労働者と同じような業務をしながら遭遇した 災害について保障することが目的であるため、社長・経営者としての業務中での被災は保証対象とはならない。

労災保険の特別加入申請の流れ

労災保険の特別加入をする際には、所轄の労働基準監督署または公共職業安定所、もしくは労働保険事務組合に、「特別加入申請書」を提出しなければならない。「特別加入申請書」の記載内容は以下の通りである。

・事業の内容
・給与の額
・すべての役員の氏名
・すべての役員の給与の基礎日額と勤務時間
・会社の名前と所在地
・申請に係る事業の労働保険番号

事業の内容が詳しくチェックされるため、特別加入を申請する場合は該当項目をできるだけ詳しく記入する必要がある。

労災保険の特別加入申請書にすべての役員の氏名を記入しなければならないのは、代表が特別加入した場合は役員もすべて加入扱いになるためである。また、特別加入を申請する際には、健康診断を受診しなければならないケースもある。

これらの条件をみたし、所轄の都道府県労働局長の承認を受ければ、特別加入が認められる。労災保険の特別加入の場合には、保険料とは別に労働保険組合加入する際の入会金や 年会費が別途発生するため、支払が割高になることもある点に注意されたい。

労災保険も健康保険も使えない場合とは?

労災保険は先に述べた通り、労働者に対して業務上の事故などにより生じた損害や就労不能に対する保障をするためのものである。そのため、経営に携わる経営者や役員は原則として労災保険の対象者とならない。

労災保険の特別加入制度については、すべての役員が加入できるわけではない。ただ、人によっては労災保険が適用されなくても、健康保険があるから大丈夫と考える方もいるだろう。

しかし業務災害が原因となる病気やけがの治療には、特定の条件下を除いて健康保険を使うことはできないため、なんと全額自費治療になってしまうのである。

役員だからといって、医療費が全額自己負担になってしまっては、もしものときに必要な医療が受けられなくなってしまう可能性がある。そのため、労災保険が適用されない役員を抱える事業者は、民間保険会社の傷害保険への加入も視野に入れなければならない。

民間保険会社の傷害保険は、業務中のケガや病気で治療費が必要になった時、後遺症が残った時、亡くなった時などに給付金が支払われる。

民間保険会社の傷害保険のメリット3つ

民間の傷害保険のメリットは、主として3点考えられる。

1点目が、特別加入の労災保険が、役員の業務のうち労働者性のある業務しか保障されないのに対して、民間保険が「業務内容が事業主としてか、労働者として行っていたか」などに関わらず、保険の給付が行われる点である。

つまり、万が一のための備えとしては、民間の傷害保険のほうが保障の範囲が広くなる、といえる。

2点目は、申請から支払までの期間が短い点である。通常であれば、申請から2,3日で給付が行われるなど、非常に短期間で保障が受けられる。労災保険の場合は、申請から支払まで1ヵ月近くかかることもあり、急ぎで資金が必要な場合には困ることもあるだろう。

3点目は、労災保険と違って保障の内容やオプションをカスタマイズできる点である。

文・内山瑛(公認会計士)

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