割引現在価値
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今の100万円と、3年後の100万円の価値は同じだろうか?将来の不確実性を考慮して現在の価値導く方法として「割引現在価値」があり、M&Aにおいても企業価値判断に活用されている。今回は、割引現在価値の基礎や、割引現在価値のメリット・デメリットについて説明する。

風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

目次

  1. 割引現在価値とは?
    1. 100万円で考えてみる
  2. 割引現在価値が利用される場面とは?
    1. 1.M&Aの際の株価算定及び事業価値算定
    2. 2.不動産投資の計算
    3. 3.会計基準への採用
  3. 割引現在価値の計算方法
    1. 1.割引率
    2. 2.キャッシュ・フロー
    3. 3.実際の投資判断への利用
  4. 割引現在価値のメリットは?
  5. 割引現在価値のデメリットは?
  6. 経営者は割引現在価値だけでなく、「目利き」も大切にせよ

割引現在価値とは?

「割引現在価値」とは、将来受け取る予定の収益を今受け取ったと仮定した時に、どの程度の価値があるかを表す概念をいい、その価値の計算手法が「割引現在価値法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」であり、英語表記の頭文字をとってDCF法と呼ばれることもある。

100万円で考えてみる

割引現在価値をみていくにあたり、身近な事例として、銀行に定期預金として100万円を預けた事例を考えてみよう。

金利は年1%とし、福利運用を前提とすると、1年後から3年後までの満期定期預金の残高は、それぞれ以下のようになる。

・1年満期の預金残高:101万円(=100万円×(1+1%))
・2年満期の預金残高:102.01万円(=100万円×(1+1%)×(1+1%))
・3年満期の預金残高:103.0301万円(=100万円×(1+1%)×(1+1%)×(1+1%))

この計算結果からは、現在の100万円と1年後の101万円の価値は等しいといえる。さらに、現在の100万円は、2年後の102.01万円と、3年後の103.0301万円と価値が等しいといえ、整理すると以下のようになる。

割引現在価値

このことから、記事冒頭の「今の100万円と、3年後の100万円の価値は同じだろうか?」という質問に対する回答としては、「今の100万円と3年後の100万円の価値は等しくない」ということになる。

割引現在価値

現在の価値が1年後、2年後、3年後にそれぞれいくらの価値になるかを見てきたが、この関係を利用すると、1年後、2年後、3年後のそれぞれの収益を現在の価値に割り引く計算ができる。割引現在価値を算出する公式は以下の通りである。

割引現在価値

PV:現在価値
CFn:n年後の将来キャッシュ・フロー
r:割引率
n:年数

この公式を利用して、1年後の101万円と、2年後の102.01万円と、3年後の103.0301万円が現在の100万円と等しいということを確認すると以下のようになる。

・1年後の101万円の現在価値

割引現在価値

・2年後の102.01万円の現在価値

割引現在価値

・3年後の103.0301万円の現在価値

割引現在価値

ゆえに、現在の100万と等しいということがわかると思うが、これは、先に説明した福利計算の裏返しでもある。

このような、福利計算と割引現在価値の関係を図に表すと以下のようになる。

割引現在価値

n年後のキャッシュ・フローを計算する福利計算の公式は以下のようになる。

CFn=PV×(1+r)n

これに対して、割引現在価値を計算する先の公式は、PVについてこれを変形させたものに過ぎない。

先に記載した公式を再掲する。

割引現在価値

これで、割引現在価値計算と福利計算が裏表の関係にあることが、ご理解いただけたのではないだろうか。

割引現在価値が利用される場面とは?

これまで見てきた割引現在価値は、主に以下のような場面で利用されている。

1.M&Aの際の株価算定及び事業価値算定

M&Aの現場において、買収対象企業もしくは事業の収益力に見合う投資額の算定において活用されている。この時の将来キャッシュ・フローは、対象企業もしくは事業が生み出す営業利益がベースとなる。

2.不動産投資の計算

割引現在価値は、物件ごとに属性が異なる不動産投資判断においても利用されている。この時の将来キャッシュ・フローは、当該物件からもたらされる賃料収入、売却収入となる。

3.会計基準への採用

減損会計、リース会計、退職給付会計、資産除去債務会計などの会計基準において、将来発生するキャッシュ・フローや債務額に対して、現在の価値へ割り引くというプロセスが採用されている。

割引現在価値の計算方法

続いて、割引現在価値の計算方法について確認していこう。

1.割引率

割引率は、先の割引現在価値の公式の分母「r」であるが、これは、将来のキャッシュ・フローの不確実性の度合い、すなわちリスクそのものともいえる。将来のキャッシュ・フローが確実に受け取ることができるかどうかは誰にも分らないため、リスクが大きいほど時間の経過とともに価値は大きく下がることになる。

時間の差とリスクが存在することによって、将来の価値は現在の価値に換算すると割り引かれて小さくなるという理論が成立する。

そのため、割引現在価値計算において、割引率の設定は重要な要素となっている。

ここで、M&Aなどを行う際に利用される「WACC」という割引率の説明をしておきたい。

WACCとは、加重平均資本コストともいわれ、投資家(債権者、株主など)が投資した額に対して求める期待収益率を指す。すなわち、企業が投資をする以上最低限クリアしなければならない投資利回りであるため、企業のM&Aなどの投資判断において利用されている。

資本コストは以下のような構成となっている。

資本コスト=株主資本コスト×株主資本/総資本+負債コスト×負債/総資本

株主資本コストは株主が期待する収益率であり、会社側からは株式による資金調達時に発生するコストともいえる。

負債コストとは、債権者が企業に資金を貸し付けるにあたって要求する債権者の期待収益率である。企業側からみると、支払利息の利率でもある。

2.キャッシュ・フロー

キャッシュ・フローとは、文字通り「現金の流れ」である。割引現在価値計算において、割引率と同様に、重要なファクターの一つである。

キャッシュ・フローは、現金が増加するキャッシュ・インフローと、現金が減少するキャッシュ・アウトフローに区分できるが、現在の価値が増えるためには、将来のキャッシュ・インフローを増やしてキャッシュ・アウトフローが減少したほうがよい。これまでの実績に加え、将来の事業計画や、投資計画を加味して計算していくことになる。

3.実際の投資判断への利用

割引現在価値を利用する場合に、割引率やキャッシュ・フローを基に投資判断を検討することになるが、将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くというイメージを持ってもらうために、下記の図をご覧いただきたい。

割引現在価値

横軸は時間軸であり、左から右に時間が進むと仮定する。将来キャッシュ・フローを「CF1、CF2、CF3…」とし、それを割引率「r」で現在価値「PV1、PV2、PV3…」へと割り引くという計算を表している。このとき、現在価値「PV1、PV2、PV3…」の合計と投資額とを比較して、合理的かつ適切な投資案件であるのかどうかを判断することになる。

投資をする側からみると、投資額は少ないほうがよいが、売主からすると売却価額である投資額をできるだけ大きくしたい。実務においては、この結果を踏まえながら将来キャッシュ・フローを見直したり、割引率を再設定しながら、合理的な割引現在価値を目指していくことになる。

割引現在価値のメリットは?

割引現在価値のメリットを整理すると、以下の2つのポイントがあげられる。

  1. 将来の収益獲得能力を簡便に計算へ反映させることができる
  2. 相対的な評価方法ではなく、個別案件に応じた調整により、属性を加味した評価ができる

投資判断のための指標は他にもあるが、収益金額を軸として計算する割引現在価値は、現在価値と投資額という金額での比較を通じて判断できるため、投資意思決定が容易になるというメリットがある。

また、固定化された評価基準ではないため、個別の投資案件を踏まえ、割引率を通じて属性に見合うリスク反映をさせることができることも、割引現在価値のメリットの一つである。

割引現在価値のデメリットは?

他方で、割引現在価値法には以下のようなデメリットもある。

  1. 利益計画などに大きく依存してキャッシュ・フローを見積もることになるため、計画の実現可能性に関する不確実性が含まれる
  2. 将来発生するリスクを割引率に反映することが難しいケースがある
  3. 主観に基づく評価になるため、恣意的な判断が介在することで客観性に乏しいケースが発生する

現在価値へ将来キャッシュ・フローを割引くにあたり、まず将来のキャッシュ・フローの見積もりが合理的なのか、適切なのかが問われることになる。

割引現在価値を算出する際には、将来計画などを過去の実績等を鑑みながら見積もっていくことになる。M&Aを例にとれば、売却側は割引現在価値を大きく見積もりたであろうし、投資をする側は保守的に判断したいため、利害が分かれる局面を迎える事もある。その場合は、どのような仮説に基づいて将来キャッシュ・フローを見積もったかが重要な確認ポイントとなる。

採用した割引率が小さいと現在価値は大きくなり、採用した割引率が大きいと現在価値が小さくなるため、どのような割引率計算が行われているかを、双方ともが確認することが重要になる。

いずれにせよ、割引現在価値が、M&Aにおいて重要な要素を前提に計算されているため、利害対立ポイントにおいて恣意性が介入しやすく、客観性に乏しいという指摘は重くのしかかってくるのである。

経営者は割引現在価値だけでなく、「目利き」も大切にせよ

M&Aなどでは割引計算価値法(DCF)などによって、外部専門家が作成した「株価算定」書類を参考にして買収判断をすることがある。また、不動産投資においては現状の賃料相場や稼働率を念頭においたキャッシュ・フローを前提にした投資利回り計算に基づいて投資判断を行う。

割引計算価値などの数値データを利用する際は、メリットだけでなくデメリットがあることを念頭に置いておくことが重要である。

もっとも、将来の価値を現時点においてどの程度見積もることができるかということは、単に「割引現在価値」計算だけの問題ではなく、事業を営む上での「目利き」が必要であり、そこにこそ経営者としての価値があるのだ。

文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

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