
目次
- 一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出すツールとして、デジタル技術を活用
- 新社名は、円筒状の小型容器を意味する英語「keg」から命名 取引先の反応、社員の意識改革、人材の採用で想定以上の効果が出ている
- 今後10年間のサステナビリティ経営方針と新しい社是「個性と工夫で人に愛される会社」を策定
- 自社で製造する金属加工液向けの濾過装置「リクレアン」を成長の推進力として位置付けている アジア企業からの引き合いも多数
- 快適なオフィスへ本社ビルをリノベーション。出社が楽しく、コミュニケーションが活性化し新アイデアが生まれやすくなった
- 2020年からテレワークを導入 広島県からフルリモートで勤務しているベテラン社員も
- 新しい顧客獲得にも大きな効果をもたらすECにも力を入れる
- YouTube用の動画を自社で作成 自社製品のリクレアンをPR
- 石油製品を扱う企業の社会的責任として地球環境保全を重視 2022年にSDGs宣言書を策定
- 翻訳アプリ、通訳アプリ、生成AIといった新しい技術を使って海外市場の壁を乗り越える
1965年創業の京都府京都市伏見区に本社を置く株式会社keg(ケッグ)は、自動車用潤滑油、工業用潤滑油、金属加工油をはじめとする小ロットの石油製品の販売や石油燃料の配達を手掛けている。卸売を主力事業とする一方、工作機械の長寿命化に貢献する金属加工液向けの濾過(ろか)装置を製造、販売するメーカーとしての顔も持っている。現在のビジネスモデルを大胆に変革していくことを念頭に置き、2025年1月に本社オフィスのリノベーションを完了し、4月には旧社名の京滋興産(けいじこうさん)株式会社から現在の社名への改称に踏み切った。今後の事業展開の鍵になるグローバルネットワークの構築や国内外の新たな商材発掘を推進するため、ICTや生成AIに着目している。(TOP写真:創業60周年を機にリノベーションを行ったkegのオフィス)
一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出すツールとして、デジタル技術を活用

「人口減少が加速して内需が縮小するこれからの時代に持続的な成長を続けていくには、海外に視野を向け、これまでのビジネスモデルを大胆に変えていくことが必要です。社内の意識改革だけでなく対外的にもはっきりとしたメッセージを打ち出すことを重視して、創業60周年を機に社名の変更に踏み切りました」。京都市伏見区内の株式会社kegの本社で取材に応じた垣谷恵司代表取締役は、社名変更の背景をこのように説明した。
垣谷社長は、京滋興産株式会社が2012年にグループ入りした京都市中京区の上原成商事株式会社の出身。2017年に就任し、着実に業績を拡大してきた。「社員一人ひとりが、それぞれの技能、知識、経験を生かしやすい環境をいかに整えるかを大事にしています。一人ひとりの潜在能力を最大限引き出していくためのツールとしてデジタル技術を効果的に活用していきたいと考えています」と垣谷社長は話した。
新社名は、円筒状の小型容器を意味する英語「keg」から命名 取引先の反応、社員の意識改革、人材の採用で想定以上の効果が出ている

新しい社名、kegは、金属や木で作られた円筒状の小型容器を意味する英語に由来している。金属製の小型容器は石油製品で使用されることが多く、事業との整合性や国際市場へのアピールのしやすさを考えて社名として採用した。表記はあえて小文字にしている。その背景には「ビジネスモデルは変わっても、小回りを利かせて、小ロットの石油製品を扱ってきた創業以来の姿勢を次の世代に伝えていきたい」との思いがあるという。「社名の変更には、取引先や地域の人たちに周知するための広告費や印刷費などのコストと手間がかかりました。私の名前の読みが『けいじ』ということもあって京滋興産の社名には思い入れもあったのですが、取引先の反応や社員の意識改革、人材採用面で想定以上の効果が出ており、社名をkegに変えて本当に良かったと思っています」と垣谷社長は明るい表情で話した。
今後10年間のサステナビリティ経営方針と新しい社是「個性と工夫で人に愛される会社」を策定

社名変更と共にkegは、創業70周年に向けた今後10年間のサステナビリティ経営方針と新社是『個性と工夫で人に愛される会社』を策定した。kegは経営方針と社是の策定にあたり、総務、営業、配送などの各部署の中堅社員で組織する社内委員会を組織し、ボトムアップで現場の意見を反映させることを最大限重視した。
kegは今後10年間の具体的な取り組みとして、グローバルネットワークの構築による海外展開、国内外の新商品の探索、海外人材や専門家の採用、個性と工夫の発揮による顧客価値の創造と信頼の構築、イノベーションの推進、ブランド力の強化、高収益・高賃金の会社づくり、会社への愛着を深める施策の実行、人間力の育成とワークライフバランスを実現する職場環境づくりを打ち出している。
自社で製造する金属加工液向けの濾過装置「リクレアン」を成長の推進力として位置付けている アジア企業からの引き合いも多数

kegは、今後、海外事業の拡大を視野に入れる中で、機械加工に使われる金属加工液向けの濾過装置「リクレアン」を成長の推進力として位置付けている。リクレアンは、石油製品の販売先のものづくり企業の要望を受けてkegが20年以上前に独自開発したロングセラー製品。カートリッジ式で液体中の異物を捕集する機能を備えたフィルター本体と通水性に優れた濾布を脱着可能な構造にすることで、濾布のみを交換する構造にして、繰り返し使用できるようにしている。工作機械、工具、加工液の寿命の延長や清掃作業の縮減といった様々な効果を発揮する装置として業界内での評価は高い。
kegは、リクレアンを本社近くの工場で製造し、これまでに累計1500台以上を販売。取引先の要望に応じてラインナップを拡大し、2021年にはメンテナンスを容易にするなど新しい機能を加えた「Nシリーズ」を投入した。近年は、国内の大規模な工作機械の展示会への出展に力を入れており、展示会に参加したアジア企業からの問い合わせも増えているという。
快適なオフィスへ本社ビルをリノベーション。出社が楽しく、コミュニケーションが活性化し新アイデアが生まれやすくなった

kegは着実に目標を達成していくためにハードとソフトの両面で、社員が働きやすい環境の整備に力を入れている。ハード面で最近取り組んだのが、1995年に現在の本社ビルが完成して以来初めてとなるオフィスのリノベーションだ。2024年12月末から2025年の年初にかけて2階と3階の執務スペースを大規模に改装した。改装にあたり、各部署の30代から40代の社員からメンバーを募って社内委員会を設立。デジタル時代に対応したワークプレイスデザインに強みを持つ企業に改装を委託し、約半年にわたる綿密な打ち合わせを通じて社員の意見を反映した。

リノベーションによってオフィス環境が大きく変わった。機動的にミーティングを行えるスペースを設ける一方で、集中して仕事に取り組みやすいスペースも設けるなど社員の多彩な要望に応えてオフィスレイアウトに工夫を凝らした。デスクや椅子などの備品もデザイン性と機能性を重視したものに一新した。
執務スペースでの社員の座席は、以前の固定式から日によって自由に選択できるフリーアドレス式に変更。教室のように同じ方向に向けていた座席の配置もコミュニケーションを取りやすいように向かい合わせにした。以前は各階ともワンフロアで運用していたが、パーテーションを取り付けて会議などに使えるように複数の個別の空間を作った。壁際にはスライド式の棚を設置して収納スペースを拡大した。
「スマートさを重視すると共に、社員が出社するのが楽しみになるような居心地の良い空間づくりを目指しました。意見交換がしやすくなったことで、以前より打ち合わせが活発になり、新しいアイデアが生まれやすくなったように思います」と河原林卓也営業統括部長は満足そうに話した。リノベーションに合わせて書類の整理も行い、今後ペーパーレス化を推進していく上でのきっかけにすることができたという。
2020年からテレワークを導入 広島県からフルリモートで勤務しているベテラン社員も
ソフト面の環境整備ではデジタル技術を活用した働き方改革に取り組んでいる。そのひとつが2020年から導入しているテレワークだ。時間と場所にとらわれることなく臨機応変に働くことができるので、社員が仕事と家庭を両立する上での効果は大きい。
現在、kegでは、営業部で海外業務を担当しているベテラン社員が広島県からフルリモートで勤務している。以前は京都市内の本社に勤務していたが、親の介護のために広島県内の実家に戻らなければならなくなったためテレワークで勤務してもらうことにしたという。ベテラン社員は、Web会議システムを使って本社と打ち合わせをしたり、デジタル化した文書をメールでやりとりしながら、月に1回程度、京都市内の本社に出向く時を除いて同県を拠点に業務をこなしている。
「Web会議システムは、電話と違って表情を見ながら対話ができるので、しっかりとしたコミュニケーションを取る上で本当に役立っています。デジタル技術が進化したおかげで、テレワークを導入できるようになり、語学堪能で海外出張の経験も豊富な社員を失わずに済みました。会社で蓄積しているテレワークのノウハウを活用してこれから先、より一層幅広いエリアから社員を募集することも考えていきたい」と垣谷社長は語った。
新しい顧客獲得にも大きな効果をもたらすECにも力を入れる
2022年からは社員の発案で、新たな顧客層を開拓するために大手のインターネットショッピングモールへの出店を開始した。現在、二つのインターネットショッピングモールでエンジンオイル、工業用潤滑油、工業用切削油、クリーニング溶剤などの石油製品を販売している。主に法人を対象にした自社のECサイトも運営している。これまで営業エリア外だった地域の企業や個人からの注文が多く、売上高は着実に拡大しているという。「インターネット取引は新しい顧客を獲得する上で大きな効果を発揮しています。デジタル技術を活用して販売チャネルを拡大することで経営の足腰を強くしていきたい」と垣谷社長。
YouTube用の動画を自社で作成 自社製品のリクレアンをPR

また、同年には別の社員の提案で、リクレアンをPRするためのYouTube用動画を自社で作成した。動画はそれぞれ約10分。リクレアンの濾布交換の方法や冷却用のクーラント液の効果的な濾過の方法をわかりやすく説明している。動画は、ホームページのリクレアンの情報を掲載したページにアクセスした際に視聴できるようにしている。
石油製品を扱う企業の社会的責任として地球環境保全を重視 2022年にSDGs宣言書を策定

kegは、二酸化炭素を排出する石油製品を扱う企業の社会的責任として地球環境保全への強い意識を持っている。2022年には、持続可能性の高い社会をつくるために国連が提唱しているSDGsの行動目標を実践していくためにSDGs宣言書を策定した。「環境との共生」「成長とやりがいのある社会」「地域社会と共に」の三つのテーマで、会社内の取り組みをまとめて社員への浸透を図るとともに対外的に発信している。工場、プラントなどへの石油燃料の配達で、従来の軽油よりも二酸化炭素排出量の削減につながるバイオ燃料の取り扱いも始めている。
翻訳アプリ、通訳アプリ、生成AIといった新しい技術を使って海外市場の壁を乗り越える

kegは、今後、海外事業を強化する上で、海外の展示会への出展をはじめ、生成AIの導入を検討している。「デジタル技術を活用すれば、これまで乗り越えることが難しかった海外市場の壁もクリアしていけるという強い手応えを感じています。新しい市場を開拓するための情報の収集や分析をしっかりと行った上で、一歩一歩着実にグローバルネットワークを構築していきたい」と垣谷社長は力強く語った。オフィスのリノベーションや新しい技術の導入で大胆な社内改革に取り組んでいるkeg。今の勢いを保つことで新しい社名は着実に世界に広がっていくはずだ。
企業概要
会社名 | 株式会社keg |
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本社 | 京都府京都市伏見区深草西浦町7-7 |
HP | https://www.keg-kyoto.co.jp |
電話 | 075-643-3201 |
設立 | 1973年1月(創業1965年) |
従業員数 | 41人 |
事業内容 | 石油製品全般(石油系燃料油、自動車用潤滑油、工業用潤滑油、金属加工油)、各種石油化学製品全般の販売、濾過装置とシステムの製造、販売 |