売却
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

「会社を10億で売却する」には、どういった手立てがあるだろうか?今回は、会社の売却価格を決める仕組みや、会社にプレミアムを乗せて売却するための方法を紹介する。M&Aによって、できるだけ企業価値を高めて自社を売却したい経営者は、ぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 会社売却とは?どんな種類がある?
  2. 10億円で会社は売れる?売却価格が決まる仕組み
    1. コストアプローチ
    2. インカムアプローチ
    3. マーケットアプローチ
  3. 会社の売却価格にプレミアムをのせる4つのポイント
    1. 事業のシナジー効果を伝える
    2. 従業員の経験値や技術力を伝える
    3. 企業理念に共感してもらう
    4. 経験豊富なM&A仲介会社に依頼する
  4. 10億円で会社売却したい人がすべきこと
  5. 会社売却の流れは?デューデリジェンスが売却価格に与える影響
  6. 監修者紹介

会社売却とは?どんな種類がある?

会社売却には、「合併」や「資本提携」などのさまざまな方法があるが、ここでは代表的なM&Aの手法である「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つについて、それぞれの意味を簡単に解説する。

「株式譲渡」とは、M&Aにおいて一般的に行われる手法だ。株式を売却するということは、会社の所有権を丸ごと他者に譲ることを意味する。株式を買収する側は、買収した会社のすべての事業を引き継ぐ。

買収側が対価である金銭を支払う相手は、会社を売却する立場にある経営者個人だ。売却側の経営者は、対価となる金銭を受け取って株式を手放すことで、オーナーの地位を買収側に譲ることになる。

事業譲渡」とは、会社が持つ複数の事業のうち、特定の事業だけを売却する方法だ。具体的には、譲渡する事業に関わる資産・負債のみを評価し、売却価格を決める。買収側は、売却側の会社に金銭を支払い、買収する事業にかかわる資産・負債のみを引き継ぐ。

事業譲渡の手続きが終わったあとも、売却側の会社は引き続き存続することになる。

会社全体を引き継ぎたいなら「株式譲渡」、特定の事業のみを売却してその後も会社経営を続けたいならば「事業譲渡」と覚えておくとわかりやすい。

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10億円で会社は売れる?売却価格が決まる仕組み

10億円で会社を売りたいと思うなら、まずは売却価格が決まる仕組みについて把握しなければならない。

会社の売却価格は、会社の評価額とプレミアムによって決まる。ここでは、会社の評価額を計算する3つの方法を詳しく解説していく。

コストアプローチ

コストアプローチとは、会社の貸借対照表をもとに、資産から負債を差し引いて評価額を計算する方法であり、「純資産方式」とも呼ぼれる。決算書上で、一般的に純資産といわれる部分が、会社の評価額となる。

コストアプローチには、「簿価純資産法」と「時価純資産法」がある。

簿価とは、会計原則に則って決算書に記載された資産・負債の評価額のことだ。しかし、あくまで理論上の値であり、実際の時価とはかけ離れていることが多い。そのため、簿価純資産法が実際のM&Aで用いられる事例はほとんどない。

時価純資産法では、帳簿上の資産・負債をそれぞれ時価に置き換えた上で評価額を計算する。時価純資産法は、株式等などで含み益がある資産を所持する中小企業のM&Aにおいて多く使われている手法だ。

コストアプローチは、簡便に計算できることがメリットではあるが、適正な企業評価額を出すためには専門家の力を借りる必要がある。時価の解釈について、売却側と買収側で食い違いが生まれないようにするためにも、専門家に買収価額の評価を頼むことが望ましい。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来の利益に注目して会社を評価する方法だ。「DCF法(割引キャッシュフロー法)」「収益還元法」「配当還元法」などがある。ここでは、DCF法について解説する。

DCF法では、将来会社が生むであろうキャッシュフローを予測し、一定の割引率を掛けて現在価値に置き換えることで会社を評価する。キャッシュフローを予測する段階で事業計画を立てることになり、買収側は買収後のメリットを体感しやすい。

一方で、あくまで予測であることから、割引率に関してどのような予測を作成するかによって、評価額が大きく変動してしまう。DCF法で評価する場合は、売却側と買収側で十分意見をすり合わせ、お互いの共通認識のもと、キャッシュフローの予測を作成することが大切だ。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチには、「類似会社批准法」「類似業種批准法」などがある。

マーケットアプローチでは、自社と似た業種の上場企業の財務指標を用いて、自社の評価額を決める。ここでは、事務指標「EBITDA(イービットディーエー/減価償却前利益)」をもとに評価額を計算する方法を解説する。

まずは自社のEBITDA(=営業利益+減価償却費)を算出する。続いて、自社に類似した業種の上場企業をピックアップし、決算書情報からEBITDAを算出する。例えば、自社のEBITDAが上場企業の5分の1なら、上場企業の株式の時価総額の5分の1を計算すれば、自社の評価額になるという考え方だ。

客観的なデータをもとにした評価なので、売却側と買収側で争いになりにくいというメリットがある。一方で、事業内容が似た上場企業を見つけることが、現実的に困難なケースも多い。

会社の売却価格にプレミアムをのせる4つのポイント

会社の売却価格の評価方法を3つ紹介した。M&Aを行う場合には、コストアプローチなどの評価方法を用いて計算された会社の売却評価額に、「プレミアム」を上乗せして実際の売却価格が決まる。

プレミアムとは、決算書などの数字には表れていない会社の価値のことだ。赤字の会社や、黒字でも減収傾向の会社だと、プレミアムはゼロというケースもある。一方で、M&Aによって相乗効果が期待できる場合、減収傾向の会社であってもプレミアムがつくケースがある。

売却価格は、最終的には買収側と売却側、双方の納得感によって決まる。だからこそ、自社の価値を正しく相手に伝え、プレミアムを上乗せすることが自社を高く売却するコツだ。プレミアムの見せ方によっては、10億円で売却することも夢ではないかもしれない。

事業のシナジー効果を伝える

プレミアムをつけて売却するには、買収側にそれ相応のメリットがあることを納得させなければならない。まず考えられるメリットが、M&Aによるシナジー効果だ。「シナジー」とは、既存のものと新しいものの相互作用によって効果が高まることを表す。M&Aにおいては、買収側の既存事業に売却側の事業のノウハウや経験が加わることで、収益を拡大させるという意味となる。

M&Aによるシナジー効果を考える時は、水平型M&Aと垂直型M&Aを分けて考える必要がある。

水平型M&Aとは、似たような業種・業態の会社に自社を売却するパターンだ。規模拡大によって、仕入れコストが下がったり、新しい地域に進出できるなど販路拡大のメリットもある。大きなシェアを獲得することで知名度が上がり、売上が飛躍的に伸びることも想定される。

垂直型M&Aとは、マーケットにおける「川上から川下まで」を押さえるM&Aのことである。例えば、製品販売を行う会社が、製品開発を行う会社や流通を担う会社を買収するといったM&Aだ。開発・流通・販売をすべて自社で担うことで、業務効率化を図れるのはもちろん、顧客からのフィードバックを素早く開発に活かせるといったメリットがある。

水平型M&A・垂直型M&Aのどちらがシナジー効果を生むことができるのかを徹底的に考え抜くことが大切だ。

そのためには、買収側の事業への深い理解も不可欠になる。SWOT分析などのフレームワークを活用し、自社の強み・弱みをとらえ直すのはもちろん、市場調査などを通して時代の流れを把握するなど、さまざまな視点でシナジー効果を考える必要がある。

従業員の経験値や技術力を伝える

M&Aによって会社を売却しても、基本的に従業員はこれまでと同様に働き続けるであろう。雇用契約は、経営者個人と従業員の間で結ぶのではなく、会社と従業員の間で結ぶからだ。M&Aにおいては、従業員が長年培ってきた経験値や技術力も、買収側にとっては大きな価値となる。

買収側が新規参入や起業を目的としている場合は、まだノウハウが蓄積されておらず、経験豊富な従業員がそのまま働き続けることは大きな安心材料になるだろう。

従業員の経験値や技術力を自社の強みとして打ち出すなら、M&A後も従業員が気持ちよく働き続けられるような配慮をしなければならない。キーマンには事前に話をしておくなど、従業員の性格や考え方などを勘案して個別の判断が必要となるケースもある。

ただし、一般的にM&Aが成立するまで、従業員や取引には内密にしておく必要があるため、キーマンに話をする際には秘匿情報であることに配慮して十分注意したい。

企業理念に共感してもらう

意外と売却側の経営者は見落としがちなのだが、企業理念を打ち出すこともプレミアムを示す上で重要な視点だ。

企業理念や会社の風土というのは、目に見えないものだが大きな価値を持つ。社員が働きやすいと感じる会社は業績も高い傾向があることが、厚生労働省の『働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査』でも示されており、最新の研究でも、「職場の空気」が会社の業績に大きく影響を与えることもわかってきている。

このような視点から、自社の理念や風土はしっかり買収側にアピールするようにしたい。大切なのは、自分たちが大切にしているものを押し付けるのではなく、相手の共感を得る姿勢だ。また、「お互いに率直に意見を言い合い、いい意味で競争し合う社風」など、買収側のメリットが示唆されるものが望ましい。

経験豊富なM&A仲介会社に依頼する

会社にプレミアムを乗せて、できるだけ高く売りたいと思うなら、経験豊富なM&A仲介会社を選ぶことも大切だ。豊富なM&A支援実績を持っている仲介会社は、シナジー効果が生まれるような企業を買収候補先として提案してくれることもある。

また、会社のプレミアムを買収候補先にアピールする具体的なノウハウを熟知している。実績豊富なM&A仲介会社を通すことで、自社を10億円で売却できる可能性はぐっと高まるかもしれない。

M&A仲介会社を通すと、それ相応の手数料が発生する。M&A仲介手数料は、会社の売却価格に一定の割合をかけて計算されることが多く、最低手数料が設定されているような仲介業者もある。

売却額が高ければM&A仲介会社も受け取る手数料が上がるため、プレミアムの付与に協力してくれるのだが、手数料には十分注意しておきたい。

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10億円で会社売却したい人がすべきこと

10億円で会社を売却したい人は、何をすべきだろうか。

まず大切なのは、タイミングを見計らうことだ。事業が成長している時は継続したいと思い、売上が下がり始めたら売却を考え出すかもしれない。しかし、買収する側としては、売上が伸びている会社を買いたいと考えるだろう。

事業が成長している最中やピークに達するかという頃での売却であれば、高額なプレミアムがつく可能性がある。そういった成長途上のタイミングでM&Aを検討するのも一つの戦略だ。

また、M&Aにおける売却額は、会社の評価額算出も重要な要素だ。例えば、コストアプローチの時価純資産法を用いて評価額を算出する場合には、会社の財務状態を健全な状態にしておくほど、会社の評価額は高くなる。

事業が成長途上なのに、財務状態に難があって買収候補先が見つからないなどとならないよう、財務状態にも十分気を配っておきたい。

会社売却の流れは?デューデリジェンスが売却価格に与える影響

会社売却では、まずは売却側と買収側のトップ面談を実施し、問題がなければ基本合意契約を結ぶ。その後、条件をすり合わせた上で、最終譲渡契約を結ぶ前に「デューデリジェンス(買収監査)」が実施される。

デューデリジェンスとは、買収側が弁護士や税理士などの専門家に依頼して、売却側の会社の法務リスク・税務リスクがないかチェックすることだ。デューデリジェンスでは、必要に応じて決算書や税務申告書、契約書、議事録等を開示しなければならない。

デューデリジェンスで法務リスクや税務リスクが見つかると、M&Aそのものが不成立になったり、買収側に売却価格の引き下げを求められることもあり得る。売却側も、M&Aを検討する前に財務と法務の専門家に相談して、事業リスクについてクリアにしておくことが大切だ。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。