企業間競争のグローバル化や消費者のニーズの多様化、技術革新の加速によって、企業・事業の生き残り競争は熾烈を極めている。同じ市場で、同じ技術で同じ仕事をしていては、競争に取り残されてしまう。そこで、複数の企業や事業が連携・統合したり、新規事業を始めたりして、「シナジー効果」を狙うことが盛んに行われるようになった。
「シナジー効果」は一般的に使われるようになった言葉だが、その意味は多岐にわたる。今回は、シナジー効果の意味や、それが何に役立つかについて解説していく。
目次
シナジー効果とは?
シナジー効果とは、2つの要素を組み合わせることによる相乗効果のことだ。複数の企業が協力することや、企業内の部署間の協力によって「1+1」が2ではなく、3にも4にもなる。「シナジー」には相乗作用や共同作用という意味があり、2つ以上のものが作用し合って効果や機能が高まることを指す。
例えば、銀行がコンビニエンスストアやスーパーマーケットの一角に支店を出す場合、銀行は支店の経費を安く抑えられるうえに、顧客サービスの向上や新規顧客の獲得が期待できる。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットとしても、賃料収入だけでなく、銀行目当ての来客数が増加し、それに伴う売上向上が見込めるなどのメリットがある。近年増えているコンビニエンスストアとDVDレンタルショップの共同出店や、ガソリンスタンドとコンビニやパン屋、カフェなどの共同出店がその例だ。
また、企業が経営多角化戦略にて、新しい製品をリリースした場合に、遊休設備を利用した生産体制、既存技術や販路の転用、ブランド価値の上昇や、抱き合わせ販売、合同での広報戦略によって、それぞれを別々に販売した以上の効果が生じる場合がある。
シナジー効果の使い方
シナジー効果をビジネスシーンで使った例文をいくつか紹介する。
- 技術力のあるA社と販売力に強みのあるB社が協業することで大きなシナジー効果が生まれることが見込まれる
- M&Aによるシナジー効果を期待したが、企業文化の違いなどが壁となり、思うようにいかなかった
- A部門とB部門の共同開発により「売上高が3倍になる」という大きなシナジー効果が生まれた
シナジー効果の言い換え・類義語
シナジー効果の言い換えや類義語としては、相乗効果・相乗作用など挙げられる。また化学反応という言い回しを使用するケースもある。シナジー効果は、ビジネスシーンで用いられることが多い傾向だ。相乗効果や化学反応は、分野に関係なく利用される。
シナジー効果は大きく分けて3種類
シナジー効果の種類はさまざまだ。売上拡大効果が注目されやすいが、その効果は多岐にわたる。シナジー効果は、大別すると「事業シナジー」「財務シナジー」「組織シナジー」の3つだ。ここでは、3つのシナジー効果の内容を順番に見ていこう。
事業シナジーはさらに5つに分けられる
事業シナジーには、「売上の増加」「ノウハウの統合」「コスト削減効果」「スケールメリット」「人材の活用」がある。
・1.売上の増加
最もイメージしやすいシナジー効果が、売り上げの増加であろう。両事業の売上が単純に合計されるだけでなく、販売チャンネルや顧客、流通網などが共有でき、ブランドイメージや知名度が向上することで、さらなる売上の増加につながることがある。
・2.「ノウハウの統合」
知的財産やノウハウ、経験値が組み合わさることで、付加価値が高まる効果だ。
・3.「コスト削減効果」
重複している部門や仕事を見直しや削減し、支店や営業拠点の統廃合、物流経費、システム費用などの共通の間接費の削減することによってコストを削減する効果である。
・4.「スケールメリット」
生産ロットが増えることで生産が効率化され、単位当たりのコストが削減されることにより、利益を押し上げる効果が期待できる。
・5.「人材の活用」
2つの事業の人材が共通の経営資源として活用されることで、適材適所が促進され、人事面が活性化する効果である。
2つの財務シナジー
「財務シナジー」もまた、「余剰資金の活用」と「節税効果」の2つに大きく分かれる。
・1.「余剰資金の活用」
資金力がないが伸びしろのある事業と資金力があるが新規投資先がない事業が統合することで、余剰資金を有効に活用し、投資の最適化を図ることができる効果である。
・2.「節税効果」
繰越欠損金の控除や債務の引継ぎ、グループ法人税制により、それぞれが独立して事業をする場合よりも、節税効果が期待できるという意味だ。
3つの組織シナジー
組織シナジーとは、別々の組織を統合することで生まれるシナジー効果のこと。組織シナジーは、さらに「生産性の向上」「業務効率化」「従業員のモチベーション向上」に分類できる。
・1.「生産性の向上」
組織の強みを組み合わせることで新しいビジネスモデルやアイデアを生み出し、効率のよい役割分担を行うことが可能だ。これに伴い組織単独で動くよりも、高パフォーマンスとなり、生産性の向上につながることが期待できる。
・2.「業務効率化」
双方の組織で別々に行っていた業務を統合したり、お互いに切磋琢磨する環境になったりすれば従来の業務をより効果的に進められるだろう。別の組織が効率的な方法で業務を進めているのを知り、別の組織も同じ方法を取り入れることで業務の効率化が進むことも期待できる。また部門を集約することで、人件費などの経費を節約できる側面もある点はメリットだ。
・3.「従業員のモチベーション向上」
組織の強みを発揮しやすい職場環境になれば、お互いに得意分野の業務を進めることができるため、スムーズに仕事が進められる。従業員にとっても働きやすい環境となり、モチベーション向上につながるだろう。従業員のモチベーションが向上すれば、より一層の生産性の向上が期待できる。
シナジー効果のメリット4つ
シナジーは、企業にさまざまなメリットを生み出すことから、会社の飛躍的かつ持続的な成長に不可欠である。ここでは、シナジーによってどのような効果が表れるのかを見ていこう。
1.組織マネジメントの強化ができる
まず、組織マネジメントの強化が挙げられる。前述のとおり、事業の統合によって重複する業務を統一することができ、それがコスト削減につながる。また、事業同士のノウハウを共有することで組織が最適化され、組織力を飛躍的に向上させることができる。
しかし、適切に統合できなければ意思決定に時間がかかり、社内政治が横行するなどのマイナス効果が表れることがある。組織の運営を円滑にするためにも、統合の前に戦略や組織体系、システムのあり方などをしっかり定めておく必要がある。
2.新規の商品・サービスの開発ができる
統合による売上の増加に伴い、共通の市場、消費者に対する新規の商品・サービスの開発もできるようになる。営業や接客の強化、サービス開発力の向上、シェア拡大による価格支配力の向上、ブランド価値や知名度の向上なども統合後の戦略に組み込めば、安定的な利益に貢献するはずだ。
3.融資が受けやすくなる
事業統合によって事業の財務基盤や信用力が強化され、金融機関などからの信頼が高まった結果、融資を受けやすくなる。財務基盤が強くなれば、事業リスクに対する耐性も向上する。
4.競争力の強化
上記のさまざまなシナジー効果により、競合他社との競争を優位に進められることもメリットである。
シナジー効果のデメリット3つ
シナジー効果は、実に多種多様だ。そのため、どのシナジー効果を狙うかをあらかじめ決めておく必要がある。狙うシナジー効果に優先順位がついていれば、組織再編の手法や取り決めの内容に迷った際にもスムーズに意思決定がなされ、シナジー効果の発揮に貢献することになる。
ただし、シナジー効果を発揮させることは容易ではない。組織再編などが失敗に終わることがあるだけでなく、成功したとしてもシナジー効果が十分に発揮されるとは限らない。
ここでは、シナジー効果における3つのデメリットを紹介する。
1.組織再編による疲弊
シナジー効果が発揮されない理由としては、まず組織再編によって組織が疲弊してしまうことが挙げられる。組織再編を成功させるには、意思決定や条件の折衝、実務上のすり合わせなどの局面において、多くの人材が多くの時間を費やすため、組織全体として息切れしてしまうことがある。
組織再編で組織が疲弊してしまうと、再編後に業務の統合やノウハウの交換を戦略的に行えなくなり、狙っていたシナジー効果を得ることはできなくなる。
2.組織再編後の人材流出
組織再編などを行った後、有能な人材が流出してしまうことがある。それぞれの文化や価値観、風土、理念などは、往々にして異なるからだ。そのためメンバーの考えが合わず、大量退職が発生する可能性もある。
また、通常は両者がまったく対等で組織再編が行われるほうが珍しく、多くの場合は主と従がある。下につくことになった事業の有能なメンバーに適切な立場が与えらず、それを不満に退職してしまうこともあるだろう。
さらに、組織再編などを公表した段階で、「経営危機なのではないか」「リストラされるのではない」「給料が下がるのではないか」などの憶測が飛び交い、それが離職につながることもある。今後、中核を担うことが期待されていた職員が離職してしまうことは、企業にとって大きな損失だ。組織再編は公表時期などを含めて、慎重に進める必要があるだろう。
3.逆効果になるケースも(アナジー効果)
シナジー効果を狙って事業再編やM&Aを行ったにもかかわらず、組織再編による疲弊や人材流出などが起こり、相乗効果どころか逆効果になるケースもある。このようなケースはアナジー効果と呼ばれる。以降では、アナジー効果の意味とその要因について掘り下げていく。
アナジー効果とその6つの要因
シナジー効果の対義語に、「アナジー効果」という言葉がある。アナジー効果とは、相互のマイナス効果のことだ。1+1が2よりも大きくなる相乗効果がシナジー効果なら、アナジー効果は1+1が2よりも小さくなるとイメージすれば分かりやすいかもしれない。
M&Aは、シナジー効果を狙って行うものだが、アナジー効果が強く出てしまい、失敗に終わることも多い。どのような場合にアナジー効果が出てしまうのか、その要因について考えてみよう。
1.既存事業との方向性が違う場合
まず、既存事業との方向性があまりに違う場合、アナジー効果が出る可能性が高い。顧客にもサプライチェーンにも、ビジネスモデルにも重複するところがなく、それぞれの利益を合計した以上の付加価値が生み出せないパターンだ。資金に余裕のある企業が副業として介護事業などを買収し、シナジー効果を出せないまま失敗することがある。
2.経営者同士の意見の違い
経営者同士の意見の違いがアナジー効果を生むこともある。M&A の場合、買収された企業の経営者は最終的には追い出されてしまう、または自ら現場を去ることが多いが、数年は経営にコミットするのが一般的だ。
その場合は、経営スタイルや投資・雇用に対する考え方、顧客管理に関する考え方などを十分すり合わせておかなければならない。意見が対立してしまえば、それぞれの企業が派閥化してしまい、シナジー効果が十分に発揮されないからだ。
3.想定外のコスト
想定外のコストもアナジー効果の要因である。業務統合においては、システム投資やM&A のアドバイザー費用などがかさむことが多い。ある程度のシナジー効果を得られたとしても、それらの投資の回収に長い時間がかかることがある。
4.キーパーソンや重要顧客がいなくなること
中小企業の場合、会社の価値が社内のキーパーソンや重要顧客に支えられていることが多い。M&A を機に、そのようなキーパーソンや重要顧客がいなくなると、シナジー効果を得られなくなってしまう。
M&A をきっかけに給与体系を見直したり、既存の経営者が現場を去って重要な人脈が失われたりすると、組織や人に関するアナジー効果は会社に多大な影響を及ぼす。
5.報酬によるモチベーションの低下
M&Aでは、現在の株主(経営者であることが多い)に多額の譲渡対価が支払われることになり、その経営者は一時的に多額の現金を手にすることになる。M&A 後も買収された会社の経営に従事することも多いが、M&A 後の報酬が手にした現金に比べて著しく低い場合、M&A 前と同じモチベーションを維持することは難しいかもしれない。
6.物理的な距離が遠い場合
業種が同じでシナジー効果を期待できても、物理的に距離が離れていると(例えば近畿地方と東北地方など)十分にコミュニケーションを取ることが難しく、また統制も取りにくいためアナジー効果が出てしまうことがある。
シナジー効果を発揮する4つの方法
シナジー効果を得る方法はいくつかあるが、ここでは代表的なものを4つ紹介しよう。
1. M&A
M&A は、買収や合併などの企業再編の総称である。主なメリットは、市場における支配力の向上や効率性の向上、節税効果が高まることだ。
市場における支配力の向上については、シェア拡大による価格決定力の向上、仕入れ時のコスト削減などが期待できる。生産性向上によるコスト削減や余剰生産力による新商品の開発余地の発生といった効率性の向上や、繰越欠損金の控除の特例などの活用による節税効果が見込まれる。
M&A は、シナジー効果が出やすい手法だ。商流の上流から下流までワンストップで価値提供を目指す垂直型M&Aや、既存事業を広げるために関連性の低い業種同士で行うコングロマリット型M&Aなどの手法がある。
2. グループ一体経営
巨大グループ内では、事業が縦割りに分割され、非効率な事業活動が行われていることが多い。そこで、顧客を共有する複数のグループ企業で事業を統合することによって、シナジー効果を得ることができる。特に金融業界で行われることが多い方法だ。
共通するニーズを持つ顧客へのアプローチの強化や、共通する業務の統一によるコスト削減が期待できる。共通する業務やノウハウも多いため、事業を統合することでスケールメリットが生まれることもある。
3. 多角化戦略
こちらは既存事業を統合した場合ではなく、新規事業を組成した場合に生まれるシナジー効果である。多角化戦略とは、企業の総合的な売上・収益の向上のために、主力事業とは別の分野に進出して、シェアの獲得や事業拡大を目指す経営戦略だ。
まったく別の業種に進出する場合もあるが、店舗を共有したり、業務の共通部分が多いところに進出したりすることで、シナジー効果を得られることがある。また、自社が持つ技術を転用できる市場に進出することで経営資源を有効活用し、収益性を高めていくパターンもある。
多角化戦略とM&A を組み合わせて、参入しようとする分野の企業を買収することで、シナジー効果が得られることもある。新事業や新市場への進出をゼロベースで行うよりもコストを削減でき、スピーディーに事業を軌道に乗せることができる。
すでに稼働している事業を活用するため、新規事業にはつきものの、多額の経営資源を投下した挙句に、ほとんど回収できずに撤退するようなリスクを低く抑えることができる。
・多角化戦略の4つの分類
多角化戦略には大きく分けて、4つの種類があるといわれる。その4つの分類を、アンゾフのマトリクスという。アンゾフは、成長戦略を「製品」と「市場」の2軸におき、それをさらに「既存」と「新規」に分けた。
1)の市場浸透戦略とは、今までの市場に、既存の製品やサービスを投入して、売上高や市場シェアの拡大を目指す戦略である。今までの技術やノウハウを活かしながら、今までの市場と「類似した市場」に新製品・新サービスを投入するタイプの多角化で、シナジー効果も期待できる。例えば、「服飾メーカーがマスクを生産する」というケースが考えられる。
2)の新製品開発戦略とは、今までの市場に新しい製品やサービスを投入して、売上拡大を目指す戦略だ。今までの技術やノウハウとの関連性は低いものの、今までと「似た市場(バリューチェーンの川上や川下等)」に新製品・新サービスを投入する多角化となる。例えば「マスクの卸売業が、マスクの製造も行う」というケースである。技術・ノウハウの獲得や新設備の導入といった多角化の負担は大きく、リスクは高い。
3)の新市場開発戦略とは、既存の製品やサービスを新しい市場に投入する戦略である。その市場に競合がいる場合は、商品力以外に営業力・販売ネットワーク等の販売力も重要だ。一例として、既存製品の海外進出・海外展開が挙げられる。今までの技術・ノウハウとの関連性が高い新製品・新サービスを、異なった市場に投入する多角化である。
4)の多角化戦略とは、新しい市場に新しい製品やサービスを投入する戦略だ。多角化戦略は、ほとんど経験のない市場で新製品を投入するため、マーケティングのコスト、製品・サービスの開発コストがかかるなどのリスクが大きい。今までの技術・ノウハウ・市場とも全く関係ない事業に進出するため、相乗効果・シナジー効果が低く、またリスクも高くなる。
4. 事業提携
M&A のような強力な結びつきがなくても、シナジー効果を得ることは十分できる。異なる商品・サービス、技術を持つ企業同士が事業提携をすると互いの企業価値が高まり、ノウハウの共有によって高いシナジー効果を得られることがある。
お互いの強みを高め合ったり、弱みを補い合ったりすることが、各経営課題の解決の糸口となり、海外市場への足掛かりや生産性の飛躍的な向上につながることがある。
シナジー効果を高めるための3つの成功ポイント
シナジー効果を十分に発揮させるためには、いくつかのポイントがある。その中でも、特に重要な3つの成功ポイントを解説していく。
1.PMIの徹底
PMIはポスト・マージャー・インテグレーションの略で、M&A 成立後の経営統合プロセスのことだ。M&Aにおいて、最も重要なプロセスの1つである。
シナジー効果を最大化するため、新しい組織体制の下で長期的成長を支えるマネジメントの仕組み作りと、企業価値の向上を推進する。PMIが不十分だと、狙ったシナジー効果を十分に得ることができず、M&A が失敗に終わることがある。
M&A では文化も風土も違う会社が統合されるため、PMIの整備が十分でなければ、従業員の間に軋轢が生じやすくなる。それに対して適切に対処しなければ、業務が停滞して業績が低下するだけでなく、従業員が離職したり、内部対立が起こったりする。
PMIの実践では明確なビジョンを持ち、全体的なスキームをしっかり設計する必要がある。PMIの設計に関しては、経営やM&A の専門家の助言を受けながら、時間をかけて作っていくのが一般的だ。
2.事業計画の早期立案
M&A の計画を早期に立案することも、シナジー効果を生み出すための大事なポイントである。企業の将来を考え、どのような事業計画にするか、どのような企業を買収してどのような効果を求めていくかを十分に練っている企業は、M&A で成功するケースが多い。
事業計画は、何度も練り直すことが重要だ。M&A が具体化し、情報を入手できるようになった段階で事業計画に落とし込み、事業計画に修正は必要か、必要なら許容できる範囲の修正かどうかを適切に判断しなければならない。
3.M&A のタイミング
シナジー効果を十分に発揮させるためには、統合のタイミングも極めて重要だ。それぞれの企業の市場価値は、その企業の内部要因だけでなく、市場などの外部要因にも大きく影響され、日々変動している。
市場の動向も鑑みて、適切なタイミングでM&A を行わなければならないが、その判断は容易ではない。コンサルタントなどの助言を受けながら、適切に判断することが必要だ。
シナジー効果を狙ったM&A の具体例
近年の日本経済で、最もM&A を盛んに行い、シナジー効果をものにしている会社としては、まずソフトバンクグループが挙げられるだろう。
株式会社ソフトバンク(当時の社名は日本ソフトバンク)は1981年創業と、他の大企業に比べて遅めの発足にもかかわらず、日本を代表する大企業へと成長した。2004年に日本テレコム株式会社に対してM&A を実施し、法人営業の強化と国内通信事業の拡大に成功した。
その後、ボーダフォン株式会社やヤフー株式会社などに対してM&A を実施し、通信事業の総合企業として、大きな企業価値を持つようになった。ソフトバンクグループは、現在も海外の会社とのM&A を積極的に行い、さらなる事業規模の拡大を目指している。
シナジー効果の例1:売上の半分を海外で稼ぐJT
日本たばこ産業(JT)も、M&A によるシナジー効果を得た会社として知られている。日本たばこ産業は、1898年に設置された大蔵省専売局を起源とする企業だ。第二次世界大戦後の1949年に日本専売公社となり、1985年にそのたばこ事業部門が株式会社として民営化され、改組された会社である。
現在も国(財務大臣)が3分の1以上の株式を保有し、日本におけるたばこ製造の独占が法的に認められている公的な企業だが、民営化後は積極的な事業展開を行ってきた。それは、日本においてたばこのイメージが悪化し、喫煙者の減少などに見舞われ、売上の低迷に見舞われたことに対する打開策だった。
日本たばこ産業は、1999年にRJRナビスコの海外たばこ事業を傘下に収めたのを皮切りに、海外のたばこ会社を次々と買収した。既存の企業を買収することで、進出コストを低く抑えることができる。その結果売上高は2兆円を超え、世界第4位のたばこグループに成長した。現在の日本たばこ産業の売上のうち、約半分は海外における売上である。
シナジー効果の例2:ダイムラー・クライスラーの失敗
結果的にシナジー効果を発揮できなかった例として挙げられるのが、ダイムラー・ベンツによるクライスラーの買収である。
1998年、高級車市場に強みのあるドイツのダイムラー・ベンツと大衆車市場に強みのあるアメリカのクライスラーが合併した。それぞれの強みを出し合うことで、シナジー効果を狙ったものだ。
しかし、まず企業文化の違いが大きな亀裂を生んだ。ドイツ企業のダイムラー・ベンツはルールや秩序を重んじたが、アメリカ企業のクライスラーは自由で開放的だった。2社は、それぞれの文化の融合に失敗したのである。
また、統合直後に内紛で役員が一斉退任したり、優秀な社員が次々と流出したりしたこともあり、企業グループ全体として弱体化してしまう。結局ダイムラー・ベンツは、買収したクライスラーを2007年に売却した。
これは、ダイムラー・ベンツがクライスラーに対して強権的な支配体制を敷こうとしたなど、ダイムラー・ベンツ側のM&A 後の買収対象会社のマネジメント方法に大きな問題があったといわれており、「シナジー効果の落とし穴」にはまった典型的な事例といえるだろう。
シナジー効果を最大化するために改めてチェックする3つのこと
それでは、複数の企業が連携や統合するときにシナジー効果を発揮するためのチェックポイントを3つまとめる。
1.リスクのチェック
先に見てきたように、シナジー効果は必ずしも発揮できるものではなく、アナジー効果に転化してしまうこともある。
シナジー効果を狙う場合には、アナジー効果になりうるようなものはないか、一つひとつ検討をする必要がある。また、M&Aにおいては、不相当に高い金額を支払ってしまうというリスクもあるため、相手企業の売却価格が適正かどうか、セカンドオピニオンを求めるなどの慎重さも必要である。
2.自社の価値
シナジー効果をしっかりと発揮するには、自社のそもそもの価値を十分に認識しておくことが必要だ。シナジー効果の費用対効果を測定するためには、自社の価値、相手先会社の価値をそれぞれ個別に把握しておかなければ測定できないからである。自社のノウハウまで含めた企業価値を算定してみると、実はシナジー効果が思ったほどなかったということもよく起こる。
3.情報の管理
シナジー効果を狙うかどうかにとどまらず、M&Aにおいて情報管理は極めて重要である。なぜなら買収予定であるという情報が、自社の業界や近隣で広まることは、自社の経営にマイナスの影響を及ぼす可能性があるからだ。
M&Aを行う意思が固まる前の段階では、譲渡対象企業の地域、業種、従業員数といった、対象企業が特定されない程度の情報が記載された「ノンネームシート」で相手の買収意欲を探る。M&Aのように秘匿性の高い情報においては、詳細情報を安易に候補先へ提供することは通常しない。ある程度M&Aを行うという意思が固まった段階で、秘密保持契約書を交わし、相手企業の具体的な名称を知ることになる。
シナジー効果の発揮では経営手腕が問われる
シナジー効果は日本語に訳すと「相乗効果」だが、その効果は多岐にわたる。よって、どのシナジー効果を狙うのか、またその優先順位が経営判断を大きく左右する。大きな効果を得られる反面、組織拡大による意思決定スピードの遅れや企業ガバナンスの弱体化、異なる人事・評価制度の乱立などによって、アナジー効果(マイナス効果)が発生してしまうこともある。
シナジー効果を目的とした経営戦略を行う際は、計画に基づき、さまざまなファクターに留意しながら、進捗を管理していく必要がある。ささいなつまずきが大きな損失につながることもあるため、経営者の手腕が問われることになるだろう。
シナジー効果に関するよくある質問
Q.シナジー効果の成功例は?
A.第一の成功例としては、ソフトバンク株式会社が挙げられる。2004年に日本テレコム株式会社に対してM&Aを実施し、法人営業の強化と国内通信事業の拡大に成功した。その後、ボーダフォン株式会社やヤフー株式会社などに対してもM&Aを実施。通信事業の総合企業として大きな企業価値を持つようになった。
日本たばこ産業株式会社(JT)も、M&Aによるシナジー効果を得た会社だ。特に民営化後は積極的な事業展開を行い、海外の企業を買収して、現在約半分の売り上げは海外から得ている。
Q.シナジーの意味を簡単に教えてください
A.「シナジー(Synergy)」には、相乗作用や共同作用といった意味があり、2つ以上のものが作用し合って効果や機能が高まることを指す。シナジー効果とは、2つの要素を組み合わせることによる相乗効果のことで、得られる相乗効果は「1+1」が2ではなく、3にも4にもなることを意味する。
例えば銀行の支店をスーパーマーケットや百貨店の中に設置することで、銀行は支店を新築するよりも経費を抑えることができる。一方スーパーマーケットや百貨店は、顧客がより多くのお金を使ってくれる可能性が上がり、売上アップが期待できるだろう。
Q.シナジー効果のメリットは?
A.シナジー効果のメリットは、主に以下の4点である。
- 組織マネジメントの強化ができる
- 新規の商品・サービスの開発ができる
- 融資が受けやすくなる
- 競争力の強化
組織再編により全体の最適化が進み、組織マネジメントの強化につながる。また経営統合により売上が増加することで新規商品やサービスを開発する余裕も出てくるだろう。スケールメリットが生まれることで金融機関から信頼が高まることが期待でき、大きな融資も受けやすくなる。これらのメリットを活かすことができれば、競合他社との競争力も強化できる。
Q.シナジー効果のデメリットは?
A.シナジー効果には、以下の3つのデメリットもある。
- 組織再編による疲弊
- 組織再編後の人材流出
- 逆効果になるケースも(アナジー効果)
組織再編は、意思決定や条件の折衝、実務上のすり合わせなどが必要になる。その際には、多くの時間が必要となるため、組織が疲弊してしまうことも少なくない。特に会社の合併などでは、企業文化の違いから期待したようなシナジー効果が出ないケースも散見される。また組織再編後の社風や仕事の進め方に慣れず、多くの人材が流出するリスクもあるだろう。
ここまで進むとシナジー効果とはいえず、逆にアナジー効果を招いてしまう可能性もある。
Q.シナジー効果の反対語は?
A.事業間の相乗効果を指すシナジー効果の反対語は、事業間相互のマイナス効果を指すアナジー効果だ。1+1が2よりも大きくなるのがシナジー効果なら、アナジー効果は1+1が2よりも小さくなるイメージである。
Q.シナジー効果を高めるには?
A.シナジー効果を高めるためには、まずM&A 成立後の経営の統合プロセスであるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を徹底することだ。PMIが不十分だと狙ったシナジー効果を十分に得ることができず、M&Aが失敗に終わる可能性がある。PMIの設計に関しては、経営やM&A の専門家のアドバイスを受けながら時間をかけて作っていくことが必要だ。
その他、事業計画の早期立案やM&A のタイミングもシナジー効果を高める重要なポイントの一つといえる。事業計画をしっかりと練っている企業は、M&Aで成功するケースが多い。M&Aのタイミングは、市場の動向も十分に考慮したうえで専門家のアドバイスも受けながら見極める必要がある。
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