
2025年6月
ICT・金融ユニット
主席研究員 小山 博子
映像装置の工夫
4月、EXPO2025大阪・関西万博に行った。本万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。筆者がまわった範囲ではいずれのパビリオンにも「いのち」を感じることができ、後で知ったこのテーマには納得感があった。
さて、本万博は、支払いはキヤッシュレス決済のみ、顔認証あり、自動翻訳システムあり、など、先端デジタル技術を用いて、未来を先取りする「超スマート会場」を実現している。会場まで、桜島駅からのシャトルバスを優先利用するためには「KansaiMaaS」アプリ(関西に主要路線を持つ鉄道7社が提供(2025年4月現在)するMaaSアプリ)を利用して事前決済をする必要があるなど、「帰るまでが遠足」ならぬ「出発から万博」である。
会場内で目を惹くのは映像装置の進展で、屋内はもちろん、屋外でも色彩豊かな演出が楽しめる。例えば、オーストラリア館ではユーカリの香りがする(木も本物に見える)。高精細なデジタルサイネージと組み合わせることで実際に森の中にいるような感じがするなど、リアルとの組み合わせが深い没入感を与えてくれた。
屋外に焦点をあてて考えてみる。かつてデジタルサイネージを屋外に設置するには雨風や塵への対策が課題とされていた。しかし今や屋外向けのデジタルサイネージも数多く流通している。
確かに、案内や空間演出といった用途ではデジタルサイネージは導入が進んでいる。しかし、期待されていた広告宣伝という用途では、効果測定が課題となり、CM的な利用を除き、出稿が伸び悩んでいる。視聴者数や視聴時間は測定できても、「見たから買った」までの測定は困難なことが理由のひとつである。デジタルサイネージ上にQRコードを表示し、読み込めば購入できる、クーポンが表示される、などすれば測定は可能であろうが、日常的な買い物においては現実的でない。実際、万博会場でもデジタルサイネージに関しては「映す」というところに重きが置かれていたように思う。「映す」情報による市場の広がりを期待したい。
生成AIによる未来からの手紙
もちろん、万博では生成AIも活用されている。筆者の体験をひとつご紹介したい。日本郵便は「Play!郵便局」をコンセプトに来局者がPLAY(楽しむ/遊ぶ)する「新たなスタイルの郵便局」として、体験型のコンテンツを用意している(2025年4月現在、EXPO2025 WEST郵便局のみ)。いくつかあるコンテンツの中で、生成AIを活用したサービスが「PLAY!未来からの手紙」(料金500円/回)である。本コンテンツは、未来(20年後)の自分から手紙が届くという演出で、紙に将来(20年後)の夢を書くと、それを参考に未来の自分(生成AI)が今の自分に手紙を書いてくれる、というものである。
出来上がった手紙には20年後の自分の写真(生成中に今の自分の写真を撮影)と20年後の自分の状況が記載されている。パターン数など定かではないが、筆者の手紙はサンプルとは違う背景が使用されており、生成AIが文面に合致した背景を選択(あるいは生成)した可能性がある。ネタバレになるので詳細は控えるが、筆者が将来の夢の中に「ゆっくり」の文言を入れたところ、「いつも忙しさに追われていたけれど…」的な文章が入っているなど的確で、文面に違和感もなかった。
調べものや文書作成、デザインなど、生成AIを業務に利用する企業は増加基調にある。これまで多くのITツールが汎用的なものから業種特化、業務特化のものへと進展してきたように、生成AIも今後、業種特化、業務特化のサービスが拡充していくことが予想される。そうなった時、生成AIがビジネスにこれまで以上の効果をもたらすことは想像に容易い。生成AIの効果については、期待値に届いていないと考える企業がある他、一定の効果を感じてはいるものの、AIに抱いた期待に対する失敗体験からそもそもの期待値が低い企業があるなど、現状、ネガティブ要素もある。しかし業種特化、業務特化のサービスが当たり前になり、それを利用するときまで辛抱強く活用し続けて欲しいと願う。