
2025年5月
デバイス&マシナリー産業グループ
主席研究員 金 龍京
自ら大衆に受け入れられる製品を作り出し、市場で訴求していく工夫が必要
ワイヤレス給電とは、距離に関係なく接点を設けない形式のシステムとして、1990年代から既に一部の小型家電製品を中心に塔載されてきた。当時は特定の製品における用途が中心であり、各社の独自規格を基本として市場が限定されていたため、あまり注目されていなかった。
しかし、2007年にMIT(Massachusetts Institute of Technology)が磁界共鳴方式を用いたワイヤレス給電の実験を公開したことにより、世界中で急激に研究開発が活発化しており、今は未来の充電方式として注目をされている。
ワイヤレス給電のアプリケーション先として、一番期待されているEV市場においては、世界的な標準化による互換性の確保やEV向けのワイヤレス給電システムを如何に市場での要望価格に合わせるかが今後のキーになると考えられる。
現状では、充電設備が整っていない状態でワイヤレス給電対応の車を買う人は当然少ない。逆に買う人がいないのであれば車の充電設備を整備する必要がないため、投資が回収できないということから充電器を作っても売れないということになり、結局鶏が先か卵が先かという状況になっている。これはワイヤレス給電の技術的な問題ではなく、実際ワイヤレス給電がもう一歩製品化に踏み切れない理由になっているものと考えられる。
非放射型ワイヤレス給電が話題になり始めた2007年からもう20年近く時間が経っているのにも関わらず、ワイヤレス給電システムの製造者側では、アプリケーション側での採用を待っているのではないかという意見も聞こえている。アプリケーション側の企業の立場では、ワイヤレス給電はあれば便利な技術ではあるが、必ずしも必要な技術ではないのが現実的な状況だと考えられる。そのような面から、アプリケーション側での採用を待つだけでは市場はいつまでも期待以上の成長は難しいと考えられるため、ワイヤレス給電システムの製造者側では自分たちで大衆に受け入れられる製品を作り出し、市場で訴求していく工夫が必要であるだろう。
誰でも参入の機会があるワイヤレス給電市場、10年後には主役になり、電気が空気になるような世界を目指す
一方、現在、世の中で使われているワイヤレス給電を用いた製品は、非接触とはいえ距離を取れないため充電する時に指定の場所に置く必要があったり、置いている時には製品が使えなかったりする。また、充電速度が遅い、効率があまりよくなく発熱の恐れがあるなど、解決すべき課題も少なくないことから、まだワイヤレス給電市場は盛んになっていないものと考えられる。
私たちが使う電池は化学反応を使っており、例えば携帯電話の電池は1日や2日はバッテリーが持つようになったが、ドローンを飛ばしたり、電池を持ちたくないという大衆の要望に対しては、まだいつでもどこでも電気が使える時代には至っていない。
全ての電気機器をインターネットで繋ぎ、いつでもどこでも情報が取れるようになったIoT社会はほぼ実現しつつある。さらにこの先、エネルギーがどこかとつながっているという社会を実現できたら良いのではないかと考えるが、このような社会を実現するのが空間伝送型のワイヤレス給電システムである。
この先はEVのワイヤレス給電や緊急時のワイヤレス給電、さらには発電所を宇宙に作って宇宙からエネルギーが送れるというような社会を実現していくものと考えられる。これらが実現し、私たちはそこにいるだけで電気があるのかないのかもわからずに電気を使える、電気が空気のようになるような世界を目指し、今関係者は研究を続けている。
空間伝送型ワイヤレス給電市場は、今動き始めたばかりの市場であるからこそ、誰でも参入の機会があり、魅力ある世界だと考えられる。市場参入を恐れず、いち早く同市場でのプレイヤーになり、今後5年後、10年後にはこの市場での主役になって欲しい。