新型コロナウイルスの感染拡大の影響は日本の総合商社にも出ている。原油価格の急落によって、丸紅は2020年3月期、1,900億円の黒字から2,000億円の赤字に転落する見通しだという。三井物産の業績にも影響が出る見込みだ。日本の総合商社の今期の業績は、新型コロナウイルスによって総崩れとなってしまうのか。
目次
原油価格はなぜ下落したのか
新型コロナウイルスの感染拡大と日本の総合商社の業績悪化の関連性を理解するためには、まず世界的に原油価格が下落しているいまの状況と、その背景について知っておく必要がある。丸紅や三井物産といった日本の総合商社は、原油価格の急落によって業績見通しを下方修正せざるを得ない状況に至っているからだ。
新型コロナウイルスが原油価格に与えた影響
新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界各国が外出自粛や入国制限などの措置を実行した。外出自粛や入国制限などが実行されると、人々の移動は極端に抑制され、生産活動も鈍化していく。その結果、原油が余り始めた。原油が余り始めると原油価格は下落していくのは明白な道理だ。
ただ、原油価格の急落はさまざまな国や企業の事業活動に大きな影響を与えるため、なるべく原油価格の現在の水準が維持されるよう、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国は減産協議に臨んだ。供給量を減らせば原油が余る状態を緩和できるからだ。
しかし減産協議は決裂した。産油国の間で意見が折り合わなかったからだ。しかもサウジアラビアやロシアは増産によってこの機会にシェアを拡大しようとしている。今後再び協議が行われ、最終的に減産合意にこぎつけられるは今のところ不透明だ。
こうした事情もあり、原油価格は歴史的な急落となっている。
「商社と原油」の関係性
こうした原油価格の急落は、日本の総合商社の業績にダメージを与えている。日本の商社の中には石油事業に取り組んでいる企業が少なくない。原油価格が急落すれば、抱えている石油の在庫や石油事業の価値が大きく目減りする。そのため、巨額の損失を計上せざるを得なくなるわけだ。
今回の原油価格の急落による影響が明らかになっている日本の総合商社を挙げていこう。
丸紅:原油価格の急落で最終損益が赤字転落へ
丸紅は連結子会社を通じ、アメリカのメキシコ湾や英領北海において、石油・ガスの探鉱や開発、生産などに取り組んでいる。そのため、今回の原油価格の急落の影響をもろに受けた。そして3月25日、2020年3月期(2019年4月1日~2020年3月)の通期業績の見通しを下方修正することを発表している。
具体的には、通期の最終損益の予想を前回発表の2,000億円の黒字から1,900億円の赤字に下方修正した。直近4年間は利益を右肩上がりに増やしてきた丸紅だが、新型コロナウイルスによる原油価格の急落が同社の好調ぶりを吹き飛ばした格好だ。
最終損益の予想を2,000億円の黒字から1,900億円の赤字に下方修正したということは、下げ幅は3,900億円ということになる。このうち、⽯油・ガス開発事業における減損損失などでのマイナスが1,450億円に上っている。
世界経済の不透明感が増していることにより、アメリカにおける穀物事業でも計1,000億円のマイナス、チリにおける銅事業でも600億円のマイナスを計上している。
三井物産:利益が500億~700億円程度圧縮の見通し
丸紅が業績の下方修正を発表した2日後、三井物産も2020年3月期の業績予想について発表している。
三井物産はアメリカでシェールガス・オイル事業、イタリアで油田事業などに取り組んでおり、今回の原油価格の急落によって石油・ガス開発事業の固定資産における減損損失が発生する見通しとなったという。その結果、2020年3月期の利益が500億~700億円程度圧縮される見込みのようだ。
同社は2月に2020年3月期の最終損益が4,500億円になるという見通しを発表していた。仮に700億円利益が圧迫されれば、利益の約15%が消え去ることとなる。丸紅のように赤字転落とまではいかないものの、いかに原油価格の変動が三井物産の業績にも影響を与えるかがよく分かる。
総合商社の決算発表、例年に増して今年は注目が集まる
丸紅と三井物産以外では、いまのところは原油価格の急落による業績予想の下方修正は発表されていない。しかし、総合商社は各部門でさまざまな事業を展開しており、新型コロナウイルスの感染拡大による市況の悪化によって資源関連以外の事業でも影響は免れないだろう。
3月期決算の企業の業績発表は4月下旬から5月上旬にかけて行われる。丸紅の決算説明会は5月7日、三井物産の決算説明会は5月1日にそれぞれ行われる予定だ。ほかの商社もこの時期に決算発表を行うが、例年に増して業績に注目が集まることは間違いない。
文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)