東京五輪
(画像=lazyllama/Shutterstock.com)

1990年代のバブル崩壊以降、長期的に低迷している日本経済に、「新型コロナウィルスの影響と東京オリンピックとパラリンピックの延期が追い打ちをかける」との懸念が強まっている。東京オリンピック延期をめぐる最大の懸念は、パンデミックの終焉がいつになるか予想がつかず、日本を含む世界経済への打撃がどれほどの規模になるのか、ベールに包まれている点ではないだろうか。

目次

  1. 経済的損失は最大2兆円?
  2. 最も影響を受ける産業は?
  3. 経済的打撃は海外にも
  4. 五輪史上初の公式な「延期」
  5. 海外の反応「延期は賢明な判断」だが、「経済的懸念は強い」

経済的損失は最大2兆円?

東京2020組織委員の2019年12月の発表によると、東京オリンピックへの大会経費は、委員会と東京都、国の負担分を含めて総額1兆3,500億円とのことだ。しかし会計検査院は、政府が五輪との関連性を認めていない事業も含めると、「最終的な経費は3兆円を上回る」と指摘している。

真相はどうあれ、開催延期がもたらす経済的損失は避けられない。現時点において、正確な損失額を予想することは不可能だが、サウスチャイナ・モーニング・ポストが調査を行ったエコノミストは、1年間の延期による経済的損失は6,000億~2兆円、中止の場合は約4兆円~8兆円と見積もっている。

これらのエコノミストがどのような判断材料に基づいて、それぞれの予想を算出したかは明らかではない。しかし、関西大学宮本勝浩名誉教授の約6,408億円、中止の場合は約4兆5,151億円という予想に、競技場など関連施設の維持・管理費用や選考会のやり直しに要する費用のほか、開催で期待されていた経済効果が含まれている点を考慮すると、同様の判断基準が用いられたものと推測される。

また、エコノミストにより予想損失額が大きく異なるのは、コロナの猛威がいつまで続くのか、最終的にどれほどの打撃を受けるのか、現時点では予想がつかないためだろう。

最も影響を受ける産業は?

すでに様々な産業でコロナの影響が拡大しているが、東京オリンピックの延期で最も打撃を受けるのは、観光業やサービス業、小売り業など、観戦客からの利益を見込んでいた産業との見方が強い。

特に宿泊施設や旅行会社、航空会社、交通会社などは、予約客の対応に追われており、一部の予約客は代金の払い戻しを要求すると予想される。

予約客のほとんどが来年までの延期に応じたとしても、今年の夏に見込んでいた売上げが1年先に延びることにより、経営難に追い込まれる業者も少なくないはずだ。特需のために先行投資をしていたホテル業者や民泊オーナーの中には、すでにコロナの影響で観光客が急減し。破たんあるいは破たん寸前の例もある。

経済的打撃は海外にも

日本同様、オリンピックとパラリンピックの集客を見込んでいた旅行会社や航空会社、実況中継を予定していたメディアなど、経済的な打撃は海外にも広がっている。

例えば、2023年まで国際オリンピックの国内放送権を所有する、米メディアグループNBCユニバーサルは、東京オリンピックをめぐり10億ドル相当以上の国内広告契約を獲得している。親会社であるコムキャストのブライアン・ロバーツ会長兼CEOいわく、同社は、五輪の中止・延期で生じる損害に対して保険をかけているため、「利益が先延ばしになるだけ」だと言う。

経済的な損害が保険でカバーされるとは言え、予定していた番組の差し替えや広告契約の再交渉など、時間と労力が必要となることは疑う余地がない。

五輪史上初の公式な「延期」

オリンピックは戦争中に3回(1916年・1940年・1944年)中止になっている。

第二次世界大戦で中止となった1944年のロンドン・オリンピックは、1948年に持ち越されたため、実質上は延期ではあるものの、夏季オリンピックが公式上延期となるのは今回が初めてだ。

1920年のアントワープ・オリンピックはインフルエンザ、2016年のリオ・デ・ジャネイロ・オリンピックはジカウイルスの流行にも関わらず、予定通り開催された。アントワープのインフルエンザは流行の終盤だったこと、ジカウイルスはコロナのように人から人へ感染しないことが、決行の決め手となった。

実は日本は過去に、オリンピックの中止を余技なくされている。1940年に中止になったヘルシンキ・オリンピックは、本来、東京で開催が予定されているものだったが、日中戦争が勃発したことで、日本は開催地を返上した。同年予定されていた札幌オリンピックも、必然的に中止となった。

海外の反応「延期は賢明な判断」だが、「経済的懸念は強い」

世界中が東京オリンピックの延期に落胆を隠せない反面、「人命を最優先した賢明な決断」「延期による損失は大きいが、コロナによる損失の方が大きい」と受けとめられている。それと同時に、日本経済への懸念を示すアナリストもいる。

延期は中止よりも損害は少ないものの、コロナの影響で世界経済への打撃が広がると予想されている。今後、多くの国で失業率の上昇や消費の低下がさらに深刻化した場合、オリンピック目的の訪問者や日本への観光客が減る可能性は、十分に考えられる。また、「1年後に開催されたとしても、現時点では予想もつかない損害を日本は取り戻せるのか」という懸念も残る。

しかし、経済的損失が大きくとも、あらゆる障害を乗り越えてついに開幕となった時、人類がパンデミックの脅威を克服したことを祝福する、世界にとって忘れられないオリンピックとなるはずだ。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら