新規事業,事例,成功
(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

ベンチャー企業や大企業などの企業規模に関わらず、新規事業には常日頃から積極的に取り組まなければならないといわれている。なぜなら、企業を取り巻く景気や消費者の動向は、刻一刻と変化し続けており、情勢が変わるにつれて企業に求められるものも変わるからだ。

特に消費者ニーズの移り変わりサイクルが短期化している現代においては、たとえ既存の事業が順調でも、その商品自体が飽きられたり、ベンチャー企業が思いもよらぬスピードで競合事業を始めたりすることもある。ここでは、新規事業を手掛けるときに経営者が知っておきたい成功と失敗のポイントを概説する。

企業にはなぜ新規事業が必要なのか カギは市場の変化と人材育成

組織によっては、「現状でうまくいっているから」「今は新規事業に割く人手が足りないから」など、なかなか新規事業に着手しにくい事情もあるだろう。既存事業がうまくいっていればいるほど、きっとどこかで「今、無理してリスクを負ってまで新規事業を始めなくてもいいだろう」という思いを抱えているはずだ。

それでも、企業は常に新規事業に取り組む必要があるといわれるのはなぜなのだろうか。まず一つは、企業にとって「市場ニーズの変化に対応していくこと」が最優先だからだ。もう一つは、「新規事業による人材の育成」が重要であることが挙げられる。

市場ニーズは、既に顕在化しているものに加えて、潜在的に存在するものや今後新たに顕在化するものも含まれる。長期的にニーズを反映し続けられる経営プロセスをきちんとシステム化し、需要に合ったサービスを提供し続けていくことこそが新規事業の意義であり、安定した企業利益を導くカギでもある。

また、新規事業を立ち上げることは、優秀な人材を社内で育成できるきっかけにもなり得る。新規事業を通じて実践的なスキルを磨ける人材育成の場を作ることは、企業にとって経営の安定化につながる重要な要素である。

新規事業に成功している企業の中には「新規事業の目的は社員の人材育成だ」と考えている会社も多い。若手社員を、将来の有能な経営幹部候補に育てていくためには、一から事業を立ち上げていく過程で、ビジネスを根本から学ばせる機会を与えるべきだ。次第に新規事業の枠を超えて、市場内での自社の立ち位置を理解するようになり、企業が重宝する人材に育っていくだろう。

新規事業の成功と失敗における共通点は?

新規事業が成功するか、失敗するか。事前に結果が分かっていれば苦労はないが、成功するパターン・失敗するパターンには特徴がある。それぞれの共通点について理由を踏まえながら解説する。

新規事業が成功する企業に共通する4つの特徴

1.積極的な人材の育成と採用

新規事業を成功させるためには、人材の育成とチームの意欲を高める環境作りが大きなポイントだ。特に新たに人材を採用した場合、チームの中で自己の役割を認識し、その重要性を自覚できるよう教育訓練することが重要である。事業のビジョンをチーム内で共有しあいながら、自分の役割を理解できる仕事環境を整えるべきだ。

良い人材が育つことで良い事業が育ち、事業が育つことでまた良い人材が集まる場になっていく。このサイクルこそが新規事業の成功ともいえるのではないだろうか。

2.ビジネスモデルの迅速な検証サイクル

クレームや企業の信用失墜を恐れ、「とにかく完璧な状態で世に出そう」とするあまり、消費者の声に耳を傾けず机上の検討に割く時間があまりにも長いと、事業の失敗につながりかねない。のんびりと長い時間をかけてようやくリリースした頃には、ベンチャー企業など競合他社にあっという間に先を越されてしまっているだろう。

これを避けるためには、一つのプロジェクトに対して、市場からのフィードバックを迅速に検証し、学習していくサイクルを作ることが肝要だ。

特に、検証プロセスを短期かつ高回転でまわすためには、最初から事業計画を綿密に詰めすぎずに、まずは最低限の準備ができた段階でスモールスタートを切る方法が有効である。スタートを切った後に、市場の反応を見ながら、そのフィードバックをできるだけ早く吸収していく。そして、サービスやビジネスモデルの改善を繰り返しながら、柔軟に軌道修正していけるフットワークの軽さが新規事業を自然と軌道に乗せるコツだ。

3.ターゲットの明確さ

新規事業に限らず、“事業”というのは、まずターゲットが明確であることが何よりも重要だ。「すきま産業」「ニッチマーケット」ともいわれるが、新規事業の場合、ライバルのいない市場をいかに見つけられるかが成功の秘策でもある。

例えば、ターゲットが「女性」という大きなくくりでは、あまりに市場が広すぎて事業の方向性を定めるのは困難だ。そこで、女性の中でも「辛い食べ物が好きな人」「山登りが好きな人」「女性管理職」「働くママ」など、趣味や年代、ライフスタイルなどさまざまな視点からターゲットをできるだけ狭く絞っていく。

結果的にターゲットに対する想定ライバル数と、消費者の潜在的な悩みがあぶり出され、自社の得意を生かせる競合の少ない市場を見つけ出すことができるだろう。ターゲットは「ペルソナ」とも呼ばれ、事業開始後にニーズを呼び起こすノウハウを明確にする効果もある。

4.システム化指向の新規事業開発

新規事業を成功させるためには、ビジネスをシステム的に捉えることが大切だ。いくつもの成功している新規事業には、システム化によって生産性を上げ、コストや情報の競争力を向上していこうとする共通点がある。「どこをシステム化すべきか」については、事業の性質や企業規模によって異なる。生産分野に限らず、販売・マーケティングの分野、運営・管理分野など、広い視点で見極めよう。

ちなみに、システム発想で事業化することで、たとえ成熟産業への新規参入であっても、新たな市場を創造できる可能性がある。実際の事例を後述するが、消費者ニーズを迅速に反映できる社内フローをきちんとシステム化しておくことで、消費者にとって既存他社にはない魅力を打ち出せるだろう。特に近年、IoT(モノのインターネット)を駆使したサービスの拡大、多様なサブスクリプションモデルの出現には目を見張るものがある。

新規事業が失敗してしまう企業に共通する4つの特徴

夢を持って新規事業に挑むものの、現実的には、その多くは軌道に乗ることなく衰退・消滅してしまう傾向にある。ベンチャーが盛んな米シリコンバレーにおいても、成功するのは1,000社に3社、つまり起業しても0.3%しか生き残れないという意味で「せんみつ」といわれるほど。新しく事業を手掛ける前に、以下のような「失敗」の要因について学んでおく必要がある。

1.仮説検証が遅い

前述のとおり、特に大企業ほど意思決定のフローが長いことから机上検討に時間を要しがちだ。市場で出遅れないように、最初から仮説だけで大きくスタートするのではなく、まずは小さくスタートしてみよう。それから消費者のニーズを探り、それに応えながら市場の中で大きくなっていくサイクルが理想だ。

2.ビジネスモデルが十分に検討できていない

事業が失敗する要因の多くは、需要予測や市場の読み違えが起因している。思い付きで行動することが悪いというわけではないが、あまりに楽観的な需要予測に基づいた事業化計画で進めてしまうと、軌道に乗れないときに適切な打開策を見いだせず、衰退を余儀なくされるだろう。

3.人材のリソースが不足している

急成長を遂げたユニコーンと呼ばれる企業も、最初は数人のチームから始まっている。エンジニアやデザイナーなど、強みを持つ個人がチームを組んだところへ、それに共感する仲間が集まってくるという仕組みだ。少人数だと意思疎通がスムーズで役割を自覚しやすいということに加え、同じ目的と熱意を持ったメンバーがチームを組むことで相乗効果が生まれる利点がある。

一方、大企業で新規事業開発を行う場合、関連する事業部からメンバーが招集されることが多く、本来の業務と兼務で請け負うデメリットがある。優秀な人材ほど既存事業の負担が大きく、新規事業に入れ込めない傾向がある。「仕方なくやらされている」と感じてしまったり、「既存事業のプラスになるように仕向けたい」と本来の新規事業の目的から離れてしまったりして、革新的なアイデアはなかなか生まれなくなる。

さらに、新規事業開発に招集された人員は、短期的に見ると収益に貢献しにくく、社内での評価を得にくいため自己肯定感を満たせないこともある。肩身が狭い思いをすることも多く、そういった人たちが会社全体を巻き込む動きを発展させていくことは難儀だ。

つまり、新規事業を始めるときには、まず熱意やアイデアを持ち、共通の意識を持つ社員を中心に少人数のチームを組成することがポイントである。さらに外部の起業経験者などから知見を吸収する機会を早い段階から設け、新しい人材を積極的に雇用するなどして、新規事業チームが意欲的になれる環境を作ることが肝要だ。

4.撤退の基準が決められていない

新規事業は、「さぁ、始めよう!」とスタートダッシュを切ることは簡単でも、「ここでやめよう」とストップをかけることは意外と難しい。

企業として儲かっているうちに事業を撤退させる「積極的撤退」の場合はまだ良い。利益が上がっていて、まだまだ事業が成長段階にあっても、事業領域の最適化をはかるために事業を手放し、衰退しないうちに有終の美を飾る「戦略的撤退」でもあるからだ。

一方、「消極的撤退」といって、赤字や不景気、取引先との対立など、やむを得ず存続を諦めて事業を撤退することが多くある。費用対効果が見込めない、競合企業の台頭、さらに災害などの予期しないアクシデントなどが影響することもあるだろう。苦境に立たされたなか、これまで投資した経営資源に見切りをつけなければならないため、撤退の判断が難しいといわれる。

撤退のタイミングを見極めるのに困ったときは、「貢献利益」を確認してみよう。貢献利益とは、売上高から変動費と直接固定費を引いたもので、少なくとも貢献利益が黒字ならその製品やサービスからは利益が上げられているということになる。

つまり、たとえ営業利益が赤字でも、貢献利益が黒字であれば、コスト減や売り上げ増など今後の経営次第で営業利益も黒字にできる可能性があるため、事業を即時に撤退させる必要はない。逆に、どんなに頑張っても営業利益の黒字化が見込めなくなったら、事業撤退を検討すべきだ。

一方、貢献利益が赤字の場合は、まず貢献利益を黒字化できそうな見込みがあるかどうか、コストを見直していく。経営改善の余地があれば、撤退を保留し、再スタートを切るのも良いだろう。

忘れてはならないのは、貢献利益が赤字だと、新規事業以外の部署にも影響が及ぶことだ。会社全体が赤字に傾いてしまう前に潔く判断できるように、新規事業をスタートさせる段階で必ず撤退ラインを決めておくことが重要である。

企業の新規事業の成功事例9選

開発するサービスは万人受けである必要はない。ターゲットを法人向けに絞る、個人向けに絞るという戦略もある。大手企業でのスタートアップ事例も含めて、新規事業の具体例をいくつか紹介する。

大手企業の新規事業3選

・ホンダの「ホンダジェット」
ホンダが新たに開発した小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」は、2019年上半期の納入機数が世界最多となる大人気ぶり。スピードが速い、高く飛べる、遠くまで飛べるといった魅力を打ち出し、独自開発のエンジン配置など他社には真似できないブランド化に成功している。消費者のニーズを的確にキャッチし、巧みに自社技術を駆使した成功例といえるだろう。

・三井物産の「ボイスタート」
大手社内ベンチャー設立例の一つ、「ボイスタート」。三井物産社内ベンチャーチームが、AIスピーカーを使ったアプリの大半が音楽など若者向けサービスであるのに注目した。これを応用して孤独感を抱えるシニア世代の力になれないかと発想を転換。社会問題を解決する事業として、新たに取り組んだ一例である。

同事業は、今後AIスピーカーを使って地域コミュニティーに参加したりできるアプリを開発し、自治体などと連携しながら、シニア世代のニーズを汲んだサービスを展開していく見込みだ。

・日本郵政×Yper株式会社の「OKIPPA」
日本郵便では不在時の受け取り方法として、玄関前、宅配ボックス、メーターボックス、物置・車庫で受け取れるサービスも行っている(事前手続きが必要)。玄関前を受取場所に指定した場合、盗難防止策を施した専用容器が必要だ。この専用容器には、Yper株式会社の「OKIPPA」の宅配便受け取り用の置き配バッグが使用できる。

OKIPPA は、2017年創業のYper株式会社が開発したサービスで、不在時に玄関ドアに設置して荷物を受け取ることができる。さらに、配送大手など8社の配送状況を専用アプリから確認が可能だ。これまでも戸建て住宅用の宅配ボックスは販売されていたもののどれも高価で、折り畳みバッグ方式のOKIPPAは、低価格で購入しやすい点が他との差別化に成功したポイントの一つだろう。配送業務の人手不足が叫ばれるなかで、需要は高まっている。

toB向けサービス3選

・ダイハツ工業の「らくぴた送迎」
通所介護施設(デイサービス)で行われている利用者向けの送迎サービスは、ドライバーは職員が担当するケースが多く、道が混雑している時間帯に複数の利用者宅を時間通りに巡回することが難しいという悩みを抱えている。

ここに着目したダイハツ工業が「らくぴた送迎」を開発。利用者のリストと車両情報を事前に登録しておけば、特別なGPS装置などは不要で、送迎前に最適なルートを自動表示するというもの。特徴は、単純なルート自動作成だけでなく、出席者の変動に対応したり、相性の悪い利用者同士の同乗を避けたりなど細かい配慮もされていること。「介護事業者向けの送迎サービス」というニッチな市場での送迎支援システムが成功を遂げている例である。

・キュア・アップの「ascure卒煙プログラム」
法人向けモバイルヘルスプログラムを開発する株式会社キュア・アップは、禁煙を目指す人をスマホアプリでサポートする「ascure卒煙プログラム」を、企業の健康保険組合向けに提供している。一般用医薬品として購入できるニコチンパッチを使いながら、薬剤師や看護師の資格を持つ禁煙指導員がビデオ通話でサポートを行うもので、日中、禁煙外来に通院することが難しいサラリーマンでも禁煙チャレンジを続けやすいメリットがある。同サービスは法人従業員向けであるため、企業の福利厚生向上にも貢献できることから、今後さらなる需要が見込めるだろう。

・KIYOラーニングの「AirCourse」
社会人向け教育コンテンツ事業を展開するKIYOラーニング株式会社は、スマホやタブレットから利用できる社員教育クラウドサービスを2017年から開始した。新人教育、コンプライアンス研修などの汎用的な標準コースから、各企業が独自の社員教育コンテンツを簡単に制作できるオリジナルコースまで網羅しており、企業は新入社員からベテラン社員まで社員研修をスマホ一つで管理できるのが特徴だ。同社は資格取得者向けのeラーニングサービス「通勤講座」の開発元でもあり、そこで培ったコンテンツ制作ノウハウが、今回のサービスにも生かされている。

toC向けサービス3選

・KAREN
依頼者の間取りに合ったインテリアを3Dイメージで提案する、オンライン型インテリアコーディネートサービス「KAREN」。依頼者が提供する間取り図や写真を元に、プロのインテリアコーディネーターが3D画像を作成してくれるUXにも優れたサービスである。

最近では、InstagramやPinterestなどの写真を参考にインテリアを考える消費者が増えているが、素人が再現できないものや適切な家具を探すのが難しいといった悩みに着目。安価な料金で家具の購入先までフォローしてくれる、手軽で至れり尽くせりなサービスが消費者に好評だ。

・OYO LIFE
2019年3月から始まった「OYO LIFE」は、スマホひとつで物件探しから入居契約、家賃支払い、退去までの手続きを行えるようにしたものだ。旅行の宿泊先をインターネットで予約するような感覚で東京23区のアパートの部屋を借りられる新サービスを目指している。

2年縛りの入居契約、敷金・礼金・仲介手数料の支払いをなくし、自由なタイミングで引っ越せる点が今までにない大きな魅力である。物件を所有するオーナーへのフォローも手厚く、既存産業への新規参入組として、巧みに独自のブランドビジネスを展開して成功した例の一つだろう。

・Takeofferの「しつじむ」
副業や個人投資家の増加により、会社員でも確定申告のニーズが高まっている。しかしながら、申告に不慣れな人が多いことを受け、会計・税務の支援サービスを提供する株式会社Takeofferが2018年8月から新サービス「しつじむ」を開始。LINEを通じて必要な情報を入力したり、写真で書類を提出したりするだけで、提携する税理士が書類作成や税務署への提出作業を代行してくれる。

納付税額は「しつじむ」の利用料金と一緒に支払えるなど、申告者の手間を最大限に省いている。煩わしい会計事務もスマホで手軽に済ませたいというニーズに焦点を絞っており、働き方改革も相まって需要は今後も上がることが予想されている。

新規事業を成功させるために必要なのは市場を見極める力

どんな新規事業も、市場に参入した後、需要が高まり成長期を経て成熟期を迎え、いつかは衰退してしまう。近年では、IoTの普及によってそのサイクルが短期化し、消費者ニーズもどんどんと多様化している。

情報化社会のなかで、自社にしか入り込めない市場をいかに見いだして、ターゲットを明確に定められるかがポイントになる。さらに事業を通じて人材を育てられる環境を整えながら、きちんと撤退ラインを決めておくことが、事業の成功と失敗を分ける一つの目安になるだろう。

文・角田麻衣子(新規事業・マーケティングプランナー)