事業拡大
(画像=Gorodenkoff/stock.adobe.com)

経済や社会環境の変化は、今に始まったことではない。過去を振り返ってみて、変化のない時代は見当たらない。そんな中でも近年の時代の変化のスピードは速い。中小企業経営者には、時代の変化の中で、柔軟に対応することが求められている。事業拡大は時代の変化の中を進むための企業戦略として、多くの企業がチャレンジしている。今回は、中小企業の事業拡大成功事例と事業拡大を計画する際に必要な5つのポイントを紹介する。

目次

  1. 事業拡大は時代の変化に対応するために必要
    1. 中小企業を取り巻く社会環境の変化
    2. 事業拡大は時代の変化に対応するための解決策のひとつ
  2. 事業拡大で時代の変化に対応した成功事例3選
    1. 1.海外市場に向けて事業拡大する伝統産業企業
    2. 2.AI活用で売上を向上させ新たな事業拡大にチャレンジする飲食業
    3. 3.SDGsをテーマに事業拡大を継続する日本企業
  3. 事業拡大を計画する際に必要な5つのポイント
    1. 1.事業拡大はビジョンに合った計画の策定
    2. 2.事業拡大に向けた資金の準備
    3. 3.業績管理を万全にする
    4. 4.業務管理体制を構築する
    5. 5.リソース計画・管理
  4. 目まぐるしい環境の変化をチャンスと捉えて事業拡大へ

事業拡大は時代の変化に対応するために必要

中小企業を取り巻く時代の変化によって、企業は自己変革の継続を求められている。

中小企業を取り巻く社会環境の変化

近年の日本における大きな社会環境の変化は「人口減少」「デジタル化」「グローバル化」の3点だ。世界に視点を移すと、SDGsにあげられるテーマが加わるだろう。

事業拡大は時代の変化に対応するための解決策のひとつ

社会環境の変化は、企業が経営を考える上で重要な要素になる。多くの中小企業が、変化をチャンスとして捉えチャレンジし、成功を勝ち取っている。

事業拡大で時代の変化に対応した成功事例3選

ここでは、事業拡大で時代の変化に対応した中小企業の成功事例を紹介する。

1.海外市場に向けて事業拡大する伝統産業企業

株式会社高澤商店は、石川県にある「和ろうそく」で国内シェア1位の企業である。高澤商店は、1960年代の高度経済成長期に全ての工程で手作りが一般的であった和ろうそくの製造工程を見直し、生産体制を整えることで事業拡大を行った企業である。

国内ではシェア1位であるが、高澤商店の社長は、少子高齢化による人口の減少や、消費者のライフスタイルの変化などに伴って、和ろうそくの需要は縮小していくことを懸念し、解決策を模索した。

解決策の中で、スタートを切った戦略のひとつに海外市場への進出がある。高澤商店は、2005年パリ国際総合生活見本市への出品依頼を石川県から受けたことを、和ろうそくの海外市場での市場価値を探る機会として捉えた。パリ国際総合生活見本市で和ろうそくは、高評価を得ることができた。高評価を得た理由は、「植物由来の原料を使用している点」「独自の芯の構造から生まれる力強い炎」の2点からであった。

高澤商店は、パリ国際総合生活見本市で、和ろうそくの強みと海外市場でのニーズを確認し、海外市場を念頭に置いた新しい和ろうそくを開発した。さらに、海外に向けての事業拡大に必要な人材確保のための取り組みを実施した。現在は、国内需要からの売上がメインであり、海外の売上シェアはわずかであるが、海外展開を拡大していく企業戦略を進めている。

2.AI活用で売上を向上させ新たな事業拡大にチャレンジする飲食業

「有限会社ゑびや」は、三重県伊勢市にある飲食店で、伊勢神宮の内宮前に店を構え、創業100年以上の歴史を誇る。そんな老舗飲食店でも、経営課題を抱えていた。ゑびやの事業運営は、社員の経験と勘に依存している部分が大半で、来店顧客数などの需要予測が正確に把握できていなかった。そのため、料理のための素材の仕入れや、調理品に大きなロスが発生していた。

需要が正確に把握されていなかったことで発生していた問題点は、食品に関するロスだけではない。業務運営に関わる人の管理にも無駄があり、予測に反して来店顧客が多い日は、社員は何人分もの作業量をこなさなければならなかった。逆に予測に対して来店数が少なかった場合は、社員の仕事がない状況をつくりだしていた。

ゑびやの社長は、自社の状況を把握し、「需要が正確に把握されていない」状況を改善するために「来店客予測」を最も重要な経営課題としたのである。社長が「来店予測」の解決策として導入したのが、AIを活用した来店予測だ。

「来店客予測」には、大量なデータ分析が必要だ。具体的には、天候やゑびやの店舗周辺に位置する宿泊施設の宿泊客数などのデータをもとに、AIを活用して約150種類のデータと来店客数との関連性を分析した。

AIによる分析によって、1日の時間ごとの来店客予測や数多くの注文が入る人気の注文メニューが判明してきた。AIによる予測は、90%以上の精度を保って運営されている。AIの活用によって「来店客予測」が可能となった事で、素材の仕入れや、調理品にロスが発生する確率が大幅に減った。また、予測来店客数に基づいた社員の勤務計画を立てることができ、デイリーの作業量も減らすことができた。

社員の作業時間が減ったことで、社員を新たな事業拡大に向けることが可能となり、ゑびやは、店舗の一部を使った、商品販売や屋台販売のビジネスを開始した。さらに、社員のスケジュール管理が正確にできるようになったことで社員の接客の質が向上している。

ゑびやは、AIを活用した来店予測などの取り組みによって無駄を削減し、従来と比較して4倍の売上高を得ることができた。加えて、週休二日制や長期休暇の導入、社員の給与アップも実現した。さらに、ゑびやのAIを活用したデータ活用の仕組みを販売する企業(株)EBILABを設立し、新たな事業拡大にチャレンジしている。

3.SDGsをテーマに事業拡大を継続する日本企業

SDGsは、国連で採択された、持続可能な世界を実現するための地球規模のテーマであると同時に、巨大なビジネス市場として注目され、世界中の企業が事業を展開している。日本の中小企業の中でも、SDGsを企業経営のテーマのひとつとして事業展開を進めている企業も出てきている。

WOTA株式会社は、SDGsのテーマのひとつである水に関する目標に貢献する事業展開をしている企業だ。水インフラの整備には、ダムや水処理場、上下水道など大規模集中的な取り組みが行われてきた。WOTAは、大規模集中的な水インフラでは対応できない地域においても、水の自給率を向上させるシステムの開発をコンセプトに掲げている。WOTAの代表的な製品として、最先端のAI水処理技術によって、水の再利用ができる「WOTA BOX」がある。

事業拡大を計画する際に必要な5つのポイント

事業拡大を計画する際には企業経営者は次の5つのポイントを念頭に置かなければならない。

1.事業拡大はビジョンに合った計画の策定

ビジョンは、企業経営の軸である。事業拡大に際しては、ビジョンに合っているかどうかは重要なポイントになる。以下は、ビジョンに合った事業拡大計画を検討する際に行わなければならないことだ。

・企業経営者のリーダーシップと社員とのコミュニケーション

企業のビジョンは経営者の価値観や考え方とリンクしていることが多く、社員一人ひとりに浸透していることが望ましい。事業拡大計画を検討する際も、リーダーシップを取るのは経営者であるが、全ての計画・目標を経営者が独断で決定し、社員に目標達成のための行動目標をトップダウンするすすめ方は、望ましくない。

事業計画の計画・目標を策定する際に、経営者がリーダーシップを取る事は重要であるが、幹部職員と検討し決定すべきであろう。全社員に計画を下ろしていく際にも、事業拡大計画が、ビジョン達成に結びつき、そのための行動目標であることを共有して、社員のモチベーションにつなげる必要性がある。

・事業拡大をスタートするための分析

事業拡大をスタートするためには、経営戦略を立てなければならない。経営戦略を立てる際には、SWOT分析や5F分析などのフレームワークを使って経営環境分析を実施するのが一般的だ。

・自社の強みを活かした事業拡大を行う

経営戦略で重視したいのが、自社の強みである。事業拡大においては、新たな経営環境下での競合が発生する。競合で優位に立つために有効なのが自社の強みである。

・具体的な数値計画

事業拡大の計画でチェック項目にあたるポイントのひとつが、具体的な損益の数値計画である。事業拡大によって自社はどれくらいの収益を上げられるのか、コストはどのくらいかかるのかを検証する。

・リスク対策

リスク対策も事業拡大の計画でチェック項目にあたるポイントのひとつである。事業拡大に伴うリスクを発生の可能性とインパクトの大きさで分け、リスク対策を考える。

2.事業拡大に向けた資金の準備

事業拡大には、資金が必要である。戦略として新規事業をスタートする場合や、新たなシステムを導入するなどの設備投資を実行する場合、必要な資金を調達しなければならない。

3.業績管理を万全にする

事業拡大は、既存の事業と異なり、未知数である部分が多い。そのため、業績管理についての仕組みは万全にしておくことが重要だ。事業拡大が計画通り進んでいるかどうかが、確認できる管理体制を構築するとともに、計画と実態にギャップが生じていた場合に改善できる体制も整えておく。

4.業務管理体制を構築する

業績管理とともに重要なのが、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」を管理する業務体制の構築だ。事業拡大によって組織の見直しや業務の見直しが必要になったり、新しい業務が発生したりすることがある。

スピーディーな対応が必要とされる新規市場への参入などのケースでは、現場への権限の委譲が必要となるかもしれない。ただし、権限の制限は明確にする。重要な案件については経営者が判断し、現場からの報告体制を整備することは実施すべきである。

いずれにせよ業務管理体制を整え、実務レベルまで落としこんだ計画が進められればよりスムーズである。事業拡大によって、拡大した経営資源をしっかりと管理するための体制を構築することで、生産性の低下を防止する。

5.リソース計画・管理

事業拡大に伴い、社員が増加することも考えられる。必要な人材を社内で確保できるかを見極め、社内に人材がいなければ新しい人材の採用を検討する。社員の増加はコストを伴うことも考慮が必要だ。

目まぐるしい環境の変化をチャンスと捉えて事業拡大へ

近年の日本における大きな社会環境の変化は「人口減少」「デジタル化」「グローバル化」の3点だ。それらの中小企業を取り巻く環境の変化に柔軟に対応し、変化をチャンスとして捉えチャレンジすることで、事業拡大に成功している企業もある。事業拡大に必要なポイントを押さえ、ぜひ成功を勝ち取ってほしい。

文・小塚信夫(ビジネスライター)

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