矢野経済研究所
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3月、単月の訪日外国人旅行者がはじめて300万人を越えた。前年同月比で69.5%増、コロナ前の2019年3月比で11.6%増、インバウンドは完全にコロナ前の勢いを取り戻した。歴史的水準にある円安に加えて「春の桜シーズンにイースター休暇が重なった」(JNTO)ことが要因である。国別にみると上位国の顔ぶれはコロナ前と変わらない。トップグループは韓中台、これに米、香港、タイと続く。ただし、コロナ前トップであった中国は2019年比34.6%減、3位へ転落、代わって1位に韓国、2位に台湾が浮上した。

インバウンドは国内の流通、サービス業の需要を押し上げる。2月、百貨店売上のインバウンド構成比は全売上の1割を越えた。2019年比でも47.5%増を記録、8ヶ月連続でコロナ前を上回った(日本百貨店協会)。宿泊業界も活況だ。インバウンド向け外資系ホテルの進出ラッシュが続く中、宿泊単価が急上昇、平均単価は2~3割、立地のよい地域では5割以上のアップも珍しくない。当社でも社員からの “悲鳴” を受けて23区内で1.5倍、大阪地区で1.4倍強に出張宿泊費を引き上げた。

一方、日本人の出国者数は依然としてコロナ前の水準を回復出来ていない。3月の出国者数は122万人、前年比76%増と拡大基調にあるとは言え、2019年比では36.8%減である。国際線の便数はコロナ前の9%減まで回復してきたが(JNTO)、実需がついて来ない。国内旅行も盛り上がりを欠く。JTBの見通しによると今年のゴールデンウイーク(GW)期間中の旅行者数は2280万人、前年比100.9%、とのことである。昨年のGWが新型コロナの感染症区分の変更前であることを鑑みると、その反動を織り込んでも前年並みということだ。

インバウントの拡大は歓迎だ。とは言え、消費の土台は内需である。観光業界そして観光地は、今こそ観光資源の見直し、人材の育成、インフラの整備など長期的な視点に立った地域づくりを構想していただきたい。“おもてなしは無償ではない” ことを前提とした収益構造改革がその第一歩である。百貨店も同様だ。円安に支えられたインバウンド需要はまさにボーナスであって、それが1割を越えたことは本来喜ぶべきことではあるまい。インバウンド比率の上昇が内需低調の裏返しとならないよう業態そのものの構造改革に取り組み続けていただきたい。

今週の“ひらめき”視点 4.14 – 4.18
代表取締役社長 水越 孝